ベルゼブモン、光に消ゆ!

 脚本:三条陸 演出:貝澤幸男 作画監督:仲條久美
★あらすじ

 軍団戦に勝利し、城でヘルズフィールドを出るための方策を練る連合軍。
 ワイズモンがタイキの胸の薔薇のマークを分析している間に、キリハとネネはユウを捜していました。
 ベルゼブモンも負傷を押し、メルヴァモンやキュートモンと共に捜索に参加します。

 一方、ベルゼブモンに敗れて死を待つばかりのリリスモンとブラストモン。
 ウィスパードは二人の恨みを利用し、ヘルズフィールド自体と合体させて巨大な魔獣として蘇らせます。
 集結した連合軍ですが、魔獣リリスモンはあまりにも巨大で半端な攻撃は通りません。
 混乱の間隙を縫い、ユウを確保するスカルナイトモン。

 時をほぼ同じくして、ワイズモンがヘルズフィールド脱出の方法を発見します。
 タイキの胸の薔薇に偽の死のデータを与えてふたつの城のデータを書き換え、脱出口を開くのです。
 X7が城を守っている間、タイキは危険を承知で命に直結した薔薇へのアクセスを受け入れました。

 魔獣リリスモンの気を引くべく、ベルゼブモンとメルヴァモン、キュートモンが必死に戦います。
 あわや限界かと思われたとき、帰還ゲートが開きました。城のデータ変更が成功したのです。
 衝撃で気を失ったタイキの代わりに、キリハとネネがX7を指揮。魔獣リリスモンを打ち倒しました。
 便乗する形で、タイキの安否を気にするユウを連れてダークナイトモンが先に脱出してゆきます。

 そして、連合軍の背後にはなおも魔獣リリスモンの影が追いすがります。
 これを生命を張って食い止めたのは、ベルゼブモンでした。彼はサンドゾーンですでに死んでおり、
 転生という形で命を延ばしていたにすぎないのでした。その命をタイキのために使うと決めていたのです。

 復讐の男は今仲間のため、タイキのために仇敵と刺し違え、光の中に消えてゆきます。
 その死を感じ取ったタイキは、虚空に絶叫するのでした。



★全体印象

 48話です。脚本は三条氏。これで四連続ですね。
 9月までやるということなら、ここいらで他に交代するかもしれません。

 作画の仲條氏は作画陣の中でも美麗さで売ってる一人で、セイバーズでも非常にいい仕事をしていた記憶があります。
 今回はベルゼブモン絡みで気合の入った作画を見せてくれました。耽美ですらあります。
 さらに演出も貝澤氏なので、画面の緊張感が凄いことになっていました。
 前にこのタッグが担当していた26話を思い出せば、質の高さは推して知るべしといったところです。

 お話の方もとにかく王道邁進で状況を作り、盛り上げてゆきます。
 タイトル通りベルゼブモンが退場するわけですが、そのための花道の作り方も徹底していました。

 なにしろ前回で合体リリスモンと死闘を演じ、メルヴァモンに急接近と予備フラグを二本も立てた上で
 負傷を押して行動し、さらに囮役を買って出、そしてコレを逃したらもう全滅するしかない
 脱出行の最中というギリギリの状況で殿軍をつとめ、その上実はブチャラティ状態だったと明かすなど、
 これでもかとばかりの死亡フラグ乱立です。あげく、途中からタイキがフォローできていません。
 死に損ねたらむしろ恥ずかしいぐらいのものです。

 口の悪い言い方をするなら「もう使いどころのないキャラを死亡という形で削った」に過ぎないんですが、
 だからといって手は抜かず、しっかりと見せ場を作ってあげた脚本には素直に謝意を述べたいところ。
 同じく脱落組であるデッカードラモンとえらい差がついてしまい、ワニさんが気の毒にもなりましたが…

 ただし三条氏はこの後でホイホイ生き残らせる癖と前例を持っている上、コードクラウンの存在があるので
 最終的には死ぬ死ぬ詐欺になってしまう可能性が大です。そこは覚悟しておかねばなりますまい。



★各キャラ&みどころ


・タイキ

 上に書いた通り、ヘルズフィールド脱出にかかり切りな面があって仲間に頑張ってもらうしかない状態でした。
 というか46話からこっち戦線が伸び伸びになっていて、各個が孤軍奮闘を強いられるケースが続いてるんですけど。

 このような事態を招いたのも、厳しいことを言えばもともと彼の迷いが原因でした。
 あそこでX7になれていればいったん脱出し、ヘルズフィールドに落とされずに済んだかもしれないのです。
 ただし、アポロニアの塔から簡単に出ることができればの話ですが……たぶん難しい気がします。
 だからどっちみち落とされてしまっていたかもしれず、それが早いか遅いかの違いだけだったとも言えます。
 ひょっとしたら、次回で塔まわりの設定がよりハッキリするかもしれませんね。

 脱出のためとはいえ、気を失ったのもベルゼブモンの死をより確実にしてしまう要因でした。
 でももし起きていたら、何を置いてもベルゼブモンを救出しようとしたかもしれません。
 そんで結局誰かに当て身食らわされそうな気がするので、やっぱり同じことではないかと思われてなりません。
 何より、あの状況下ではベルゼブモンの方が助けられる事を望まないはずです。

 それでも彼が関与していると奇跡が起きる可能性があるので、今回に限っては寝ててもらわないとダメでしょう。
 これは同時に「いてもダメでした」という事態を防ぐための流れでもありました。
 彼の存在はそれほどまでに大きく、ゆえに関係性の高いベルゼブモンの死には立ち会えなかったのでしょう。
 なかなかにジレンマです。


・キリハ&ネネ

 タイキが上のような状態だったので、特にエピソード終盤は彼の代理を務めるような形でした。
 ただし、絶対的にはそれほど目立っていたわけではありません。
 キャニオンランドでの経緯もあって、最近キリハがびっくりするほど大人しいです。そういう状況でもないけど。


・ベルゼブモン

 今回で退場となりました。
 「シャウトモンX〜」関係に入ったことのあるメンバーとしては、初の犠牲者です。
 上で書いた通り、これでもかと状況を作った上でのことなので幸せな方ですが…生き返りそうなのは置いときましょう。
 つうかキリハの目的のひとつが犠牲者の復活、って明言されちゃってるからなぁ。

 さておき、タイキに直接構われた関係性の高いメンバーとはいってもそれほど出番は多くありませんでした。
 これはデジクロス要員としての微妙さと、それに反比例した本人の能力の高さに起因するものだと思われます。

 今思えば、X4からX4Bになってもそこまで劇的に強くなるわけではありません。
 それでいて、本人は単体で飛行可能に射撃、実質X3クラス以上の戦闘力(ポテンシャルではX4すら超える)を備え持つ
 むやみやたらな高スペックときています。実際、マッドレオモンやネプトゥーンモンぐらいなら勝てそうだし。

 デジタル空間を単身で越えられるという設定も、便利キャラすぎる彼の常時同行を封じる意味があったのでしょう。
 と同時に、他のメンバーと何かが違うという仕込みでもあったのかもしれません。もちろん、強さ以外で。

 そういえば、14話の演出もどっか儚げで「一瞬だけの奇跡だったのか?」と感じたことを思い出しました。
 正確には、ようやく実感として語れるようになりました。もしかすると、アレはそういうことだったのかな。
 そもそも考えてみれば、復活のピラミッドからのダウンロードは確か終わってなかったのです。


・メルヴァモン

 ベルゼブモンと急にフラグを立てた方。
 あくまでも同志という感じなネネへの接し方と違い、47話あたりから明らかに好意をもって接してます。
 好みが影のある男…と見せかけてギャップ萌えというヤツだったのでしょうか。

 ただ、だからといってベルゼブモンの死に号泣するタイプでもなさそうです。全く泣かないとも思えないけど、
 ぐっと堪えて彼のためにと邁進を選ぶでしょう。泣くのはタイキの役目。
 
 背格好が単体で同じくらいだし、ベルゼブモンとの間柄についてはもっと掘り下げてもよかった気がしますね。


・連合軍の仲間たち

 メイン関係が貢献度のわりにさほど目立ってない代わり、キュートモンとワイズモンがツートップで目立っています。
 キュートモンは序盤から救護班としてベルゼブモンを気にかけており、後半では彼に随伴してます。
 緊急時には彼の術がたいへん重要な役割を果たしますし、本人もそれはよく承知してるでしょうから、
 ケガが治りきらないまま行動しているベルゼブモンを放っておけなかったのでしょう。

 ワイズモンは事がテクニカルな事態ということで、脱出シークエンスに関わる最重要人物のひとりでした。
 いまやすっかり知識面・技術面における重鎮です。それどころか、今後ますます出番が増える可能性すらある。
 彼とデジタル空間で巡り会ったのも、タイキの天運というものでしょう。

 そして皮肉にも、ベルゼブモンと彼をタイキに引き会わせたのはリリスモンなのです。


・リリスモン&ブラストモン

 というわけで、巡りめぐって遂にツケを払うことになりました。
 前回の戦いはベルゼブモンにほぼ致命打を与えたものの、今回のあの様子では事実上、彼女たちの負けでしょう。
 合体前のシルエットにおいて、いずれも体の半分が失われていることがわかります。血の池で分解された模様。

 そんな彼女らも最後の最後で、仲間の絆らしきものを窺わせます。
 三元士として互いに競い、しのぎを削りあって進んでいたあの当時は、確かに最も輝いていた時期です。
 仲が良いとは言えませんでしたが、互いが簡単にやられるはずがないという安心からだったのかもしれません。
 そーいえば、タクティモンも彼女たちが多少失敗しようと一定の敬意をもって接していましたっけ。

 というかブラストモンもアホだっただけで、むしろ同僚にはフレンドリーでした。
 タクティモンへのライバル心を発露したことはありますけど、あくまでもライバル宣言にすぎません。
 リリスモン一人が仲間の足を引っ張るような行動を取っていたように見えます。

 そして三元士で最もクロスハートとの対決が多く、最も悪辣をバラまいていたのもリリスモンでした。
 最後の一華が彼女を主体とした演出だったのも、なかば必然だったのかもしれません。

 なお、イビルモンズは合体の前に消滅しました。
 なんだかんだで元の主人の側を離れず、最後まで尽くしての死です。悪なりの筋の通し方ですね。


・魔獣リリスモン

 リリスモンを上半身、ブラストモンを下半身として構成された最終戦闘形態。
 ヘルズフィールドのデータを物理的に至るまで取り込んでいるためか、異常なまでに巨大化しています。

 巨体のせいで、オメガシャウトモンやジークグレイモンでもダメージを与えるに至ってはいません。
 X7が必要な時点で、生半可なデスジェネラルは超えたと言えましょう。
 そのX7には割とあっさりやられるんですが、こればっかりは仕方ないかもしれません。
 ベルゼブモンを道連れにしただけでも上出来です。まあ生き返るかもしれないけど。

 ところが、この形態が起こした現象はむしろ連合軍の脱出の助けになっています。
 守る必要が生じたとはいえ、二つの城が物理的に非常に接近したおかげでアクセスがしやすくなり、
 結果として脱出口も作りやすくなったように見えるんですよね。これまた皮肉な展開。

 もちろんワイズモンのあの術にどの程度の有効範囲があるのか明言されてない以上、
 そこいらへんは結構どうにでもなるんでしょうけど……


・ユウ

 絶賛迷走中。すでに自らの行動を悔いはじめており、あと一押しというところ。
 今のままでは、ジェネラルとして役に立ちそうもありません。
 スカルナイトモンへの態度が邪険ではないのは罪の意識で頭がいっぱいなのか、それでも彼が好きなのか、
 そのどちらかというところでしょうかね。


・スカルナイトモン

 ユウが上述のような状態にもかかわらず確保し、ともに脱出しました。
 理由は以下が考えられます。

 1.ユウを留めている理由はジェネラルとしての腕だけではなく、他に狙いがある

 2.手放すのは惜しいので、もう一度丸め込んで手駒として再利用しようとしている

 3.実は彼もユウに情が移っていた

 大穴は3ですが、意外と熱いセリフを吐いているのでうっかり騙されそうになります。
 まあ、たぶん1が妥当でしょう。現時点ではまだ渡せない、という旨のセリフも吐いていますし。

 あ、デッドリーアックスモン生きてましたね。ユウが脱出の直前に回収したのかもしれません。


・ダメモン

 たぶん消耗を抑えるためと、ユウと目線を近くして同フレームに入れやすくするため、専らこの姿でした。
 彼が自分で言っていた通り、平時はだいたいこの姿でいるのでしょう。
 ユウ第一という行動原理が明らかになったためか、前より表情がついて親しみやすい感じになっています。

 悪役がそうなってくるともう仲間になるか死ぬしかないんですが、彼はどっちでしょう。
 今のところは、ユウを庇って死ぬ以外の未来しか見えません。
 使いづらいし顔もカッコいいとはいえないので、ムソーナイトモンの出番もあと一度あればいい方かな。

 あとの問題は、ダークナイトモンとバグラモンのどちらにやられるのか、ですが…さて。


・ウィスパード

 軍団バトルに引きずり込み、タイキの心に迷いを生じさせた最後のデスジェネラルにして最悪の罠。
 自らはさっさと逃げ出し、置き土産に魔獣リリスモンを出してゆきました。あわよくば、ユウやダークナイトモンらも
 亡き者にしようという狙いです。元からは考えられないほど卑劣。ホントに裏返ってますね。

 ユウに調子を合わせていて発揮していないであろう真の実力も、次回で発揮してくれるでしょう。
 最後のデスジェネラルのわりには、意外に情けない顛末になりそうな気もしますが……



★名(迷)セリフ


「タイキにもらったこの命だ。オレはあいつのために全てを捧げると誓ったんだ…!
 …だが、嬉しいぜ。心配してくれるヤツが、ここにもいるとはな」(ベルゼブモン)


 不器用な感謝。無口でタイキ以外にはあんまり関心が無いかのように見える彼ですが、シャウトモンを手伝ったり
 メルヴァモンの気遣いに応えたり、話してみるといいヤツという典型のようなタイプです。
 でも天然なところもあるので、狙って言ったことではないかもしれません。直後に照れ隠しパンチを喰らいます。


「覚悟なら、いつでもあったさ…愛しいリリちゃんのためのな…」(ブラストモン)
「フ…くだらない……
 でも結局あたしには、タクティモンとあんたしか…信じられる仲間はいなかったよ……」(リリスモン)
「いかすぜ…リリちゃん…!」(ブラストモン)


 合体直前のやり取り。今になってようやく、あるいは今だからこそお互いの大切さを悟ったようです。
 変化後のあの強さはヘルズフィールドの力だけでなく、この達観に似た絆だったのかもしれません。
 しかしそれですら、未来へ進むためのものではないのです。悲しいかな、それが彼女たちの限界でした。


「…大丈夫、やり直せるさ……」(ベルゼブモン)

 タイキや姉へやってきた仕打ちを後悔しはじめているユウに。
 セリフ自体は普通なんですが、彼が言うとなんか物凄い説得力があります。
 クロスハート自体がもともと「どんなヤツでもその気になればやり直せる世界」を目指すチームですしね。


「大丈夫だ、心配するな。必ずここから脱出させてみせる…!」(スカルナイトモン)

 彼にしてはやたらと熱いセリフですが、今までが今までなので素直に信用できません。
 万が一ユウに情が移っていたとしても、彼を騙していた事実までが覆るわけではないのですし。
 それに自らの野望にユウがどうしても必要だから、絶対に連れて脱出するという論法にもなりますからね。

 日頃の行いって大事です。
 ツワーモン=ダメモンは忍者という肩書きから、仕事に徹していたという言い訳が立つのですけど。


「…いい顔だ、タイキ。その顔が大好きだ…!」(ワイズモン)

 どさくさに紛れてこの人も熱いことを言っています。
 彼から見れば不条理そのものの行動を次々と現実に変えてきたタイキは、もはや実験動物ではないのでしょう。
 たとえバグラ軍にどんなに良い条件をつけられても「冗談じゃない、お断りだ」と蹴るでしょうね。
 元からどっちの味方でもなかったのですし。


「オレの命は、もう終わっていたのさ…タイキにもらった力で転生した、その時に……」(ベルゼブモン)

 かなり驚きましたが、確かに彼は一度死んでいます。
 そのときから他とどっか違った雰囲気を持ち、どこからともなくやって来る傾向がありました。
 アレは、実はもう彼が死んでいるという証拠だった…のかもしれません。
 だから一度大きく傷ついてしまうと、あとは消滅を待つばかりになる…と。仮初の肉体だったのでしょうか。


「かつてのオレは…お前への復讐のために生きてきた……
 だが、今のオレは違う…オレを救ってくれたタイキたちの…大切な仲間の……そう…
 皆の未来のために、オレは生きる……!
 さらば、我が宿敵……我とともに散れ……!」(ベルゼブモン)


 それでも、彼は満足だったのでしょう。
 復讐に生き、孤独に死すしかなかったであろう自らを本当の意味で救ってくれたタイキたち。
 運命という名の眠れる奴隷から解き放たれたとき、バアルモンの姿を捨てた後からが、彼にとっては
 短いながら確かな手応えがある日々だったに違いありません。

 だからこそ、最後の命を燃やすことができたのです。未来のため、生きるために。
 最後になってやっと仲間の大切さに気づくも時既に遅く、復讐鬼になり果てたリリスモンらとの対比がここにあります。


「ベルゼブモオォォオォン!!!」(タイキ)

 それでも、失いたくはなかった男の絶叫が虚空に響き渡ります。
 結局、バアルモンの時と合わせて都合二回も叫ぶことになりました。命を救うことはできなかったのです。
 逆に言えば、救えなかったのは命だけでした。ベルゼブモンはその生きざまを、タイキによって救われたのですから。

 けれど、ともに勝利を喜び合えなかったことを嘆いたとして…いったい誰が彼を責めることができるでしょう。



★次回予告

 あ、もうフツーに倒す流れなんですね。
 コードクラウンが無い以上、他に選択肢も無いし…タイキの心ひとつだったというわけか。
 盾にしようとしたらボコボコにされる姿しか浮かんでこないので、ウィスパードには頑張ってほしいですね。