謎のサイバーランド! 鋼の街の美少女

 脚本:米村正二 演出:土田豊 作画監督:竹田欣弘
★あらすじ

 第四の国にやってきたタイキたち。
 未来的な都市には何者の気配もなく、バグラ軍の兵士たちもデジモンの姿をした人形ばかり。
 不可解の中、一同は建物の片隅に謎の少女を発見します。その名はルカ。しかし、ドルルモンは少女に疑惑を抱いていました。
 一度だけ感じた妙なデジモンの気配が、ルカのいるあたりで消えたままだったからです。

 果たして、ルカは第四のデスジェネラル・スプラッシュモンの分身に操られる人形でした。
 クロスハート/ブルーフレア連合軍の内部から引っ掻き回し、時には一服を盛って骨抜きにしようとします。
 ドルルモンは確証を持てないままこれを次々と阻止するのですが、どうしてもルカの尻尾を掴むことができません。
 しかもスプラッシュモンは仲間と離れた隙を狙い、ドルルモンを捕らえてしまいます。

 その頃、またも人形らに襲われたタイキたち。
 切り抜けたところで眼前に現れたのは、何と捕まっているはずのドルルモンでした。
 人形たちを率い、容赦のない攻撃を仕掛けてくる彼の真意とは?



★全体印象

 ようやく落ち着いてきたので再開しました。38話です。
 脚本はヴァンパイアランド篇以来の米村氏。相変わらず独特の美麗さで攻める竹田作画に、土田氏のキレのある演出が光る
 半ばギャグ篇とも言えそうな内容でした。かなりシュールな描写もあります。

 また、今回と次回はあらすじの通りドルルモンにスポットが当たった筋書き。
 ゴールドランド篇ではバリスタモンにお鉢が廻ってきているので、ここへ来て古参メンバーが脚光を浴びている形です。
 たぶん、噂の「アレ」への仕込みでしょう。何にせよ、目立つキャラに幅が出ているのはいいことです。
 動くキャラが減ってくると、どうしても展開のバリエーションが狭くなってきてしまいますからね。

 これで本編の出来がよければ何の問題もないのですけど、そこは残念ながら問題ありと言わざるを得ません。
 まずルカの存在意義です。わざわざあんな姿で出しておいて、まさかそこに何の意味も無いとは思いませんでした。
 実は大筋の起伏が少ないので、何か目を惹く要素を入れたかったのでしょうけど……
 最後のドルルモンも明らかに偽物で、タイキを騙せそうにないのも早々に読めてしまいますね。

 ドルルモン自身にしても、米村氏のプッシュにいささか無理のある場面が散見されます。
 多少の無茶をしてでもメインへ持ってくるだけならいいんですけど、やり方がどうも上手くないというか…
 唐突感が拭えない感じです。マグマゾーンの米村の異名は伊達じゃないというのか。

 もろもろの問題に最も被害を受けた人物は実は別にいると思うんですけど、それはまあ後述ということで。




★各キャラ&みどころ


・タイキ

 次回へのタメの意味もあるのか、ひたすら宥め役に廻っている印象。
 少々お人好しに過ぎる言動も見受けられますが、このへんはまあ狙ってのことかな。
 誰がやっても彼のキャラだけはあまりブレないのは、シリーズ構成が積極的に立ててるおかげでしょうね。


・クロスハートの仲間たち

 ドルルモンを除いて全般的に地味です。米やん的に使いやすいのか、キュートモンが頭ひとつ抜けてる程度。
 脇メンバーがさっぱり出ないのは出番を構成回に絞りがちなせいなのかもしれませんけど、寂しいものがありますね。
 特にドルルモンが目立ってると流れがヘンになるのは、たぶん気のせいじゃないと思います。

 35〜37話で目立っていたメルヴァモンも、今回はさすがに控えめ。
 それでも大胆な必殺技をかましたり、インパクトはあります。もはやスパロウモンの専属。
 超進化+デジクロスという切り札がある以上、必ずしもX5になる必要がない流れになっていますしね。

 …それにしても誰やねん、あの技にゴーサイン出したの。いや笑いましたけど。ええ。
 でも姐さんのくせにイロモノな、そんなメルヴァモンは嫌いじゃあないぜ。


・ドルルモン

 今回のほぼ主役。
 もとバグラ軍という設定が今になって出てきたのは当然、次回への地固めなわけですけれど
 この設定、他では実質あんまり意味がありませんね。古巣の施設に詳しい、って言い出したのも唐突だし。

 何よりルカの気配に違和感を憶えたのが彼ひとり、という展開にかなり無理があります。
 正式に設定を付与されたメルヴァモンや、情報戦に強いモニタモンら以上に勘が働く描写なんて無かったですし。
 せめてスプラッシュモンが彼にだけ気づかせるよう、わざとその近場で気配を残したとか裏付けがあれば…
 あれだと、彼が利用されたのが完全な場当たりに見えてしまいかねません。

 その意味では、なぜか彼だけがルカを追いかけていって孤立する流れも相当アレではあります。
 いろいろ入れられない部分もあるんでしょうが、不自然さが前に出るレベルに到達するのは拙いかもしれません。

 
・ネネ

 彼女も前回の煽りを受けてか、今回はびっくりするほど目立ってません。
 ギャグシーンでは印象的なカットを残しますが、本来のキャラとズレている上にイメージ画像ときています。
 ってか、予告に使われてた大半が単なるイメージとは思わなんだ。


・キリハ&ブルーフレア組

 こちらはもっと目立っていません。タイキとの温度差が出てる程度。まあ、こういう回もある。
 そのかわり次回ではちょっとカッコいいところを見せるので、存分に語るとしましょう。


・ルカ

 タイトルに出ていながら、キーキャラでもなんでもなかった方。まさかの扱いです。
 しかもやったことといえば人間離れしたドジ(実は確信)でタイキたちを振り回し、デマを流したことだけ。
 ぶっちゃけ、仮の姿とはいえ人間キャラとして起こす必要すらありません。ハグルモンやカプリモンで足ります。
 それでもあんな姿になったのは、これはもう作画スタッフの趣味としか思えない気がしますね。

 あげくに正体バレバレで、バレバレなりの付加価値もありません。ヒジョーに残念なキャラです。
 正体がワンオフとはいえ、ただのドリッピンだもんなぁ…別の意味で騙されました。
 かといって彼女自身にもうちょっと何か加えると話の軸がブレますし、何のためにこんな姿にしたのやら…
 疑われないようにするためなら、むしろ人間の姿にしないほうが自然ですらあるというのに。

 いや、趣味じゃしょうがないんですけどね。スプラッシュモンの趣味かもしれないし。自分の姿に似せてる。
 でもアンドロイド美女型デジモンなんて未開拓の領域ですし、どうせならデジモンがよかったかも。
 セイバーズ映画限定とはいえ、リズムみたいなのもいるんですし。
 まあいろいろ書きましたが、よーするにせっかく可愛いんだからもっとうまく使えよって話でした。

 声は金田朋子氏。クルモンですね。
 奇矯な演技が強烈なボケによくマッチしてました。あの声は一応、偽装天然をやらせてもハマります。


・スプラッシュモン

 第四のデスジェネラル。水を自在に操り姿を変えられる他、物理攻撃無効のスキルを持った強敵です。
 ただ本人はどちらかというと直接戦うより、姿を隠しての撹乱が得意みたいですね。能力を思えば納得。
 この38話ではまずキュートモンに化け、ドルルモンを騙しています。

 性格は陰湿そのもので、標的の疑念や不安を煽って悦に入るというデスジェネラルきっての外道。
 もろもろの描写からみて、ザミエールモンからさえも嫌われていそうです。ヤツも残忍でしたが、
 それでも自分自身が戦い、使えそうな部下は迎え入れるところがありました。
 しかしこちらは次回タイキに看破される通り、自分しか信じていません。バグラモンへの忠誠も怪しいところ。

 戦い方にもどちらかというと相手を挑発したり、小馬鹿にしたような態度が目立ちます。
 また相手を窒息させたりするような、苦しみが長引く類の攻撃を好んで使う傾向があり、性格が出てました。
 次回でキリハに使った技も頭を真綿のように締め付けるもので、これも陰険な性格をよく体現してます。

 ところが彼、せっかちなのか早い段階で視聴者にルカの素性をバラしてしまいます。
 たとえ正体をハッキリ見せていなくても、あの時点で見る人が見れば関係性までバレバレになってる。
 これじゃあ話が広がりようもありません。実際、私にはあそこで流れがほぼ読めてしまいました。
 そして結局、その通りになってしまっています。

 声は緑川光氏。
 最近は悪役を演じることも多く、たいてい外見はイケメンだけど本性は外道というパターンです。
 氏のせいじゃないのですが、なぜか私が嫌いな悪役をアテていることが多かったりしますね。


・ドリッピン

 スプラッシュモンが作り出した水の精霊。早い話がヤツ自身の端末みたいなものです。
 赤、桜色、黄色、瑠璃色などが存在し、その中で最も高等なのは瑠璃色。ルカに入ってたヤツです。
 ホエーモンらデジモンを模した人形兵士の稼働に使われていたものは呼称不明ですが、
 汎用だからそれほど手はかかってないでしょう。スプラッシュモン的にも一番作りやすいはずです。

 赤と桜色の効果については何とも言えません。なんせ想像でしか語られていない。
 黄色はドリッピンというより単なる液体ですけど、相手を痺れさせる効果を秘めています。

 どれも特殊工作向けの能力ですが、単純に敵を攪乱するためのものではないというのがミソですね。
 半ば以上はスプラッシュモン自身の趣味の産物でしょう。誰もいない場所で延々一人遊びをしていたのでしょうか。
 ああ、タイキたちをやたら気合入れて迎えたのはそれもあるのか……久々の来客でしょうからね。
 

・新生バグラ軍のみなさん

 母船であるホエーモンを筆頭にアンドロモンとシールズドラモンの姿が見えますが、実はみんな人形。
 水系というモチーフを裏切る機械系だったのは良かったんですが、親玉ともどもそこまで止まりな印象を受けますね。
 強さ自体もそれほど大したものではなく、やられるのが前提みたいな連中でした。



★名(迷)セリフ


「あたし、怪しくないことだけが取り柄だったのに…!」(ルカ)

 ゲストキャラ(?)からのエントリー。全方位ツッコミ待ちガイルみたいなセリフです。
 本人はともかく流れ的にも演出にも、あまりに怪しすぎる。こんだけ怪しいと逆にミスリードを疑いたくなります。
 割とそのまんまでしたが。


「先生って誰だよ…」(キリハ)

 ルカを泣かせたドルルモンにツッコミを入れるシャウトモンとネネへさらにツッコミ。珍しくノリのいいセリフです。
 別にそれほど大したもんでもないんですけど、とりあえず印象には残りました。


「ぐはっ!! …と、言うとでも思ったかい? そんな攻撃が、この体に効くものか!」(スプラッシュモン)

 ドルルモンの攻撃を文字通り、受け流したときのセリフ。
 相手の期待通りのリアクションをしておいてから崩す、非常に性格が出ている言い回しですね。
 いずれにしても、物理的な技しか持たないドルルモンにとっては相性最悪の敵でしょう。



★次回予告

 初見の時点ですでに失敗臭が醸し出されていたスプラッシュモンの作戦には、涙を禁じ得ません。
 あのタイキにあんな作戦で勝負を挑むなんて、はじめから無茶だったんや……

 ところで、デジメロディが「ルカ」モンだったのは何かの偶然なんでしょうか。それとも語呂合わせ?