キリハにささやく! 峡谷の土神将軍、魔の誘い

 脚本:米村正二 演出:貝澤幸男 作画監督:小松こずえ

★あらすじ

 第六の国、キャニオンランドにやってきた連合軍。
 支配者の土神将軍・グラビモンは大軍を擁し、手ぐすね引いて待ち構えています。
 正面からの消耗戦を避け、いかに大将首を取るか思索するタイキたちでしたが、キリハが作戦を提案。
 いつになく殺気立った彼に一抹の不安がよぎりながらも、夜の峡谷を舞台に戦いが始まりました。

 果たして作戦どおり、敵が誘い出されてきます。
 しかし、キリハの戦い方は味方をも顧みない無茶なものでした。軍団の相手をタイキたちに押しつけ、
 手薄になったグラビモンの本陣へ殺到します。遂に必殺の一撃が炸裂し、全てが終わったと思われたとき、
 高らかな笑いが響きました。グラビモンと思われていた姿が消えてゆきます。影武者!

 本物のグラビモンはその後ろ、さらなる大軍とともに待ち構えていました。
 全ては自陣の奥深くへ連合軍を誘い込み、一網打尽にするためのワナだったのです。
 なおも突貫しようとするキリハでしたが、ジークグレイモンでさえ返り討ちにされてしまいました。
 タイキの機転で脱出には成功するものの、キリハと青の軍は囚われてしまいます。

 やがてグラビモンがキリハの前に再び現れ、彼を言葉巧みに追い詰めはじめました。
 キリハをデジタルワールドに呼んだのは、あのバグラモンだったというのです。
 しかし、バグラモンの障害となりうるジェネラルは今や工藤タイキただひとり。その軍門に下り、
 今また敗れた負け犬に用はない。容赦のない言葉がキリハの胸を抉ります。

 敗北。それは、キリハが何よりも恐れるものでした。心の奥深くに突き刺さった瑕そのものなのです。
 そして、彼の取った決断とは……



★全体印象

 42話です。脚本は再び米村氏。プリキュアやライダーでも書いてるし、今一番忙しい脚本家のひとりじゃないでしょうか。
 スイーツゾーンにヴァンパイアランドと、貝澤氏とのタッグが多い方でもあります。
 作画監督には22話以来となる小松こずえ氏が参加。書いての通りあんまり作監はやりませんが、やはりその腕は確か。

 しかしながら、どう書いたもんか考えあぐねたこともあって感想を書くのが遅れた一篇です。
 夜戦をテーマにしたかのような薄暗くも鮮やかな画面運びとテンポを再重要視した中盤から終盤にかけてのバトルシーン、
 全篇へ流れる言いようのない緊張感に不安という具合に、見どころのある回ではあるんですがこれは全部演出の仕事。
 テイマーズやフロンティアでSDをつとめ、鬼太郎でも辣腕をふるった貝澤演出のなせるわざです。

 逆に脚本はキリハのあまりといえばあまりな進歩のなさと、もはや醜態といっても過言ではないラストに辟易させられます。
 41話でカッコいいところを見せたそばからこれでは、迂闊に褒めるのがアホらしくなってきてしまう。
 ここまで株が乱高下する人物は今どき珍しいでしょう。普通は少しずつ上がってゆくか横ばいなのがデフォです。
 ま、そこいらは後でじっくり語るとしますか。

 グラビモンも知将を謳ってはいましたが、実際に取った作戦はいささか大味にすぎるものでした。
 貝澤演出の見事さに酔いそうになりますが、総合的にはトホホな回です。次回以降の盛り上がりに繋がればいいんですが…



★各キャラ&みどころ


・タイキ

 普段は控えめだけど締める時は締める人、という長所がよく出てはいました。キリハと真逆です。
 なまじっかブレが少ないぶん、キリハがアレになればなるほどこっちの有能さが目立ってきてしまうという状態。
 正しく引き立て役です。思えばサイバーランドでも示し合わせてたわけじゃないので、ダシにした恰好かも。

 かといって、彼が異次元レベルの有能さを発揮した回は最近だと39話ぐらいしかないんですよね。
 繰り返し必要以上に持ち上げられているわけでもない。安定してます。だから余計に以下略。

 でもまあ、こう頻繁にキリハの尻拭いじゃ大変でしょうね。それがある意味得意分野なんだから別にいいんでしょうけど。


・クロスハートの仲間たち

 米やんのお話でいいところは、軍団バトルを割と高い率でやってくれることです。演出の比重が大きいですが。
 そんなわけで今回はあちこちでデジクロスしたり、バラで戦ったりでいっときも目が離せません。
 時折これ、デジクロスの意味あんのか? な場面もありましたが展開が速いので、いちいち気にしてはいられないほど。

 そのかわり個々の印象が薄めというか、キリハのアレっぷりがある意味目立ちすぎて他が全部霞むんですが。
 おかげで、キュートモンが何の前触れもなくバリアを張った場面に噴くほど印象を受けていながら忘れるところでした。
 お前、そんなもんいつ使えるようになったんだよ。もしかしてスイーツゾーンの時……? 

 デジクロス時に集まってゆく仲間たちの影は、いまのところこの回独自の演出です。
 流れに緩急をつけつつ、全体のテンポ強化に貢献していました。


・ネネ

 タイキやメルヴァモンら共々、キリハのアバウトな戦い方と無茶振りにひどい目に遭わされた人。
 気のせいか、米やんの担当回では毎回扱いがぞんざいな気がします。これといって特筆すべき回が無い。


・キリハ

 「まるで成長していない…」

 安西先生が総統メビウスの声でコメントを述べてしまいそうなほど、マイナス方面に振れまくった人。
 …そういえば、キリハの中の人である草尾氏は昔桜木花道をやってましたね。奇妙な一致だ。

 さて、これまでで恐らく最大の試練なだけに、アレっぷりも逆方向に最大限のオーバードライブをかましています。
 前回みせたタイキのお株を奪うほどの大活躍は一体なんだったんだ。
 右上ではキリハが暴走と出てましたが、暴走してんのは彼自身よりも脚本という気がしないでもありません。
 グラビモンの言葉といい、ここまで酷いとむしろわざとやってんじゃねえかという気さえしてきます。

 試練と書きましたけど、ノリ的にはむしろやらんでもいいことに頭から突っ込んで自爆したように見えてしまいます。
 なにしろ作戦があまりにも大味すぎる。敵が意図通りに動いてくれなかったらどうするつもりだったんでしょう。
 戦い方も乱暴すぎるし、文字通り前回とは別人みたいです。まるで発作でも起こしたかのよう。

 実際、一週を置いたとはいえ心境があまりにも変わりすぎています。そこへもってきてあのテンポですから、
 こっちは感情を入れる間もなく置いてかれるしかありません。
 置いてかれたら置いてかれたで「ああ、恐らく今はこういう気持ちだからこういう行動を採ってるんだな」
 と思えればいいんですけど、別にそういうわけでもないからなぁ……

 あげくの果てに最後がアレでしょう。デジモンでライバルといえば割と一回は通る道ですが、
 その中では一番情けないです。ヤマトは悩みも明確でガブモンとの絆が背中を押してくれた面がありますし、
 トーマは最初っから裏切ってなどいませんでした。彼はどうでしょう。ちょっと厳しくないですか。

 それでも怒りとか失望より呆れが先に来るのは、元々こーゆー挙動が多い人だったのが幸いしてますね。
 これまでもしょっちゅう独断で行動してますもの。最後までまともに同行してたケース自体がほとんど無い。
 ちょっとシャレにならないとはいえ、そういう意味ではショックは少ないかもしれません…が……
 …やっぱりちょっと唖然としちゃってます。あまりに学習してないので。脚本も。

 確かにここまでアレだと、いっぺん誰かが目の前でどうにかなるしかないのかもしれません。
 次回でどうやらデッカードラモンがその役を負うようです。やはり彼の見立ては正しかったといえるでしょう。
 ほっとけないという意味で。


・ブルーフレア組

 次がアレなせいか、デッカードラモンがとにかく目立ってます。
 どっちかというと、質量を活かして丸ごと突貫兵器になってる場面ばっかり印象に残りますが…
 つうか、あれだけ発作を起こしていてもジークグレイモンにはなれるんですね。
 ジークというのが勝利という意味なら、今の状態でもアリということなんでしょうか。

 せっかくサイバードラモンが一瞬目立ったと思ったら、またまた負け戦でした。
 青の軍の明日はどっちだ。いろんな意味で。


・グラビモン

 デスジェネラルきっての知将だという触れ込みで登場しました。予告やVジャンプで言ってた。
 今回見せたのはあらすじに書かれている通り、大軍勢そのものを囮に使って連合軍を誘き寄せるというもの。
 でも、タイキが相手だったらそうそう通用しないでしょう。まず小競り合いをしながら意図を探るはずです。
 キリハならまんまと乗ってくると見切っていたのかもしれませんけど。根拠は置いといて。

 キリハを誘導してジェネラル同士の相討ちを狙っているであろう作戦にしても、頭がいいというよりは
 相手の弱みや落ち込んだメンタルにつけ込んだ精神攻撃が得意と表現するのが正しいやり方でしょう。
 しかも相手がキリハ。一番メンタルが弱い手合いを例に出されても、ちょっと、その…困ります。
 それよりは、ジークグレイモンを一撃でノした強さのほうを評価したいですね。

 しかしやられるのがわかってて囮にするなんて、部下を消耗品としか考えていないことがよくわかります。
 少なくとも身内は大事にしていたっぽいオレーグモンとこれまた真逆です。こんなんばっかか。
 どうも、デスジェネラルは全員仲が悪いんだろうなと思われてなりません。アポロモンが最後の希望です。
 それも、今後の描写ではどうなるか全然わからんのですけど……

 声はまさかの中原茂氏。「聖戦士ダンバイン」の主人公ショウ・ザマや「ガンダムW」のトロワ、
 それに人造人間17号と、声質通り線が細めの役をやることの多いベテランです。
 確かにグラビモンは細すぎるぐらい細い姿をしてますけど、まさかこの方が来るとは思わなんだ。
 「聖闘士星矢」で策略の神闘士アルベリッヒを演じていたこともあるので、悪役もいける口ではあるんですが。

 余談ですが、よく見るとデスジェネラルの中の人の皆さんは黒田氏と沖氏を除き、全員がガンダム乗りです。
 ドルビックモンはシュバルツだしザミエールモンはジュドー、スプラッシュモンはヒイロ、
 オレーグモンはモンド、そしてグラビモンは上に書いた通り。
 モンドだけ大変微妙ですがいちおう乗ったことはあるので、かろうじてカウントできなくはないでしょう。

 まあそれ言ったら連合軍なんてカティ・マネキンにフレイ・アルスター、ドレル・ロナだし
 そもそもマネキンつーか高山氏はそもそもTWO-MIXのボーカルでもあるわけで……

 キリがないので強制終了とします。


・バグラ軍のみなさん

 ケルベロモン、ヒポグリフォモン、ウェンディモンと獣系がメインのようですね。
 増援で大量登場したサジタリモンとケンタルモンも、獣系にカテゴライズされるべき類でしょう。
 アサルトモンもいれば完璧でした。

 もちろん存在としてはやられ役以上のものではないんですが、やはりその数は圧倒的。
 戦いは数だよ兄貴、とまたガンダムへ話題を振りそうになってしまいます。

 その他、アヌビモンがなにげにアニメ初登場しています。ただし存在感はやっぱり極薄。


・スパーダモン、ルナモン、コロナモン

 ところで彼らがいつのまにかどこにもいない件について。
 ゴールドランドの出口で別れたとしても、いったいどういうふうにキャニオンランドに着いたのでしょうか。謎だ。



★名(迷)セリフ

「今回の作戦に必要なものは、ただひとつ……強さだ! そう、絶対的な強さ…!」(キリハ)

 やり取りなど一部略。自信満々に言ってますが、見てるほうは早くもたいへん不安になってくるセリフです。
 キリハが作戦を立てるというのだけでも不安なのに、こうまで発作を起こしてるのでは無理もありません。
 しかも誰ひとりツッこみませんがこの作戦、半分ぐらいヴァンパイアランド篇の焼き直しです。

 困ったことにこの人、最大戦力の片割れなんだよなァ…だからこその自信なんでしょうけど。
 ゴールドランド篇での作戦がうまく当たったんで、ちょっと浮かれてたんでしょうかね。


「オレはっ…! オレはまだ負けん!」(キリハ)

 20分と立たないうちにこれ。
 こんな状況下でこんなセリフを吐いて許されるのは、主役級でもトップランクに来るキャラだけでしょう。
 そうでなければ、もはや決定打を浴びるフラグにしかなり得ません。

 すぐさま頭を切り替え、撤退戦に転じたタイキの描写が並行してるので余計に情けなさが際立ちます。
 グラビモンもタイキの機転と決断力については評価していますし。


「嫌だ…!
 オレは負けは嫌だ…! 負け犬なんかになりたくない…!
 オレは強くなるっ…! 強くなるんだっ……!! 強くなるためなら、なんだってしてやる!」(キリハ)


 そして次に来るのは、豪快な迷走。迷いすぎて鹿児島へ行くつもりが、北海道まで行ってしまいそうなほどです。
 タイキが彼に感じていた黒さの正体こそ、この過去に突き刺さったトラウマそのものなのでしょう。

 バグラモンとの関係はどこか大魔王バーンとヒュンケルを思い出させます。いろいろとだいぶ違うけど。
 ヒュンケルはキリハよりもっと大人だし、何よりネタにされるぐらい不死身で強かったですから。
 もっとも、ヒュンケルがキリハぐらいの頃は割とあんなもんだったのかもしれません。



★次回予告

 デッカードラモン最後の大一番。目立ってきたと思ったら死ぬなんて、あんたは何処のカシオスだ。
 それでも退場の花道を作ってもらえるだけ、まだマシな方なのかもしれませんけど……
 そーいえば、デッカーグレイモンも二、三回しか見てないや。三回目ではもうボコボコにされてましたし。