究極パワー! バーストモード発動

 脚本:山口亮太 監督:長峯達也 作画監督・キャラクターデザイン:山室直儀
★あらすじ
 とつぜん街を覆い尽くし、人間を覚めない眠りにつかせた謎のイバラ。人間をほろぼそうと企むアルゴモンの画策だ。
 パートナーの大たちをも囚われ、途方にくれるアグモンたちの前にあらわれたのは謎の少女・リズム。
 この環境で人間が活動することはできないはずなのに……?

 彼女の正体は、アルゴモンと深い関わりを持つ人間型デジタル生命体だった。
 アルゴモンを止められなかったことを悔いながらも、立ち向かう勇気を持てずにいたリズムを助けてアグモンたちは奮闘する。
 そしてついに一行はアルゴモンの城に突入し、 首謀者と対面を果たすのだが、アルゴモンは人間を悪と断じまったく耳を貸そうとしない。
 自分さえも消そうとする悪辣を前に、リズムはとうとうアルゴモンと対峙する勇気を得た。

 アグモン渾身の必殺技がイバラを焼き焦がし、枯らしてゆく。怒りに我を失ったアルゴモンは、究極体に進化して襲いかかってきた。
 絶望的な状況にアグモンが力尽きかけたとき、パートナーの声が! イバラから開放された大が駆けつけたのだ。

 元気100倍、アグモンもシャイングレイモンへ進化して魔獣と化した元凶に立ち向かう。それでも、アルゴモン究極体は揺るがない。
 だが、アグモンたちにはまだ奥の手があった。バーストモードだ!
 炎と化した必殺の一撃が、ついにアルゴモンの真芯をとらえる。悪魔は洋上に散った。

 別れの時が来た。アルゴモンのデジタマを抱き、リズムはデジタルワールドへ還ってゆく。
 アグモンの心に、淡い想いを残して……。


★全体印象
 待ちに待った新たなデジモン映画です。
 前シーズン最後となった「古代デジモン復活」からざっと4年5か月。短いようで長かった。
 フロンティアが終わったばかりの頃は、ふたたびこんな日を迎えることができるなんて思っていなかったものです。
 いやあ、生きてて良かった(^^)
 
 さて、今回の映画は正味20分。少ない上映時間を活かすために取られた手法は、大胆な引き算でした。
 いっさいの説明どころかキャラも大幅に削っての活劇、活劇、また活劇! 絵とアクションで魅せまくる作りなのです。

 カンフー映画や怪獣映画、ロボットアニメの演出もびしばし取り入れられ、ツッコミ入れる暇もなく一気に見終われる娯楽篇に仕上がりました。
 アルゴモンとリズムの関係など、よくわからないところもあるんですがハッキリいってそんなことはどうでもいい
 デジモンを知らない人でも、これなら余計なことは考えずに楽しめるんじゃないでしょうか。

 もうひとつ注目すべき要素は、やはりクライマックスに至るまでパートナーが不在という前代未聞のシチュエーションでしょうか。
 かわりにアグモン、ララモン、ガオモンのトリオが自分の判断で走り、吠え、飛び、叫び、闘います。モン好きにはもうたまらない映画。
 前半の中華街バトルは一見どころか再見の価値ありです。気持ちいいほど動きまくり。
 特にララモンはご存知のとおり、いやそれ以上に物凄いことになっていますよ。

 残念なのは大以外のパートナーに全然出番がなかったことですが、これは仕方ないかもしれません。
 無理して出しても充分な活躍はできないし、それなら……という結論へ至った結果のでしょう。全部を大にまかせた形です。
 ただこうなるとクダモンやカメモンはやむなしとして、あぶれてしまったファルコモンがちょっと可哀相。
 …もっとも、彼ら途中参加組はデジタルワールドにいて難を逃れた代わり、事態を把握できてなかった可能性がありますけれど。
 
 監督は長峯達也氏。「冒険王ビィト」SDをつとめていた方です。02の夏映画では助監督でした。ここ最近になって昇格したみたいです。
 脚本の山口氏は同時期の35話も書いています。スケジュールを合わせるのはさぞかし大変だったでしょう。

 そして、作画監督が山室直儀氏。奇しくも上記の「古代デジモン復活」と同じ方です。
 ご覧のとおり腕の良い方ですが「ドラゴンボール」や前シーズンのときの手癖が残っているのか、セイバーズの絵に合わせていても
 どこかに鳥山テイスト(ひいては、中鶴テイスト)が残っています。ガッシュの時もかなりわかりやすかった。

 というわけですから、イメージイラストの時点で山室氏じゃないかなあと思っていたんですが……見立て通りでした。
 でも、おかげでこの映画は前シーズンとセイバーズの絵柄が絶妙にブレンドされた、なかなか希有な作画になってると思います。
  
 

★各キャラ&みどころ

・アグモン →シャイングレイモン →シャイングレイモン・バーストモード
 いつもは大の後ろにぴったりついて突っ走るイメージ(旧来主役とは真逆)なんですが、今回はクライマックスまで大が出てこないため
 その役も兼任してました。とはいえ、リズムへの接し方は男というよりはまだまだ男の子のもので、新たな一面が見られた思いです。
 特殊なシチュエーションのおかげですね。

 進化してからは、テレビと全然違う重量感のあるバトルを展開しました。
 怪獣映画とロボットアニメのいいところをうまく取り入れた大迫力決戦です。これはぜひ大画面で見て欲しいですね。
 大きさがテレビの2倍くらいありそうな演出でした。

 バーストモードになると、羽根は実体ではなくほんとうに噴射炎のようなかたちに変わるみたいですね。
 この姿になれば盾が使えるようになるので、防御力も大幅アップ。何かビームシールドかソリドゥス・フルゴールみたいですが。
 そして、最大の武器が右手に携える炎の剣。ジオグレイソードも通じなかったアルゴモン究極体を一撃のもとに葬り去りました。
 35話をみるかぎり、やり方次第ではかなりリーチを伸ばせ、飛び道具のようにも使えるみたいですね。

 勝負が決まった瞬間、ゆっくり瞳を閉じるのが印象的なんですがそこでなぜかリュウケンドーを思い出しました。

「闇に抱かれて眠れ……永遠に」

 というやつです。


・大
 最後の5分たらずだけ登場。主役がアグモンなぶん、完全無欠の兄貴・ザ・兄貴として描写されてました。
 あのアルゴモン究極体を殴り飛ばすどころかビルまで吹っ飛ばすというもう誰も止められない戦闘力。あんたはガンダムファイターか。
 このへんはもう頭で考えちゃダメなんだと思います。

 真のバーストモードもやすやすと発動させているところからみて、いくつもの試練を乗り越えた最終回後を想定してるんでしょう。
 35話とまるっきり別人みたいなんですが、それだけにテレビの今後にも希望が持てるようになってるってことですね。
 そう考えると、アルゴモンへ向けたセリフにも深いものがあると思います。

 それにしても、サーベルレオモン殴り飛ばした英パパを見た後じゃ「ありえねー」なんて思うよりも先に
 「ああ、親父に並んだんだな」という感想が先に出てきてしまう。慣れって怖いですね。


・ ララモン
 アクションに関してはアグモン以上にインパクトが強かった彼女。
 さんざん話題にされたウィンナーヌンチャクをはじめナッツシュート連射後の見栄やらふたり分かかえての垂直上昇、あげくの果てに
 あの短い手足で百烈拳+腰の入った拳打。何かものすごいワイルドになってます。演出の暴走もあるのでしょう。

 ある時点でとつぜんカンフーアクション始めるのは、ギャグ気味にあっちこっちで見られる手法です。
 それがアグモンでもガオモンでもなく、ララモンなのが面白い。海外にもっていっても受けがよさそうに思えます。

 ところであのウィンナー、打撃に使えたってことはやっぱり凍結してたんですよね。あの勢いで入ったら痛いじゃすまないな。
 それをボリボリ齧りはじめるところがまたワイルドです。肉食うんだ植物型。


・ガオモン
 マスターが側にいるときは比較的無口なんですが、いざ単独になると熱い内面がより強調されるみたいですね。
 全編にわたって活躍したアグモンやはっちゃけアクションのララモンにくらべると地味ですが、それは比較対照が派手すぎるだけで
 彼だけを見てもかなり凄いアクションを見せてくれています。中華街のバトルは特に必見。

 後半では追っ手を食い止めるために単身残るんですが、気がつけば死屍累々の上で一服していました。余裕だなあ。
 あの危なげない戦いっぷりと勝ちっぷりでおおいに面目躍如したと思いますね。

 なにやら水上バスの操縦もできるようだし、万能ですよこの犬は。


・リズム
 何か秘密があって、そのおかげで唯一逃れられた人間なのかと思いきや……なんと、彼女本人もデジモンでした。
 ただしララモンの問いを否定していなかっただけで、デジモンだってハッキリ肯定したわけじゃないんですが。

 アルゴモンとどんな関係があるのかは触れられませんでしたが、重要なのは彼女がアルゴモンに近しい立場だったことと、
 彼を止められなかったことを悔やみ、今度こそ勇気を持って立ち向かおうと決意してゆくこと。これさえ押さえておけば良いです。
 斃れたアルゴモンのデジタマを持っていく役でもあったので、今度は過ちを犯さないよう、つきっきりで育てるつもりなのでしょう。

 …もしかして、デジモンとテイマーの関係を模倣した二人組だったのでしょうか?
 危険な力を持つアルゴモンを押さえ、よい方向に使わせようとする存在としてリズムが生まれたのだとすれば、
 あんなに人間に似ているのも頷けるものがあります。一度は暴走させてしまいましたが、人が変われるのならデジモンだって変われるはず。
 今度はよい結果になるかもしれない、という希望を持たせるラストでした。

 それにしても見れば見るほど人間キャラの造形で、デジモンとはとても認識できません。
 唯一人外を証明するものは奇抜な色の髪の毛と、帽子の下に隠れていた透明な膜状の翼みたいな器官くらいでしょうか。
 もっともこの器官は飛行には役に立たないみたいなので、感覚を強化する触覚のようなはたらきをするのかもしれません。

 ちなみに服は人間と同じものみたいで、アルゴモンの電撃で破けて肌着一丁になったりしていました(ちょっとドキッとした)。
 どっちかというと、ガッシュに出てきた方がしっくりくるデザインです。

 声は矢島晶子さん。鉄板ですね。


・アルゴモン
 よく見ると異形のなかに男前な口元があって、会話するだけの知能も持っていました。
 といっても、人の話を聞かないので事実上コミニュケーションが成り立っていません。デザインの類似するディアボロモンとは
 そこが相違点のようでいて、結局何も変わらないポイントでした。なまじ気の利いた口を聞ける分だけ、こっちのほうがタチが悪い。

 究極体になった後はもはや理性が吹っ飛んで、うなり声しか発せないようになっています。完全な暴走状態。
 シャイングレイモンも単体ではバーストモードにならなければ勝てなかったので、かなりの実力者といえるでしょう。
 口の中で見開いた目からくり出す百目レーザーが気持ち悪い。

 で、リズムとは対で「アルゴ」「リズム」=「アルゴリズム」が語源みたいですね。…言われるまで気がつかなかった。
 アルゴリズムとは、ある種の問題を解決するための手順として用意されるものです。ここから考えて、
 デジモンと人間であるパートナーとの交渉によってどんな効果が齎されるのか、その命題を解き明かすために生まれたのかもしれません。
 ひょっとしたら、自然に生まれたデジモンではないのかも。
 もっとも、一連のテストを成功へ導くためにはまだまだ人間側の助けが必要みたいですが。

 そして、ギリシャ神話のアルゴスもモチーフに持つのは多数の目をみれば明白。
 何か「宇宙刑事シャリバン」に出てきたヒャクメビーストを思い出します。

 声を演じていたのは、はなわ氏。さすがにプロの声優さんにはかないませんが、予想以上に頑張っていました。
 長セリフの多い完全体バージョンは置いておくとして、究極体後の唸りは違和感のないものになっています。
 ヘタな人は唸ることも満足にできないので、それを思えば充分でしょう。
 


・アルゴモンの手下
 ゴブリモン、オーガモン、ピピスモンが確認できます。
 ピピスモンは単純に空戦をこなすために出てきただけでしょうが、ゴブリモンとオーガモンは両方とも鬼人系。
 ひょっとしたらアルゴモンへの進化ルートを持っているのかな?
 アグモンとオーガモンの顔合わせは、01の21話を思い起こさせるカードで軽く感動しました。

 いずれも十把一からげにボコられ、KOの山を築き上げていますが、デジタマに戻ってはいませんから気絶しただけでしょうね。
 なんでアルゴモンの手下をやっていたのかはわかりませんが、まあ、どうせ大した理由じゃないんでしょう。
 どこの世界にもチンピラはいるということです。

 それにしても主役系とはいえ、同ランクもしくは下位ランクのデジモンに容易くボコられるとは…。
 鍛え方がたりませんね。


・出られなかった方々
 トーマ、淑乃、イクト、ファルコモン、隊長&クダモン、おっちゃん&カメモンは出番がありません。
 最初のふたりでさえ、わずかに1カット映っただけ。完全にキャラを絞っているので、以上の方々のファンには残念な映画です。

 そのぶんアグモン、ララモン、ガオモンが大活躍なので、差し引いても見る価値はあると思いますが……。
 大が活躍するのはまあ、いつものことですけど。



★名(迷)セリフ(記憶がたよりなので正確ではありません)

「アチョーーーーーーーーーー!」
「あたたたたたたたたたた!! ほぉ〜〜ッ」(ララモン)


 お約束。
 この場面が出た時の映画館は爆笑の渦に包まれていました。無理もない。


「私にも一本もらえるかな?」(ガオモン)


 ばかに爽やかでフテブテしい一言。クールだぜ。


「この拳にかけて……ここは通さん!!」(ガオモン)

 かと思えばこんなセリフも。熱いぜ。
 声を演じる中井氏が「僕ってなんてかっこいいんだろう」と思ったシーンってここでしょうか?


「兄貴と一緒にいると…楽しいんだ!」(アグモン)

 すべてを肯定することはできないかもしれないけれど、すべてを否定することはない。
 拳で語り合おうとさえせず否定することはないのです。頑迷なアルゴモンには届かない言葉ですが。


「だがな、人は変われるんだ! あやまちに気づいて、未来へ進むことができる!
 それが…進化だぁあああ!!」(大)


 「あやまち」というのが、たぶん35話の暴走をさしているのだと思います。そう、兄貴は必ずふたたび立ち上がる。
 映画とテレビを合わせて視聴すれば、より深い見かたができるというわけですね。
 楽しい映画でした。スタッフGJ!