戦士ベルゼブモン、舞う!

 脚本:田中仁 演出:貝澤幸男、三塚雅人 絵コンテ:貝澤幸男、小村敏明 作画監督:仲條久美
★あらすじ

 リリスモンの毒爪にやられ、死に瀕するバアルモン。

 彼を救うため、ファラオモンの助言を受けたタイキはコードクラウンの力で「復活のピラミッド」を呼び出します。
 戦士が傷を癒すというこの場所に宿る女神の力をダウンロードし、バアルモンに与えれば救えるかもしれません。
 しかし、そのためにはクロスローダーの機能をフルに発揮せねばなりませんでした。デジクロスが使えません。

 その上、バグラ軍は次から次へと手勢を繰り出してきます。
 不利な条件の中総出で迎撃するクロスハートでしたが、リリスモンの呼び出したムゲンドラモンは恐るべき怪物。
 あと一歩で完了というところで状況を知ったバアルモンがタイキを押しとどめ、仲間の救援に向かわせました。

 ところが、あらゆるエネルギーを吸収してしまうムゲンドラモンはさらにハイムゲンドラモンへと変化。
 X4Kをもってしても大ピンチに陥ったとき、バアルモンが身を呈してクロスハートを救います。
 真の戦士となって散ったバアルモンでしたが、女神の力が奇跡を呼んだのか。ベルゼブモンとして転生しました。
 彼の助けを受けた一点攻撃により、クロスハートはギリギリの勝利をもぎ取ります。

 戦い終わって、ベルゼブモンはいずこかへ去ってゆきます。
 再会を予感するクロスハートの一瞬の隙を衝き、リリスモンがゾーン間の扉を強制開放。
 タイキたちは跳ばされてしまうのでした。果たして、リリスモンの言う「最悪のゾーン」とは……?



★全体印象

 14話です。今回から2クール目に突入。

 これまでの流れを受けて、ハッキリしたことがあります。
 スタッフは本気で、デジモンアニメの企画というものを根っこから見直し変えようとしてますね。
 その顕われがデジクロスであり、進化段階の区別撤廃であり、一部デジモンのデザイン変更なのだと思います。
 保守的なままではこの先10年、20年とシリーズを続けてはいけない。変わらなければならないというわけです。

 それが旧来のファンに受け入れられているかどうかはともかく、意気込みは十二分に受け取っていますね。
 スタッフの規模も歴代最大ですし、デジモン未経験かつ実績のある三条陸氏を構成に起用したのは英断でした。
 それでいてキャラデザインは旧作に近づけるなど、持ち味として残して良い部分はキープしていますし。
 ノリに慣れてきたことで、かなりの良作に育ちつつあると肌で感じることができてます。

 今回はそんなクロスウォーズスタッフが総力を結集し、サンドゾーンの決戦をこれでもかと盛り上げた流れでした。
 演出と作画陣についてはもうおなじみですが、ここへ来て脚本に田中仁氏が加わっています。
 田中氏は「ワンピース」で名前を見かけた方。今度はこっちからか。

 これにより、サンドゾーン篇は三部構成こそ維持されましたが(三部構成自体はレイクゾーンで一度崩れてましたね)、
 その実三話すべてで脚本担当が違うという、クロスウォーズ的に前例のない形式となりました。
 おそらくですが、休止を受けて製作体勢を補強、または一度立て直すためにやったことなのだと思います。
 次からどうなるか見れば、また別の想像ができるでしょう。あくまでも想像ですけど。

 いずれにせよこの三部作にはなんというか、一種異様なテンションが横溢しています。
 絵と演出の両方からこうも連続して捩じ伏せられるなんて、デジモンアニメではなかなか珍しかったことですね。
 嬉しい話じゃないですか。



★各キャラ&みどころ


・タイキ

 シャウトモンを通し、なぜそこまでしてバアルモンを救おうとするのか改めて強調してました。
 無論バアルモンには恩があるし、もはや敵対する理由もありません。けれど普通なら、それだけじゃ弱い。

 でもそこに死へ瀕した生命があり、手を差し伸べられるところにいる限り、彼は行動を起こす男なのです。
 仲間になれると一瞬でも思ったなら、何とかしようとしてしまう。それは今までたびたび示されてきたことです。
 そんなタイキに惹かれたからこそ、クロスハートの皆だって不利な状況に立ち向えるのでしょう。

 それでも救えないものがある……と見せかけて、彼の努力と苦しい状況を折衷した落としどころになってました。
 タイキがあそこまでやったからこそ、バアルモンも「こいつの為なら体を張れる」と思えたのでしょうし。
 その気持ちと復活のピラミッドの力が合わさり、あの転生へ繋がったのです。

 誰かを助けたい、という気持ちに関しての考え方は「仮面ライダーオーズ」の火野映司にもちょっと近いですね。


・アカリ&ゼンジロウ

 状況が状況なので前者は目立ちようもありませんでしたが、後者はギャグ的にちょこちょこ目立っています。
 サンドゾーン篇のアカリの役割は実質、12話のおねだりシーンだけ。なにげにお色気担当でもあるのか。


・シャウトモン

 このところ戦闘以外での見せ場があんまりありませんでしたが、今回は重要な役目を担ってました。

 彼はきっと思い出したのです。
 自分がこうしてここに立っているのは何故なのか。今こうしてタイキと共に戦えているのはどうしてなのか。
 それは、タイキがそういう男だったから。見ず知らずどころか、人間でさえない自分を助けてくれた男だから。
 自分たちの事情を棚上げしてまで、夢につきあってくれた男だから。

 その男がいま必死になって、誰かを助けようとしている。そう、自分のときと同じように。
 オレはいったい何を迷っていたんだ。こういう男だから、こんなタイキだからこそ惚れたのではないか。
 ならば今は全力で支えるまで。バアルモンがどうとか、細かいことは後で考える……
 あの180度転換は、そういう心理のもとで為されたものだと思います。

 これを経ることでバアルモンの心情も補強され、クライマックスへ繋がってゆくことになりました。


・クロスハートの仲間たち

 デジクロスできないのを逆手に取り、フルメンバーで大立ち回りを演じました。こうしてみると大所帯だなあ。
 合体もいいですが、こういう軍団バトルもやっぱりいいもんですね。作画が大変そうだけど。
 大きいのから小さいのまで、外見バラバラの人外がワーッと突撃する場面はますます鬼太郎みたいでした。
 画としてそこから得た着想はありそうです。

 とはいえスコピオモンはともかく、ムゲンドラモン相手にバラバラでは歯が立ちません。
 シャウトモンX4K登場以後は、戦闘後まで行方不明になったメンバーも結構います。まあ仕方ないけど。
 チビカメモンあたりでさえ今のところ、超限定条件でしかデジクロスできないし……

 そうそう、ちゃんとバステモンもついてきてましたね。声も前のまんまでした。
 でも初陣だというのに、何故か戦闘中は全くセリフ無し。単独の見せ場さえありませんでした。膝枕だけ。
 こうもいるだけ参戦だと、いろんな事情を勘繰りたくなっちゃうなあ。


・バアルモン

 力しか求めていなかったことが、ハッキリ語られました。
 やっぱり彼は一人で生き抜くことしか知らず、強くなり続けることが戦士だと思い込んでいたのかもしれません。
 エンジェモンはそんな彼に資質を見いだし、真の戦士としての心構えを叩き込もうとしたのでしょう。
 けれど、なかなかその教えを理解してもらうことができず──成長を見届けられぬまま逝ってしまった。

 それでも、師への恩義は悔恨と同じくらい強く、ずっと彼の心に残っていたようです。

 仲間を諦めず、命を狙った自分にさえ共にゆこうと手を差し伸べるタイキの姿は、そこに共鳴するものでした。
 彼は今こそ気づいたのです。真の戦士とは、護るべきもののために存在するものなのだと。
 力はその想いを実行するための手段でしかなく、それだけでは決して掴めないものがあるのだと。

 道を踏み外して一時は捨て鉢になっていた彼ですが、最後の行動はそれと次元を異にするものです。
 おそらく生まれて初めて、助けたいと思った誰かを守るために動いたのでしょう。まったく自然に。
 もうどうでもいい、死のうと思って死ぬのと、生き方を貫いた結果死ぬのとは根本的に違うと私は思います。

 真の道を取り戻し、歩みはじめた最初の一歩で死ぬことになりましたが、女神の加護はちゃんと働きました。
 それは、彼が真の女神の戦士になれた証拠なのだと思います。

 …それにしても、シャウトモンX4Kを庇ったあの後ろ姿はもろにウィザーモンでした。意識してるなぁ。
 よく考えてみたらなんであの仮面被ってるんだとかツッコミもできますけど、まあ演出ってことで……


・ベルゼブモン

 バアルモンが転生を遂げ、新たな名と姿を得て生まれ変わった姿。
 旧デザインと違って最初っから翼が生えており、銃も含めて以前よりメカメカしい外見となりました。
 なんとなくハイブリッド体っぽくなった気もする。

 この転生に、女神の力が大きく関わっているのは疑いないところでしょう。
 手段を示し、不利な条件を作り、ギリギリまで盛り上げてこそ奇跡ってものが映えます。その好例でしたね。
 バアルモンは女神の力で体を再構成し、記憶を保持したまま新たな肉体を手に入れたのでしょう。
 まさに女神転生というやつです。

 リリスモンは侮っていましたが、必殺のデス・ザ・キャノンは一撃でハイムゲンドラモンの頭を半壊させた上
 その場に残り続けるという凶悪な威力でした。吸収されない特性でもあったのでしょうか。
 実力的にX4と互角のものがありそうなんで、一度姿を消したのはTPO考慮ですかね。それとも照れ隠し?

 どっちにしても、まだデジクロスがあります。タイキの言う通り、早い段階で再登場するでしょう。


・ファラオモン

 タイキにコードクラウンの開放と復活のピラミッドの情報を伝え、そのまま消えました。
 消え方からみて死んだわけじゃないと思うんですが、眠りにはついたのかもしれません。

 状況からみて、彼はもともと復活のピラミッドの番人だったのでしょう。
 しかしバグラ軍の進攻で戦士団が全滅したため、ピラミッド自体を分割してコードクラウンを隠したわけだ。
 あんな姿なのは、その前後に誰かにやられてその残留思念が動いているとか、そんな感じでしょうか。
 いや、元からああなのかもしれないけど……


・リリスモン

 レイクゾーン篇とあわせて見ると、彼女の特徴がより良くわかります。
 ダイペンモンやムゲンドラモンなど、ヘビー級の敵を自在に操る一種の猛獣使い的側面があるんですよね。
 デジモンでありながら、ある意味ですごくテイマーっぽいところもある。
 そうは言っても、他者の力をとことんまで利用する卑劣な性格を際立たせる助けにしかなってないんですが。

 そうそう、ゾーン間の扉を自前で開くこともできるようですね。これでハッキリしました。
 ラストのアレがあんな形なのは暴走してたからで、普段はもっと安定した道ができるのでしょう。
 三元士は全員同じことができると考えてよさそうですね。

 となるとマッドレオモン同様、倒せばコードクラウンを手に入れられそうです。
 クロスローダーを使えない代わり、直接体内に取り込んで制御しているんじゃないでしょうか。
 そういう所含め、本作のデジモンはなにげに凄くデジタルっぽいです。

 ときに、スコピオモンをあっさりバラしたところからみて普通に腕力もあるような気が……
 アカリのときは何で手間取ってたんでしょう。万一コードクラウンが傷ついたりしたらヤバいからかな。


・ムゲンドラモン&ハイムゲンドラモン

 リリスモンが呼び出した巨大戦竜。
 その巨体とあらゆるエネルギーを吸収する特性は、もはや戦術兵器といって過言ではありません。
 かなり以前から登場してる古参デジモンですが、ボスキャラとしての存在感は全く衰えていませんでした。
 それどころか、主人公たちの追い詰められ度ではダークマスターズ時代をも凌いでます。面目躍如ですな。

 ハイムゲンドラモンは、そんなムゲンドラモンがさらにパワーアップした色違い。
 一瞬カオスドラモン来たーーーっ!? と思わせておいてええええここまで来て何それ!? という、
 微妙にガッカリ要素も備えた姿です。まあ、ゲームに出てるのかもしれないけど。
 しかし何故こんなカオスドラモンと丸被りなのを出したんでしょうか。謎だ。
 いや、それ言ったらベルゼブモンとか同じ名前なのに全然違うぞって話になっちゃいますが……

 謎といえば、首についてる紫の輪っかが気になってしょうがありません。何だろうアレ。
 普通に考えて、リリスモンの命令を受ける受信装置ってところでしょうが……
 あと中身があったのも謎です。確かこいつ、100%フルメタルじゃなかったでしたっけ?
 よく見たらムゲンドラモンの時はムゲンキャノンが無いし、なんかいろいろ設定変わってませんか。

 弱点はおそらく体内。
 外からではバーニングスタークラッシャーをブチ込んでも無傷でしたが、デス・ザ・キャノンを
 口の中に撃ち込むと意外にあっさり装甲が割れました。駄目押しはスターソードによる押し込み。
 守りが強固なヤツはどこかに弱点があるものらしいです。

 それだけに「デトネイター・オーガン」に出てくる敵機動兵器を見たときには唖然となったもんでした。
 口の中に叩き込んでるんだから、ウソでも効いたフリしようよ。いくら格下相手だからって……


・スコピオモン

 どこにあんな数が隠れていたのか、リリスモンの指示で大挙して復活のピラミッドを襲った方々。
 なにしろ頭数があるので、バラバラの戦いを強いられたクロスハートを苦戦させてましたが結局は有象無象、
 最終的に全員ムゲンドラモンへ吸収されてしまってます。またこんな扱いか。

 ちなみにあの頭目は苛立ったリリスモンにぶった斬られて死亡しました。味方に殺された数の方が多いです。
 ……バグラ軍でヒラの兵隊をやるのは命懸けですな。ほぼ死亡フラグにしかなってねえ。


・復活のピラミッド

 戦い疲れた女神の戦士たちを癒していたという場所。
 どうやら、このピラミッドと戦士団はセットで一つのシステムを形成していたようですね。デジタルだ。
 戦士として認められるってことは、この女神に認証を受けるってことでもあるんでしょう。
 タイキがダウンロードへ至れたのも、要するにアカウントを貰ってたからってわけだ。

 アナログで考えるなら、バアルモンの転生は女神の祝福といえます。
 それでありながら悪魔の名と姿なのは、厳しいことを言えば殺し屋時代の十字架なのかもしれません。
 仕事とはいえ、たぶん相当のことをやってきたはずです。



★名(迷)セリフ


「よし、オレが指揮してやる! こんな高いところにいるよりマシだ!」
「バ、バリアをバリバリしてる…!」(ゼンジロウ)

 前者はデジクロス不可のまま迎撃、という状況で。
 この前向きだか後ろ向きだかわからん微妙なところが印象的です。
 後者はムゲンドラモンがバリアを食いだしたときのセリフ。五割ぐらいの確率でアドリブだと思います。


「放っておけるわけない…! だって、お前はオレを助けてくれた!
 お前はオレの仲間だ! 今戦ってくれているみんなも、同じ気持ちのはずさ!
 オレはあきらめない! だから、お前もあきらめるな!」(タイキ)


 いろいろスッ飛ばしてますが、実際に皆はタイキを信じ、文句一つ言わずに大軍へ向かっています。
 不満をもらしたのがシャウトモンなのは、タイキにとっての第一のパートナーは自分というプライドもあったのかも。
 ある種、さっきまで敵だったのにそこまでして助けてもらえるバアルモンをやっかんでたのかもしれません。

 その彼も、他ならぬ自分がそうして助けてもらったのだと、このセリフで思い出すことになりました。
 言ってることはメチャクチャですが、タイキじゃしょうがないというわけです。


「なんでもねえぜ! 敵のほうはオレたちに任せとけって、言いに来たんだよ!」(シャウトモン)

 で、ここに繋がるわけです。言葉をあまり弄してないだけに、かえって心に残る場面でした。


「行くんだ!! お前は仲間を失うな! いいな、タイキ…!」(バアルモン)

 クロスローダーを抑え、念のこもった一言。込められた想いが、タイキの心を大きく動かします。
 ここで初めて名前で呼ぶのは、なかなかに反則です。


「……やっとオレにもわかったような気がするぜ……
 力を求めるだけが戦士じゃない…… そう、やっと…オレにも……そうだ……
 オレにもやっと、わかったような気がする……
 力は仲間のためにある……! その絆こそが、戦士の光! オレにも、やっと……!」(バアルモン)


 この場面で見せたバアルモンの表情は目でしかわかりませんが、それで充分でした。
 あの瞬間、彼は心の底から思ったに違いありません。オレもあの中で戦いたい。誰かのために力を尽くしたいと。
 その気持ちが底力となり、真の戦士への道を開いてゆきます。


「オレは……オレは、女神の戦士に、なれただろうか……」(バアルモン)

 死に際より。流れ的には直前に真の戦士としての心に目覚め、一度死すことで過去を清算したことになります。
 何故かキュアパッションを思い出したのは秘密。


「フ……オレはここまでで充分! あとは……」(ベルゼブモン)
「あとは、任せなぁぁっ!!」(シャウトモンX4K)


 敵は最大武器を失い、頭部が半壊の状態。あとはどうすればいいか──すでに阿吽の呼吸です。
 戦いの後、ベルゼブモンは羽根を一枚残して消えました。また死んだのかとビビりましたが、去って行っただけのようで。




★次回予告

 ゲゲーッ! 転生しすぎのラスボスが来たーっ! 今度のルーチェモンはなんだか善人(?)っぽいぞ。
 初登場となるキュピモンやプットモン、ガーゴモンに久々のペガスモン、シャッコウモンと天使・聖獣系が目白押しです。
 ピッコロモンやプッチーモンら妖精型もこの範疇なんですね。元はリリモンもそうだったのかな?

 ボスキャラも初登場のスラッシュエンジェモンなんで、これは次週が楽しみになってきました。