魔王ベルフェモン復活

 脚本:稲荷明比古 演出:門田英彦 作画監督:八島善孝
★あらすじ
 海にたたきこまれたイクトを捜索する大たち。そこに、当のイクトらが姿を現した。
 外しようもない距離で直撃を免れていたのだ。トーマの真意はどこに?

 一方、倉田の計画はついに最終段階へ移行しようとしていた。
 トーマが完成させた制御装置を使い、ベルフェモンを大都会上空へ解き放ったのだ。あわてる羽柴長官に対し、倉田は本性をあらわす。
 そして各国にすみやかなる解体と、自分への服従を通達するよう命令した。宣戦布告だ。

 絶頂で狂った野望を振り回す倉田をこれ以上好きにはしておけない。セイバーズは決死のたたかいに挑む。
 だが、大だけはパートナー不在のため待機の憂き目に遭った。悔しさともどかしさが彼を襲う。

 持てる全力を出しつくしてベルフェモンへ攻撃を仕掛ける淑乃たちだったが、まったく効果がない。せせら笑う倉田。
 ところが、突然ベルフェモンのコントロールが停止した。トーマの仕掛けた罠である。
 彼が倉田に下った最大の理由が、リリーナの首に仕掛けられた爆弾だった。それが外れるのは、手術のときだけ。
 その瞬間を狙い、制御装置に時限爆破装置を仕掛けていたのだ。トーマの裏切りは演技だった!

 怒り狂う倉田。だが、彼にはまだ最後の手段があった。みずからをベルフェモンと融合させたのだ。
 さらにレイジモードへと変貌をとげ、ますます凶悪になったベルフェモンがセイバーズの前に立ちはだかる。

 そして、いてもたってもいられなくなった大はアグモンのデジタマを背負い、戦いの場へと走りはじめるのだった……。



★全体印象
 36話です。

 これで年内は残すところあと1回だけ。早いものです。
 そして3月中の終了となるなら全49話となり、ビデオの17巻構成(1巻は1話のみ)とも合致します。
 ということはロイヤルナイツが出てくるとして、あと10話しかないのか…うーん。
 最近スペシャル番組の侵食が朝番組にまで及んでいるので、全体的に1年の話数が目減りしているような気がします。

 さて今回はふたつのカミングアウト。
 倉田の野望全世界同時発信(たぶん)と、トーマ裏切りのフェイク確定がそれです。といっても、前回から両方バレバレでしたが。
 前者に至っては視聴者ならもうハッキリ聞いていましたからね。

 なにはともあれ、これで倉田を討つだけの大義名分は立ったことになります。ご丁寧にも自分でバラしてくれました。
 これで倉田がもっと堅実な人物だったら手も足も出なかったところです。
 もっとも、アレ自体はベルフェモンの影響が多々見受けられる行動なのですけど。

 ところがこの肝心なときに、先陣を切るべき大の姿はなく。
 誤解してあさっての方向へ突っ走って、侠気にもとる行動も取ってしまった彼が軌道修正を果たせないかぎり、勝利はありません。
 一連の決着は、残念ながら来年に持ち越しされてしまいそうな雰囲気です。弱ったなあ。

 作監はなんだかひさびさな気がする八島氏。28話以来になりますか。
 この方が描くと大は幼くなり、そして倉田はなにやら無闇に怖くなります。なんというか…目が笑ってない。



★各キャラ&みどころ

・大
 トーマが裏切ってなかったことが確定したこともあって状況がまた激変し、キレて昨日までの仲間を消そうとしたあげく自滅したという、
 まるっきりバカみたいな立場に追い込まれてしまいました。

 でも彼はなんであんなに怒ったんでしょう。ありえない前提ですが、これが淑乃やイクトだったらあんなに怒ったでしょうか?
 …どうもそれは想像できない。となると、やはり対象がトーマだったからこそなのかもしれません。
 トーマはメンバー中の同性で唯一の同年代、されど天才で能力が高く、上から語るところがある。元より、大にとっては気にくわない男でした。
 男として凄いやつだと認めてはいても、信頼してはいても、どこかに反発があった。だから信頼を裏切られたと思ったとき、
 そのわずかな蟠りが顕在化してしまったんでしょうか。

 うーん、やはり倉田に近くなっていっていたということなのか。

 このままでは、救世主どころか間抜けで終わってしまいます。名誉挽回のためには、勝つしかない。
 彼はトーマのように万能ではありませんが、その拳と熱いデジソウルだけは誰にも負けません。それを思い出せれば。

 前はなんとなく自然にできたことでも、現実の壁に気付いたとたん行き詰まってしまいます。
 ですが男の子は何度も転んで、膝をすりむいて顔を涙でくしゃくしゃにしながらも立ち上がり、男になってゆくものです。
 そういう意味で、彼は今ほんとうの男、漢になろうとしている最中なのかもしれません。

 ここで自分の弱さを、痛みを受け入れられず、他人に転嫁し続けると、倉田や羽柴のようなダセェ大人になってしまいかねない。
 まさに正念場といえるでしょう。


・トーマ
 回を追うごとに見かたを変えねばならず、まったくもって振り回されました。いちばん落ち着くべきは書いてる私自身です。
 いや、ほんとに。

 ……それにしても、妹をハッキリ人質にとられていたという、そんな直接的な理由があったとは…。

 だったらなおさら、「ちょっと待った」って言いたいです。
 まんまと倉田のハシゴをはずした作戦はよしとします。ですが、やはり勝手すぎる。仲間にどれだけ心配と迷惑をかけたことか。
 監視がきびしかったのなら、せめてイクトのときのようなサインを最初から見せるべきでした。

 それをさせなかったのは、やはり大への反発だったように思えます。
 いや、むしろ「力まかせではなにも守れない。大のやり方では勝てない。それを証明する」ために、あんな作戦を強行したとも取れてしまう。
 その気持ちゆえ、大に対してだけは手を抜けなかった。もし大になにかを伝えるなら、方法がなかったとは思えません。
 感情が作戦の意義をブレさせて、大を本気で怒らせてしまい、あんな事態を引き起こしてしまったのでは。

 彼の作戦は成功した。でも、やりかたが荒すぎた。そんな印象です。

 自分一人だけの頭で考えて、自分ひとりだけで作戦を立てて勝手に事を動かして、ハイうまくいきました、と言われても、
 仲間から見れば納得のいかないところがあるでしょう。君たちだけが戦っているわけではないのに。
 アグモンがあんなことになってしまった責任は、やはり彼にもあると思います。

 つまり、両方悪い。
 37話では、まずそのあたりから解決しないといけないのでしょう。


・ガオモン→ミラージュガオガモン
 まさに全力で演技をしていたわけか…瀬戸際のせめぎ合いだったんですね。
 よく訓練され、正確な攻撃もできるであろう彼であれば、それほど難しいことではなかったかもしれませんが。
 まして、ヤタガラモンはレベルとしちゃ格下だったわけですし。


・淑乃&ララモン
 大が戦闘不能でトーマもいないので、現場経験と年齢もあって一時的に音頭をとっていました。
 まあ、わりとすぐにトーマが復帰するんですが。
 バトルでは相手が相手だけに、いいところなし。次からはレイヴモンも参戦するし、見せ場をつくれるかどうか。

 なんかレイジモードに直撃食らってたように見えるんですが、大丈夫かなロゼモン。


・イクト&ファルコモン
 あっさり生還した野生児コンビ。後半ではファルコモンの怪我が治っていたので、数日が経過している可能性があります。
 次回ではいよいよレイヴモンに進化するようですが、このタイミングだと決め手にはなりえませんね。厳しい展開が続きます。
 この二人、快勝にはほど遠いケースが多いですし。

 …そういえば、いつのまにかタイトルにデジモンの名前が常用されなくなっています。
 だから次回のようなタイトルであっても新進化を出せたりするんでしょう。
 レイヴモンの名前がないのは、他のみんなも名前を出させてもらってないから平等にってところ?


・オペレーターズ
 ついに完全体の進化形態を披露しました……って、なれたんかい!
 ということは、倉田が事態を収拾させるのがもうちょっと遅かったら21話で見られていたってことですかね。
 倉田も長官もまったくもって空気を読んで欲しかったものです。

 しかしまあ、この二人の本職と本領はオペレート能力だし…バックアップ要員はいないと困ります。
 今回のような総当たり戦ともなれば、事情はまた違ってくるということでしょう。


・ルークチェスモン&ビショップチェスモン
 成熟期までは単なる色違いだった二体ですが、ここからは分岐するようです。ナイト同様、ロボっぽいデザイン。
 ということは、次でキングとクイーンですね。どっちがどっちへ進化するんでしょうか。やっぱり黒がクイーン?
 …まあ出てくるとはかぎらないですけど、でもセイバーズは基本的に出し惜しみをしないからなあ。

 必殺技はそれぞれ、ルークガトリングとビショップレーザー。えらくストレートです。
 しかしせっかくの新形態ですが、まるで効果をあげられていませんでした。無口なのであんましダメージ受けてるようには見えませんが。


・湯島のおっちゃん
 単独で動いていたようです。一度はアレ?と思いましたが、リリーナを救出すればトーマが戻ってくると考えたのかも。
 所長ですから、トーマの過去の事情についてはよく知っているはずです。
 トーマをノルシュタイン家のヘリが連れていったのを見て、もしやと思ったのでしょう。

 それで様子をみているうちにリリーナが来ているのを知って、原因はこれかと確保しようとした、と。
 トーマとしては、それじゃ意味が無いので捕らえるしかなかったわけですね。

  …しかしおっちゃんもトーマも連絡ぐらいしましょうよ。傍受されるのかもしれないけど。


・知香と小百合ママ
 何も言わずに、丸腰の大を危険な戦いの場にゆかせたお母さん。
 大門博士をそばで見守り、彼にとてあったであろう苦悩や挫折をずっと見てきたはずの彼女には、きっとわかるのでしょう。
 いまここで大を止めたら、息子は一生前へ進めなくなる。男には、やらねばならないことがあるとわかっているんです。

 知香はひさびさに少しだけイクトとのやり取りがありました。ほんのちょっとですけど。


・ノルシュタイン家のみなさん
 お父さんはなんだかんだ言ってもリリーナが可愛いようです。だから倉田の本性を知っていても縋ろうとした。
 今後はどんどん成長していく息子を認め、受け入れてゆく方向に変わっていきそうな兆候を見せています。

 リリーナはあいかわらず可愛いですね。もしハイブリッドになったらエンジェウーモンが似合いそうな。
 トーマのあの表情は、結果的にどう転んでも妹の期待を裏切ることになってしまうことへの罪悪感から…ですか。
 まあ、たぶん兄を全面的に信頼していて許すも許さぬもないのでしょうけど。そういう娘さんとして描かれてます。


・倉田
 狡猾な仕込みで頂点に立った後の彼は、悪い意味で子供っぽくキレやすい、ただの悪党に成り下がりました。
 たぶん、アレが本来の彼なんでしょう。今までは備えも保険も万全だったから、余裕があっただけ。
 それに臆病な者ほど、「もう恐れるものはない」と思ったとたんに気が大きくなって、馬鹿をしでかしやすいものかもしれません。

 そういえば、大門博士のことをとうとう低俗科学者などと自分に跳ね返って来そうな表現で貶しはじめました。
 博士の助手に甘んじていることが、それほどまでに屈辱だったのでしょうか。

 自分一人の都合で力を振りかざし、他者を騙し、利用し、嘲笑し、そのくせ自分をひたすらに正当化して責任を認めない。
 今は迷走している大にとってもトーマにとっても、絶対になってはいけない男の見本です。決してなってはならぬ大人の代表です。
 この男は倒すべき鏡、叩きのめすべき反面教師なのでしょう。

 そしてもはや人類の敵となった彼に、もう容赦はいりません。ここからがやっと同じ土俵です。


・ベルフェモンスリープモード→レイジモード
 てっきりレイジモードで活動開始するのかと思いきや、スリープモードのまんまで少しズッコケました。
 しかしその状態でも攻撃がさっぱり通らないので、さすがに魔王型です。栄養もバッチリ摂ってますし。エルドラディモンとか。
 アクビでやられるほうはたまったものじゃありますまい。

 で、倉田が融合してはじめてレイジモードになったのですが、ああいうことができるのにトーマに制御装置を作らせたということは、
 やっぱりデジモンと融合するのが怖かったんでしょう、倉田は。逆に言うとそのためにトーマを引き込んだことになります。
 本来、融合する以外に制御方法はなかったんじゃないでしょうか。あそこで融合を選んだのはそれ以外に選択肢がなかったからで、
 倉田にとってはこのまま転落するより、最強の肉体という鎧に逃げ込んで武装した方がましだったのでしょう。

 トーマとしちゃ、倉田にそこまでの度胸はないという見立てだったのかもしれませんが…あの場合は、融合のほうが「逃げ」だからなあ。
 もし仲間との連携がゆきとどいていれば戦力も確保できて、あの時点ですぐさま倉田の車を破壊する手はずだって立てられたはずなのに。
 自分ひとりでなんとかしようとしても、やっぱり限界があるんですよ。


・羽柴長官
 26話以来の登場。よく考えてみたら隊長よりも再登場が早いことになります。隊長はいつ出てくるのかなあ。
 そしてやっぱり倉田とグルというわけじゃなく、実績だけを見て深く考えずにDATSを切り捨ててしまっただけだったんでしょう。
 それがこの結果なわけですから、責任問題になりそうですね。更迭は避けられないんじゃないでしょうか。

 …もうちょっとこう、役所根性じゃなく現場根性のある上司が来てくれるといいんですけどねえ。
 まあ出自にかかわらず有能な人はいると思うので、単にこの人が無能なだけなのでしょうが。



★名(迷)セリフ

「国土も! 文化も! 生きとし生けるものすべてを!」(倉田)

 文化の破壊者は地球人類の敵です。
 …誰かはやいとこ、このアホをなんとかしてくださいな。


「お前だってそうだろ!? 燃えたぎる魂を抱えたまんま、苦しんでるはずだ!
 だから、一緒に戦おうぜ! 早く復活してくれ、アグモン…!」(大)


 言葉だけじゃダメなんでしょうね…。魂の叫びとプラスアルファが無いことには。


「いいえ、僕が治します。僕はあきらめない。リリーナは僕が救う!
 僕はそのためだけに、ずっと学んできたんだ!」(トーマ)


 よく言ってくれました。天才ならこのくらいはブチ上げてもらわないと。
 それにしても、ここまでの研鑽を重ねてきたのは母のことだけが原因じゃなかったんですね。



★次回予告
 あからさまな竹田作画でレイヴモン登場。アグモン復活までには…まだひと波乱ありそうです。
 といっても34話ラストでバーストモードが出てきたように、次回ラストで真のバーストモードが出ないとは限りません。
 ギリギリ年内には間に合わせてくるんじゃないかなぁと見てるんですが……さてさて。