きずなのX7! グラビモンとの壮絶バトル!!

 脚本:吉田玲子 演出:土田豊 作画監督:梨澤孝司
★あらすじ

 数多くの苦難を経て、ついに現れたシャウトモンX7。その力はグラビモンを圧倒し、あっという間に打ち倒してしまいます。
 ところが、デスジェネラルを倒したのに次の国への道が開きません。調査をハイビジョンモニタモンにまかせ、
 連合軍は一度場所を移動します。

 グラビモンの城に潜入したハイビジョンモニタモンは、そこで怪しげな扉と恐るべき光景を目にしていました。
 なんと部下が持ち帰った破片から何事もなかったかのようにグラビモンが再生し、命令を下しているではありませんか。
 しかもタイキたちへの通信が中途で途絶します。グラビモンらに囚われて人質にされてしまったのです。
 仲間の奪回のため、グラビモンを今度こそ打倒するため、連合軍は結束も新たに立ち向かいます。

 キュートモンやチビカメモンらの奮戦とX7自身を囮に、ハイビジョンモニタモンを救出するキリハとネネ。
 しかし城中を捜しても、グラビモンのコアは見つかりません。決め手を欠いたまま、じりじりと追い詰められるX7。
 合流し、タイキに代わってX7とともに向かうキリハでしたが、部下を取り込んだグラビモンは恐ろしい強さでした。
 地に伏すキリハに、グラビモンは自らコアの場所を明かします。それは、タイキ自身の腕の中!

 グラビモンを倒すためには、タイキを殺すしかない……
 しかし、今度こそ揺るがぬ絆をと望むキリハはこれを拒否。降伏を決意します。
 それでも目が死んでいない彼に危険を感じたグラビモンはこの場でキリハを始末しようとするのですが、
 何とその前にタイキが飛び出しました。あわててコアを排出するグラビモン。
 この千載一遇を逃す連合軍ではありません。グラビモンは倒れ、ついに最後の国への道が開きました。

 タイキの体を張った行動が、みんなを救ったのです。
 ギリギリの勝利をもぎ取った一行は、固い決意でまた一歩を踏み出すのでした。


★全体印象

 44話です。
 脚本は吉田氏。ひとつのエピソードを二人の脚本家が担当するのはデスジェネラル篇初です。
 作画は人物こそ普通でしたが、戦闘や演出は良好。X7の戦いぶりを存分に堪能することができます。

 まずはX7の圧倒的な強さを示し、続いてグラビモンの奥の手とそれに頼らぬ強さ、頭脳を見せた上で、
 最後に仲間の力が切り札となる流れでした。前2話にくらべ良い意味で引っ掛かりが少なく、素直に見られます。
 キリハとタイキたちの関係の変化を示す意味でも、確かに必要な回だったと理解することができました。
 どーせなら42話と43話も吉田氏にやってほしかったんですが、もう手遅れ…ですね。

 このキャニオンランド篇は言わば、キリハ三部作ということになりました。
 42話が挫折篇で43話が迷走篇、そしてこの44話が決着篇といえましょう。かえすがえすも出来が惜しまれる。
 グラビモンも強かったんですが、キリハの影にいろんな意味で隠れてていまいちキャラが立ってませんでした。
 今回に限っては無限再生の仕掛けに、そこへ逆に仕込まれた勝利へのフラグと良くできてたんですけども。

 ともあれ、これで連合軍に内部的不安要素はほぼ消えたといえます。
 これからの敵にはそれをも圧倒しかねない力と、信念というか精神的強さが求められますね。
 さて、果たしてラスボスは誰なのか。



★各キャラ&みどころ

・タイキ

 キリハに隠れてここしばらくは控えめでしたが、最後にとんでもない行動に出て全部持ってゆきました。
 しかも考え無しにやったことではなく、ちゃんとグラビモンの行動も読んだ上でというのがポイント。

 とはいえ、これも危険な賭けではあるんですよね。
 彼は連合軍の中核です。もしグラビモンが自身を犠牲にしてもタイキを討てればそれでいいという男なら、
 無駄死にに終わっていたかもしれません。無論、そうじゃないということは皆さんご存知の通り。

 いや、それを見越していたとしてもなお危険です。
 グラビモンのコアが出た後、仲間がとっさに動いていなかったら? コアを仕留め損ねたら?
 そもそも、瞬時にコアを分離できるという保証なんてどこにあるというのでしょう?
 そう、決して計算づくだけで出来る行動ではありません。

 やはり彼はクロスハートで最もイカレた、最も危険でロックな男なのです。
 リミッターの外れた信頼というのは、その心を持つ者であれば誰でも惹かれてしまうのかもしれません。
 ある意味では彼こそ、誰もが決して放っておけない男なのでしょうね。


・シャウトモンX7

 素のグラビモンでは全く歯が立たない強さでしたが、無限再生プラス強制デジクロスによる強化という
 反則技コンボにより、デビュー戦にしてはいささかワリを食う展開になってしまってます。
 逆に言えば、それぐらいしないと追い込めないくらい強いのだとも言えますが。

 また、パワーと防御力は飛躍的に上がっているもののスピードはそれほど上がっていないように見えます。
 過去のデスジェネラルであっても、一対一ならザミエールモンあたりは翻弄できそうですね。
 ハイグラビティプレッシャーを食らっても合体が解けないあたりは流石といえば流石。

 とはいえ速射性と攻撃力をあわせもつ技を備え、一瞬のチャンスを逃すことはありません。
 グラビモンの核を撃ち落としたのは彼らの一撃です。


・グレイテストキュートモン

 キュートモン、ドンドコモン、ナイトモン、ポーンチェスモンズ、バステモン、チビカメモン、ジジモンが
 デジクロスした姿です。グラビモンの手勢の前に現れ、時間稼ぎを行いました。
 突然の登場でいささか面食らいましたが、バンクもしっかり用意されています。

 必殺技はグレイテストソニックウェーブ。キュートモンがもともと備え持つウルトラソニックウェーブを
 極限まで強化したと思われるもので、その攻撃力は本物です。一撃で多数の敵を消滅せしめていました。
 しかし防御力が極端に低く打たれ弱いという、致命的な弱点を抱えています。
 個体としては最弱に近いキュートモンを基本にしているため、そのへんの伸びがイマイチなのでしょう。

 最終的にはキュートモンだけが分離し、残りメンバーで形成される胴体があわてて後を追い姿を消す顛末でした。
 連合軍としても弱点はよくわかっていたのでしょう、抑えとしてベルゼブモンを同伴させています。


・クロスハートの仲間たち

 上以外ではハイビジョンモニタモンとメルヴァモンの出番がありますが、前者は捕まってしまった上に
 案内した場所が結局ハズレだったので、あんまり活躍したとはいえません。
 後者についてはキリハと、その前に飛び出したタイキを咄嗟に助けるという短いながら殊勲賞ものの活躍をしてます。
 勘がいいという設定なので、タイキの行動が一瞬前に読めたのかもしれませんね。


・ネネ

 ハイビジョンモニタモンを偵察に出したり、キリハとともにその救出にあたったりしています。
 そのさなか、久々にコスプレによる潜入技能を発揮していました。
 気のせいか、前よりさらに磨きがかかっているような……

 デジモンたちは案外と目が悪いというか、個体識別が苦手なところがあるのかもしれませんね。
 だとすれば、彼女の行動はそこを突いた戦術と言えます。ほとんどギャグだけど。


・キリハ

 前回までと本当にうって変わり、タイキたちと息の合った連携を見せるようになっています。
 自身が留まってネネを先に行かせるあたりや、タイキに申し出てからX7に乗り、グラビモンと戦うくだりは
 その最たる描写でしょう。これまでだったら考えられなかったような展開を連発しています。

 また非戦闘時においても素直な笑顔を浮かべたり、それを指摘されて照れたりと変化が顕著ですね。
 端緒となったものはタイキへの礼と、その器を初めて面と向かって認めるセリフでした。
 部下にしようとしていたくらいですし、最初からタイキを買っていたことに変わりは無いんですけれど。

 これらの変化を描写した上で今度はタイキへ危害を加えることを拒否し、グラビモンを否定させることで
 逆転へ繋がる布石そのものになりました。確かに正面からではグラビモンに勝つことはできませんでしたが、
 かわりに絆を切り札へ変えることができたのです。間接的に勝利へ貢献したといえるでしょう。

 …これで前回までが納得いく展開だったら文句なしだったんだけどなぁ。
 それに、彼は彼で独自の道を貫いてほしかったと考えるファンも少なくはないんじゃないでしょうか。
 結局のところ、途中で扱いが変わった人物といわれても反論はしづらいと思います。
 このあたりは、漫画版のほうが上手いことやってるように思えますね。


・ブルーフレア組

 メインどころはほぼ合体してたので描写がないんですが、サイバードラモンが結構活躍しています。
 また、ガオスモンが大量に再登場してました。やっぱり死んだわけじゃなかったんですね。
 忘れたころにまた出てきそうだ。

 その他、滑り込みでドラコモンのコメントがあります。キリハの受け答えが相変わらず柔らかい。


・グラビモン

 無限再生能力が無かったら実はあっという間に死んでいた人。
 確かに、あんまり打たれ強いようには見えませんが…再生キャラの悲しさですかね。

 でも中盤からは連合軍の戦術に全てカウンターを用意したり、強制デジクロスによるパワーアップで
 X7をも寄せ付けないパワーを手に入れたりと、決して不死身だけの男ではないことが描写されました。
 確かにこの44話がなかったら、ほとんどキャラが立たないまま退場することになっていたと思います。
 アポロモンの描写しだいでは、事によるとデスジェネラル最強の称号を手に入れられるかもしれません。

 が、彼は土壇場で致命的なミスをふたつ犯しています。
 ひとつは優位に立っての油断とキリハへの侮りから、自分でコアの場所を明かしたこと。
 黙って粛々とX7を追い詰めてゆけばいずれは戦闘不能に至らしめることができ、たとえコアの場所を明かしても
 もはや攻撃されることはなかったでしょう。少なくとも、あんな早い段階で明かすべきではなかった。

 もうひとつは、タイキという男を完全に読み損ねたことです。
 どのような理由があったとしても、たとえ僅かでも、タイキにコアの情報を与えるべきではありませんでした。
 打開の可能性が少しでもあれば、そこへ全力で賭けるのが工藤タイキという男です。
 加えて、グラビモンには仲間を守るためにあのようなギリギリの行動に出るという思考が理解できません。
 連合軍の戦術を読んでいた彼ですが、最も失敗してはならない時に最も大きな読み違いをしてしまったようです。

 要するに、彼はコアの場所を自分で喋った時点で詰んでいたのですね。
 消える間際の絞り出すような悔恨は、九分九厘掴んでいたはずの勝利を逃してしまった無念からでしょう。
 キリハの覚醒ともいえる変化が、結果的に彼の死を誘発したことになります。


・バグラ軍のみなさん

 新たにサンダーバーモンとクロスモンの姿が確認されています。
 後者は(厳密には前者も)アニメ初登場だと思うんですが、印象に残るのはグレイテストキュートモンに薙ぎ倒される姿ばかり。

 それでも要所で喋っていたり、前回までと違って「兵士」という雰囲気は残していますね。
 一番喋ってたのはアヌビモンで、ハイビジョンモニタモンを捕らえる有能さを発揮した他、後半のバトルでは敗れたものの、
 キリハの問いに答えることなく消えてゆきました。彼らなりの意地でしょう。



★名(迷)セリフ


「タイキ! …裏切ったオレを仲間だと言ってくれて……ほんとうに感謝している…」
「…すごいヤツだな、お前は」(キリハ)


 デレその1。タイキのああいった行動はサイバーランドの時も一応強調されてるので、ブレはありません。
 少なくとも、タイキは一度仲間だと言った相手はたとえ考え方が違っても、最後まで見捨てることがないわけで。
 前回で戦ったのもあくまでキリハを止めるためであり、中途で戦闘放棄を勧告しています。
 キリハもそこは認めているわけですが、今回で初めて素直なコメントを出しました。

 結局、タイキという柱が大きく乱れない限りクロスウォーズの根幹が揺らぐことはないのです。
 路線変更後も彼とシャウトモンだけは大きく変わらなかったので、安心して見ることができました。


「グラビモン! お前の言う強さなど、オレにはもう必要ない! 弱いと言うなら言うがいい!」(キリハ)

 仲間を犠牲にしてでも勝つ強さ。彼はここで完全に非情との訣別を果たしたといえます。
 それは同時に己の弱さを認め、改めて強くなろうとする第一歩でもありました。

 しかし、彼が求めていたものは本来あくまでも強くあることだけ。誰かを積極的に切り捨てるものではなかったはずです。
 ブルーフレアに本当の意味での脱落者が見当たらない(ゴーレモンでさえ残存している)ことを考えますと、
 手段を選ばないバグラ軍とは違うものをブルーフレアの皆が見いだしていたのかもしれません。

 要するに、何だかんだで慕われていたんでしょう。厳しさと悪辣は似て非なるものです。
 だからたとえ友軍と戦うことになっても、キリハとともにあろうとするグレイモンたちのような例が出るのかもしれません。


「大丈夫だ! 今は降伏しても、いずれ必ず逆転できる! お前がいればな…!」(キリハ)

 自分を気にかけるタイキに。デレその2です。
 ほんとうに極端な人ですが、やっと素直になったかぁという感慨もそれなりに御座いまして。
 しかもこの前向きな投降が、実はグラビモンの破滅へと繋がっていくことになります。


「気に入らんな…! キサマは自分の愚かさを自覚する必要がある! 消えろ…!」(グラビモン)

 毅然とクロスローダーを差し出すキリハを殺そうとして。詰めを決定的に誤った瞬間です。
 キリハを早めに始末しておいたほうがいいという判断そのものが誤りとは思えませんが、ここでやるべきではありませんでした。
 ここから数秒の彼の心理はまさに「ありのまま起こったことを話すぜ…!」というヤツでしょう。


「グラビモン、おれたちの強さは仲間を犠牲にする強さじゃない…!」(タイキ)
「仲間を守る強さだっ!!」(キリハ)


 一方的に犠牲にしたりされたりするのではなく、お互いがお互いのため、ときには体を張ってでも守る。
 工藤タイキはクロスハート、ひいては連合軍の想いそのものを体現する男。絆そのものなのでしょう。
 その絆が、ついにキリハの心にも根を下ろしました。彼らの心は今まさに、盤石へ整ったのです。

 グラビモンを討ったものは力ではなく、その絆でした。
 変則的ですが、随分とアレだったキャニオンランド篇の顛末としては悪くないものだったと思います。
 吉田さん、本当にありがとう。



★次回予告

 おーっと。やはりというかようやくというか、田中秀幸がキターッ。一発でわかりましたよ。
 デスジェネラルであっても悪党じゃないってことは、いわゆる面従腹背でしょうか…いや、そこまで器用じゃないか。
 このまま仲間化→でもあっさり死ぬパターンか、実は二重人格か。どっちなんでしょう。

 個人的にはサー・バロン(声まで一緒)型の敵役だと見てますが……さて。あの包帯とタイキの表情が気になりますね。