クロスハート分裂の危機! 水虎将軍の卑劣なワナ

 脚本:米村正二 演出:三塚雅人 作画監督:大西陽一

★あらすじ

 メタルティラノモン軍団を率い、容赦なく仕掛けてくるドルルモン。
 ところが彼以外を全滅させると一転、ドルルモンはバグラ軍の動向を探るための偽装行動だったと語ります。
 これをあっさりと許したタイキにキリハは腹を立てて別行動へ入り、ネネも戸惑いを隠せません。

 スプラッシュモンの次の標的は、そのネネでした。ドルルモンの姿から本性を現すと彼女のクロスローダーを奪い、
 動きを封じた上で今度はその姿を借りてタイキたちの前に現れるのでした。
 偽のネネに言われるまま、ビルの中に踏み込んでゆくタイキたち。途端にビルは大爆発を起こします。

 タイキの死を確信したスプラッシュモンは、続けてキリハを仕留めようとします。
 しかし、キリハはタイキが偽物だとすぐに看破。ライバルゆえ、タイキの事はよく知っているのです。
 そして、キリハを直接襲おうとしたスプラッシュモンを止めたのはシャウトモンたち。タイキは生きていました。

 タイキはドルルモンの忠告の時点からすでに、スプラッシュモンの裏をかく意図を秘めていたのです。
 本物のドルルモンも、ネネも、キュートモンとリボルモンの活躍ですでに救出されていました。
 怒ったスプラッシュモンは本気を出し、巨大な水の虎となって襲いかかってきます。

 たとえ策に敗れても、物理攻撃を無効にしてしまう水の体は厄介。ここでも道を切り開いたのはタイキでした。
 シャウトモンDXの技による高エネルギーで、スプラッシュモンを蒸発させる策を見いだしたのです。
 かくて、ついに第四のデスジェネラルも倒れるのでした。

 自分を信じ抜いたタイキに、ドルルモンは改めて謝意を述べます。
 連合軍の結束はこうしてまたひとつ強まったのですが、次なる戦いでは予想もつかぬ事態が待っているのでした…



★全体印象

 39話です。脚本は前回に続いて米村氏。作画と演出は安定株で、絵については前回よりだいぶ薄味になりました。

 さて今回では、スプラッシュモンの作戦の破綻と彼自身の破滅までが描かれます。
 しかしながら一泡食わされたあとの逆襲という形ではなく、最初っから見抜かれ裏をかかれていた流れで、
 結果的にスプラッシュモンの小物っぷりを強調することになってしまっていました。

 ああなってしまっては、いくら直接戦っても強いところを見せたって何もかも手遅れ。
 今回のタイトルはむしろ「サイバーランド壊滅の危機! 赤いジェネラルの恐るべき罠」じゃないでしょうか。
 …そういえばヴァンパイアランドの時もむしろ「死ぬなロップモン!」だったなぁ。

 今回は前回とあわせ、ドルルモンとタイキらの絆がより一層確かなものになるエピソードです。
 それを米村氏が担当しているのは、マグマゾーンでの仲間入りを描いた経緯を思えばごく当然でしょう。
 ただ、氏のドルルモンはプッシュの仕方にいまだ唐突なところがあるんですよね。普段より口が悪いし。
 それでいてバトル自体では活躍しておらず、ややスッキリしないところではあります。
 バリスタモン同様、後半に主役回があるだけ恵まれてるんだからあんまり贅沢なことは言えませんけど。

 謀略などでは崩されない絆をここで強調してみせたことにより、次回がより活きてくる流れでもありました。
 ここでこれだけやっといて次にアレかいという意見もありましょうが、だからこそという考え方もあります。



★各キャラ&みどころ


・タイキ

 12話あたりから見せるようになったゴーグルを手で弾く仕草により、閃きの人というイメージが前に出ますが
 彼の真に恐ろしいところはかの八神太一以上の冷静さと、腹芸のできる老獪さです。ほんとに中学生かこいつ。
 ルカをいけしゃあしゃあと庇いながらその行動を注視していたとは、全くもって食えん男だ。
 こと策略に関しては、もう完全にスプラッシュモンを手玉に取っていました。格が違うとはこのことか。

 とはいえ意図的にキリハやネネの別行動を煽ったり、少々無茶をしすぎなところがあります。
 分散した方が敵のシッポをつかみやすいと踏んだのでしょうが、あそこまでゆくとだいぶ予知能力の域。
 知性派の難しいところはそこで、やり過ぎると殆ど特殊能力化しますし、手を抜くとなんちゃって化します。
 さじ加減をどう取るかは、こうした人物を描く上で常に気を配っていなければならないことなのでしょう。

 また、ドルルモンへの言葉にブレが見受けられるのもちょっと気になりました。
 あのセリフがひとつの仕込みではないかと予想していた自分にとっては、いささか肩透かしだったかも。


・クロスハートの仲間たち

 バトルが終盤に集中しているので、派手さは無いながら細かい活躍がちらほらと見られます。
 バリスタモン特製のダミーバルーンや捜し物の達人リボルモン、裏方に廻れば滅法強いキュートモンと、
 むしろサブメンバーの良いところが出ていたように思われます。

 バトルでは切り札のDXは当然として、牽制役のジェットメルヴァモンが目立っていました。
 ハートブレイクショットはやっぱり胸から出るのか…連射すると弾丸状になるのは演出の一環でしょうか?


・ドルルモン

 前回はかなり出番が多かったのですが、今回は前半捕まっており、救出された後も姿を消していることが多く
 あんまり目立ってません。むしろウソみたいに影が薄い。
 スプラッシュモンには相当の借りがあるはずなので、何らかの形でリベンジをして欲しかったのですが…
 相手が物理無効スキルを持っていたのはネックですね。補助に廻っても意味があるとは思えなくなる。

 ラストシーンのアレは彼らしい不器用な感謝…なんでしょうけど、やはり少しカッコ付け過ぎかも。
 個人的にはもうちょっと砕けたヤツというイメージなんですが。


・ネネ

 タイキにある種振り回されたあげく分断され、スプラシュモンに捕まるという受難の回でした。
 サイバーゾーン篇の彼女は妙に目立ってこそすれ、いいところはあまりありません。相方らの方が活躍してる。
 タイキの意図とは違う行動を取ったので、まるっきり転がされっぱなしではありませんでしたけど。


・キリハ

 こちらはタイキへの奇妙な信頼感を発揮し、スプラッシュモンへの反転攻勢へ狼煙を上げる役でした。
 ただ途中まではタイキと違い、思いっきり感情で行動してそうに見えるのは彼らしいところ…かもしれません。
 何かがおかしいとは思ってたんでしょうが、ハッキリ気づいたのはタイキの偽物が出た時だと思います。
 それだけスプラッシュモンの演技がお粗末だったってことですが。

 それにしても、あの照明弾だか手榴弾みたいな偽のデジメモリはどっから手に入れたんでしょう。
 バリスタモンが作って、いざという時何かの役に立つかもしれないとタイキが渡していたんでしょうか?
 だけどそう素直に受け取るとも思えないんで、自前で入手してたと考えるのが一番妥当ですかね。


・スプラッシュモン

 ルカを使っての策略がことごとく外れたあたりから予感はしてましたが、だいぶ残念な人でした。

 物理無効という超強力なスキルを持ちながら策を弄してその策に溺れ、やっと真の力を出しても遅きに失し、
 何もかもが裏目に出た感じです。その策も他人への成りすましも客観的にお粗末なものが多く、これまた残念。
 自分以外誰も信じていないと言いつつ、バグラモンの寝首をかく気ゼロなのも残念です。

 強さはともかく、キャラの格としてはデスジェネラル最低ランクでしょう。
 次のオレーグモンが予想を裏切る狡猾キャラだったので、よけい際立って見えてしまいます。

 こういう知性派って、上にも書きましたけど実は知謀で敗れたらその時点で格が決まってしまうんですよね。
 予想以上の力で引っくり返されるんならともかく、知略のぶつかりあいで敗れるという形が一番まずい。
 その瞬間、もう何をしようと自分の土俵では戦えなくなるので失点を取り返すことはできないのです。
 取り返すチャンスがあるとしたら、それこそ主役級じゃないと無理。

 だから策略でタイキに文字通り水をあけられた時、すでに彼の運命は決まっていたといえるのです。

 まあ、逆にだからこそ策だけではなく、物理無効を持つという二段構えになっていたのかもしれませんが。
 馬脚を表してみずから戦いはじめた次の瞬間に排除される知性派悪役もいることを思えば、
 彼はまだ頑張った方かもしれませんね。


・ルカ

 もう回想にしか出てないんですが、まだ書くことがあるので項目を置きました。
 いや、本当に出てないんですよね。38話の段階で瑠璃色ドリッピンが戻っちゃってるんで。
 だから、事実上は38話のみのゲストキャラだったことになります。

 うーん、勿体ない。正体を現したんなら、現したなりの使い方がありそうなもんなんですが。
 たとえばあの姿から凶悪な戦闘形態に変形して、先鋒として襲いかかってくるとか。
 それをドルルモンに討たせるようにすれば、多少は溜飲も下がったんですが……尺の問題がなぁ。

 時にようやく思い至ったんですが、彼女の名前はロシアの水の妖精「ルサールカ」から取ったのかもしれません。
 調べてみたところ、ルサールカは別名を冗談女、くすぐる者、誘拐者と言われており、そちらでも合致します。
 その美貌で男を惑わせ、踊り狂わせて殺してしまうのだとか。おそロシア。
 この手の妖精のお約束で、美しい姿と同時に醜悪な姿も伝わっている二面性が興味深いところでしょう。

 まあ要するに、残念な使い方だったねという話です。
 もちろん彼女があんなだったことで、よりスプラッシュモンの一人遊び感が強調されてはいるのですけど。


・ドリッピン

 爆発性のある黒色ドリッピンの他、同じ黒色でありつつ地面を変化させ、対象を閉じ込める個体も登場しました。
 人形どもに取り憑いていたのも、どうやら黒色のように見えます。技の媒介をする紫色も見受けられました。
 本当にバリエーション豊かです。結局は全部スプラッシュモンの端末なんですが。

 でも端末というわりには、どこで何が起きているのか伝わってないようです。
 命令通りに動くというだけで、情報を共有できるわけじゃないみたいですね。
 正確にはあの部屋にいれば可能だと思うんですが、どこにいても伝わるわけじゃないみたいです。

 それでもサイバーランドの現地民には通用したみたいですが、今回ばかりは相手が悪すぎました。


・新生バグラ軍のみなさん

 前回ラストからメタルティラノモンが加わっていますが、薙ぎ倒される役に変わりはありません。
 最終的にはドリッピンたちが全て戻ってしまったので、たぶん棒立ちのまんま残っている駆体もあるはずです。
 想像すると少々ブキミな光景だ。しかもあの街、タイキたちが行っちゃったら他に誰もいないんでしょう?



★名(迷)セリフ


「あ、そう」(タイキ)

 いっしょに行動するというネネに。
 恐ろしく淡白な一言で、やけに印象的です。見る人が見れば、この時点でもう何かがおかしいと気づくはず。
 彼は確かにどっかしら淡白な男ですが、こういう言い回しはまずしません。
 ネネも前後からその違和感を察知して、とにかくタイキの真意を確かめようとしていたのかもしれませんね。


「タイキは体の具合が悪くても、決してオレ一人で行かせるようなヤツじゃない…!
 ネネたち仲間を助けるためなら、なおさらだ!」(キリハ)


 タイキに化けたスプラッシュモンの正体を看破して。
 彼は今でもタイキの理想に同意しているわけじゃないと思いますが、タイキが本気だということは知っています。
 そしてその本気がどれほどのものかも認めているのです。ライバルキャラの面目躍如といえるセリフでしょう。

 そんな考え方の相違を超えた、ある種不思議な信頼を見抜けなかったのはスプラッシュモンの認識不足ですね。
 誰も信じていない彼からすれば、見抜く方が無理なのかもしれませんけど。


「本物のドルルモンなら、絶対に裏切らない!」(タイキ)

 信頼感を示すセリフですが、実は9話を思い返すと矛盾が生じている言葉です。
 思い出してみましょう。あの時、タイキは「また裏切るかもしれないぞ」と言うドルルモンにこう返していました。
 「仲間のためなら、いくらでも裏切ってくれ」と。
 それが仲間のためであれば、時に苦渋の決断をすることも辞さない男でいてくれと言っていたように思います。

 しかし今回ではそもそも裏切りそのものを否定しているため、ここに「?」となった次第です。
 おまけに9話を書いているのは同じ米村氏。うーむ。

 だから個人的には「本物なら、何も言わないままあんなことはしない」ぐらいが妥当ではないかと愚考しています。


「スプラッシュモン! お前は寂しいヤツだな」(タイキ)
「つまり、あなたは独りですべてを動かしていた…!」(ネネ)
「オレにはわかる。お前は誰も信じていない。自分の部下さえ信じられない。信じられるのは自分だけ…!
 だからこのサイバーランドには、お前だけしかいない!」(キリハ)


 ジェネラル全員から痛烈なダメ出し。といっても、ネネは補足程度のことしか言ってませんけど。
 キリハの言葉も痛いですが、タイキの先制パンチが実質的には一番効いてる気がします。
 スプラッシュモンの方が「なにぃ!?」と思わず訊き返してしまうほどに。
 その水虎将軍さんは直後に思いっきり開き直り、その本性を全開にしてゆきます。


「そうだ! キサマに見せてやる! オレたち仲間の絆の強さを!」(メタルグレイモン)

 どさくさに紛れてかなり熱いことを言っています。
 だいぶ連合軍の水に馴染んできたと見るか、それともキャラぶれと見るか。


「フッ…やっぱりお前はバカなやつだ。バカがつくほど正直で…仲間想いで……最高のヤツだ…!」(ドルルモン)

 自分を信じ抜き、偽物の存在をも看破したタイキに。
 ドルルモンが他人に向ける賞讃としては最高レベルのもの…ですが、やっぱり何か言い回しが堅い気がします。
 もうちょい崩してもいい気がしてなりません。決して大きな問題ではないですが。



★次回予告

 オレーグモン登場。あっさり操られるシャウトモンたちに「え…ちょ、え?」となったのは、
 なまじっか今回の内容が「信頼」だったからだと思います。その意味では効果絶大でした。
 この金賊将軍、ザコっぽい風貌のわりにかなりの曲者ですね。