バグラ兄弟、暗黒の絆!

 脚本:三条陸 演出:細田雅弘 作画監督:直井正博
★あらすじ

 紆余曲折を経て、クロスハート連合軍はようやく本物の大魔殿に辿り着きます。
 親衛隊を蹴散らしながら進む彼らの前に、皇帝バグラモンがその姿を現しました。一目見て本物とわかる威圧感です。
 その強さの前にはX7すらなす術がなく、一方的に叩きのめされるばかり。

 しかもバグラモンはダークナイトモンから受け取ったダークストーンを取り込み、人間界にまで魔手を伸ばしはじめました。
 あらゆる次元を破壊して再構成し、バグラモンの意のままの世界に作り替える。それがD-5の実態だったのです。
 なおも抵抗しようとする連合軍でしたが、バグラモンの一撃でタイキとメルヴァモンらが地下へ…

 それでも心を折らず、キリハが中心となって態勢を立て直す連合軍。
 激戦を経て育った結束は、D-5で右腕が塞がっているとはいえバグラモンに浅手を与えるほどのものでした。
 しかし、そのダメージさえもダークストーンを得た暗黒皇帝の前には瞬時に消え去る無意味。
 その上、バグラモンには左腕だけでも連合軍を葬れる力があるというのです。最大の一撃が来る──

 瞬間、何と後ろに控えていたダークナイトモンが槍でバグラモンの体を貫きました。
 バグラモンへの対抗心を秘かに抱き続けていたダークナイトモンはクロスハート連合軍の力さえ利用し、
 兄がその恐るべき両腕をフルに使う一瞬の隙を窺っていたのです。その真の狙いは、バグラモンの力を手に入れること!
 デジクロスの力は、まさにこの時のためのものでした。闇の騎士が、さらに禍々しく変化してゆきます。

 その頃、地上への出口を探すタイキとメルヴァモンらは謎のエネルギー体を発見していました。もしやここにユウが?
 そして、人間界で謎の声を頼りに走るアカリとゼンジロウたちの運命は?



★全体印象

 52話です。ついに最終決戦。
 脚本はやはり三条氏。このまま最後まで突っ走るものと思われます。
 作画的には普通ですが、細田氏の演出のおかげで画面テンポは良好。画としてはまだ溜めの段階ですかね。

 さて、まずは予想通りバグラモンの力をめいっぱい見せつけるターン。
 D-5でデジタルワールドをも飛び越えた野望を抱き、さらに圧倒的パワーで実行へ移すラスボス具合を発揮しています。
 連合軍側はその力の前に手も足も出ない状態ですが、これくらいでなきゃ最終ボスを名乗る資格はないでしょう。
 ここまで来れば味方側にもまだ手は裏技含めいくらでもあるので、どうやって勝つんだよ感は出しといてナンボです。

 そして土壇場でやっぱりダークナイトモンがやってくれました。本当に期待を裏切らない貴族です。
 暗黒の絆とはなんとも皮肉なタイトルといえるでしょう。クロスハートのものとは何もかもが真逆の関係です。
 ユウに拘っていた理由もハッキリしましたね。こっちの狙いのためだったというわけだ。

 さあ、泣いても笑ってもあと僅かです。一年三ヶ月の長い戦いでしたが、とうとう終わりが見えてきました。
 「時かけ」へ想いを馳せる前に、まずはこのラストバトルを存分に堪能するとしましょう。



★各キャラ&みどころ


・クロスハート連合軍

 ここまで来るとわざわざ書くべきことも減ってくる上、今回はバグラ兄弟のターンなので見せ場もあまりありません。

 それでもタイキを一度舞台から下ろしてキリハとバグラモンを直接対峙させ、問答を交わす場面を用意したり
 抑えるべきところは抑えています。ネネは完全空気ですが、ユウ救出の際には目立ってくれるでしょう。それが最後の希望。
 しかしX7は思ったより苦戦しますね。グランドジェネラモンはともかく、グラビモンにまで梃子摺っていたし。
 最後の最後に何かしらとんでもない裏技を用意している気はしますけど。

 地下ではタイキの護衛としてメルヴァモン、そしてナイトモンが活躍します。さすがナイトさん、まさかの時に頼れる男。
 何かと頼りになる男としては、ワイズモンにも多少の見せ場があります。彼を味方に引き込めたのは僥倖そのものだ。
 次回では満を持してバステモンにも見せ場ができるみたいなので、楽しみにしておきましょう。

 死ぬなよ、皆……復活できるって言っても、これ以上のリタイアは御免だぜ?


・アカリ&ゼンジロウ

 まさかの、いや、コレも満を持してと呼ぶべきでしょう。ついに再登場しました。忘れられてなくてよかったー。
 その場の勢いで後から行くとは行ったものの方法がさっぱりわからず、途方に暮れていたようです。そりゃそうか……

 でも、ここへ来て人間界側の視点を持ったメインキャラがいるというのはなにげに収穫かもしれません。ケガの功名です。
 考えようによっては向こうと思いっきり繋がってるので、これを逆利用して応援に駆けつける展開になるでしょうか。
 「あのデジモン」とも繋ぎが取れたし、仕込みは十二分です。


・エグザモン

 声のみの出演ですが、テロップでモロバレだった方。
 調べてみましたら、このデジモンもちゃんとデジメモリになっていたんですね。ならばアリだな。
 オメガモンは自分だけが人間界に落ちたと思ってたようですが、あんな状態ではこっちの存在に気づかなくて当然ですかね。
 30話の騒動でエグザモンの方が気づき、残ったアカリとゼンジロウに呼びかけ続けていたのでしょう。

 さて、ここからどうなるか。絆という意味で大きな力となる二人を避難も兼ねてデジタルワールドへ移動させるまでは
 簡単に予想できるとして、そっからの移動手段が問題です。でも、エグザモン本人は出られそうにないんだよな…
 彼のデジメモリ→キリハ→ドラコモンで合体気味に復活したら面白いんですが、尺が足りないかもしれません。
 むしろ、アカリとゼンジロウがクロスローダーを得る展開ですかね。もう最後だし。

 …それにしても、OPの段階では「ひょっとして大魔殿の親衛隊長か…?」と勘繰ってたんですがフツーに味方でしたか。
 なんだかんだ言って、ロイヤルナイツメンバーの扱いだけは配慮されているようです。


・バグラモン

 ラスト3話にしてやっとお出ましになったバグラ軍皇帝。事実上のラスボスです。
 その偉大とさえ呼べる力はX7をもほとんど不動で圧倒し、タイキをして根本から違うと言わしめるほどのもの。
 リリスモンやルーチェモンを従えていたことから、かの七大魔王すらも凌ぐ悪の頂点として君臨したと言えましょう。
 漫画版の穏やかな態度とあわせて考えると、器として匹敵するのはタイキぐらいのものかもしれません。

 その野望も予想通りではありますが、デジタルワールドはおろか全次元にも及ぶとにかく壮大なものでした。
 すべてを己が支配すると豪語して憚らず、裏付けるだけの圧倒的なパワーをも備え持っている彼は
 まさに悪の力そのものとも表現できるかもしれません。多くのデジモンがその下に跪くのも当然でしょう。
 目を見ただけで、かつてワイズモンが断言したように「勝つのはこの方だ」と頭を垂れても不思議はない。

 …それだけに、弟に寝首をかかれる脇の甘さっぷりが気にはなります。弟だけは信頼していたのかもしれませんが。
 まあダークネスバグラモンのことを考えると後から支配し返すでしょうし、そこで挽回してもらいましょう。

 立ち居振る舞い、野望のでかさ、圧倒的すぎる強さと、かの大魔王バーンのリボーンとも言える存在です。
 中の人が使い回し(たぶん草尾氏)なのが惜しまれるところ。出番が少ないんだし、何方か引っ張ってきてもよかったような。
 結構イケメンなのも加味して、神谷明氏とかどうでしょう。もう遅過ぎるけど。


・ダークナイトモン

 兄の力に対抗心と嫉妬を抱き、それをずっと胸に秘めて生きてきた暗黒の騎士。
 その心をある程度知りながら側に置き、あまつさえ魔殿提督という身内人事そのものの重職を与えてくれた兄に対し
 最高のタイミングで最低の裏切り行為を働いてくれました。正しくキング・オブ・外道です。

 ですが、この男はこうでなきゃいけないでしょう。そう思わせてくれるあたり、悪役としては成功といえます。
 本当の意味でタイキと真逆なのは、やはりこの貴族でした。共通点はブレないことですね。外道的な意味で。
 後はバグラモンに支配され返して消滅するか、または共存して共に歩むか。どちらでも美味しいでしょうね。

 バグラモンが悪の力なら、彼は謀略や暗躍という表現が似合う悪の知恵を象徴する存在なのかもしれません。
 両者が合わさったときの力は推して知るべし。どうする、クロスハート連合軍!


・チューチューモン

 ユウの逃走を阻止し、その監視も行っていました。
 あくまでダークナイトモンの部下として働いていますね。ダメモンと違い、ユウへの情もないようですし。
 ユウとダメモンが初めて出逢ったとき、その場にいなかったのも納得というものでしょう。
 どうやら手心を加える必要はなさそうです。


・ユウ

 ダメモンの死後、どうしてよいかわからずに自室で途方に暮れていた模様。
 心理的に今さら姉たちのもとへは戻りづらいし、そもそも連合軍が大魔殿に来ていることさえ知りません。
 じゃあどこへ行きゃあいいんだよと膝を抱えてしまうのも、無理からぬところでしょうか。

 ダークナイトモンは飽くまでも穏やかにその本性を現し、彼をデジクロスの媒介としてのみ扱いはじめます。
 バグラモンの力を取り込むためには、ユウがどうしても必要だったのでしょう。いろいろ繋がりました。
 逆に言えば、彼を救出することで事態が動きそうではあります。

 ダークネスローダーは持っていかれたままですし、果たして活躍の機会は残ってるのでしょうか?
 最後まで何もできないと、さすがに恰好がつかないと思うんですけど……


・バグラモン親衛隊のみなさん

 こう書くと訓練されたファンの集団みたいですが、ある意味似たよーなもんかもしれない人々。
 構成は非常にシンプルで、全員がチェスモンズ系。まさに親衛騎団というヤツですね。
 ポーンチェスモン黒の姿も見えるので複雑な気分です。誰もツッこまないので流しそうになりますが。
 ビショップチェスモンについては、セイバーズ時代にみられなかった黒がいる上に結構目立ってます。
 
 直属ですから生半可な軍勢より遥かに強いはずなんですが、さすがに連合軍の敵ではありませんでした。
 キングチェスモンとクイーンチェスモンぐらいは出してくれないと、親衛隊の名が泣きますよ。


・タクティモンの刀

 残されたこの一刀が目印となり、バグラモン到達へ繋がってます。これも伏線でしたか。
 世界に憎まれた兄弟と前回で書きましたが、死してなお忠義を貫き通した戦士がまだここにいたのですね。
 あっさり死んでしまったタクティモンへのフォローになっています。

 本当の意味で孤独なのは、どうやらダークナイトモンだけのようですね。
 ただひとり残った腹心であるチューチューモンでさえ、これほどの忠義を見せてくれるかどうか。


・D-5

 正式名称は「Dimension Delete Deadly Distruction Day」。
 発音するときにはDeleteとDeadlyの間にandがつくこともあるようですね。
 直訳すると「次元削除、そして死と破壊の日」というところでしょうか。まあ単語の羅列に近いですが……
 どうしてもD-3を連想しちゃいますね。

 その意味するところは全ての次元が暗黒の力によって破壊され、バグラモンの世界として融合されるというものです。
 これが真の狙いだとすれば、コードクラウン掌握とデジタルワールド再構成はD-5のための準備期間でしかなく
 いわばダークストーンを作りやすい環境というだけだったのでしょう。デスジェネラルはそのための駒だったと。
 力や知謀、悪辣を買われて配下に収まった彼らにデジモンたちを苛ませ、負のエネルギーを集めるための。

 そしてそのデスジェネラルさえ、ダークストーン錬成のための礎でした。32話時点で予想は何となくしてましたが、
 やはりそういうことだったんですね。デジモンたちの多くをそのままにしておいたのも理解できます。
 この世のほとんどを自らの道具として認識していなければできぬ、壮烈にして無慈悲な大事業です。
 タイキたちは、まんまとその片棒を担がされていたというわけですか。これも、やはりと表現するべき事実。

 バグラモンにとってただひとつの誤算は、やはり弟の裏切りでしょうか。弟だけは例外だった節があるというのに。
 こっからどう転がるかで、バグラモンの器もある程度定まるんじゃないでしょうか。


・人間界というか江東区

 バグラモンの介入により、えらいことになっています。波動に触れた者は石となり、生命活動を停止してしまう模様。
 タイキの母もコレに巻き込まれてしまいました。与り知らぬこととは言え、絶対に負けられない理由が増えた形。
 ああして地球全土を波動で包み、踏み台にしてさらに他の次元へ手を伸ばすつもりなのかもしれません。


・サウンドバードモン

 公募デジモン第三弾。音を武器にすることが名前からすぐに連想できます。
 デザインもモンスター然としていて良いと思いますが、イラストとクリンナップでまたちょっと違うような…
 あとなんでサウンド「バーモン」じゃなくてサウンド「バードモン」なんでしょう。連想しづらいからかな。
 
 

★名(迷)セリフ


「相手がどれだけ強いか、調べるのは簡単さ。こっちの一番強い力をぶつけてみればいい」(タイキ)

 バグラモンの強さを予想するシャウトモンに。
 大胆かつ合理的。一見無謀ですが、もっとも理にかなった戦術です。
 …というか、ぶっちゃけ「ダイの大冒険」でダイが真バーンにとった戦術そのまんまなんですけどね。

 意図してなのかどうなのか「ダイ」を想起させる要素やセリフがこの番組にはいくつもあるように見えます。
 アニメ版が最後まで放映できなかったリベンジの意味もあるのでしょうか。


「…何だって?」(ダークナイトモン)

 ユウに拒否されて。
 別に大したセリフじゃないんですが、素で「は?」と聞き返してる感じが珍しいのでついエントリーしてしまいました。


「もう満足したかな? まだ話の途中でね……」(バグラモン)

 X7の攻撃を軽く凌ぎ、その最も恐るべき右手で顔面をホールドして。
 この傲慢そのものな余裕と桁違いの力が両方揃うことで、瞬時にラスボスオーラがより強固なものとなりました。
 少しデジアド01のヴァンデモンも思い出すセリフです。


「つまりキリハ、君は私の唯一の敗北であり、汚点だ…!」(バグラモン)
「オレが汚点だと? …フッ! むしろ誇るがいい! お前の見込み通り…いやそれ以上だ、バグラモン!
 オレは強くなった! 仲間とともに! それを実感させてやるっ!
 さあ、寝てる場合じゃないぞ! ジークグレイモン! シャウトモンも力を貸せ! タイキが這い上がってくるまでは、
 オレをあいつと思えっ!」(キリハ)
「…へっ、タイキの代わりなんかじゃねえ! キリハはキリハ…お前だからこそ力を貸すんだぜ!」(オメガシャウトモン)


 やり取りなど一部略。キリハを選んだことが失敗だったと言い切るバグラモンへ逆に豪語してみせます。
 この回を語る上では外せないくだりでしょう。いろいろアレな経緯を踏まえてなお、なかなか熱いセリフ回しです。

 そして単なる自信過剰ではなく、自身でさえ予想もつかなかった次元に身を置いている実感が言わせた言葉でしょう。
 それがバグラモンの望んだ形なんかではないことも、今のキリハには実感できているのだと思います。
 今のキリハにならば、シャウトモンがこのように応えるのも理解はできますね。
 漫画版も考慮に入れると、性格的にも意外と相性は悪くなさそう。

 ついでに言えば、仲間とはぐれて自力で這い上がってくるのを待つという意味で25話の発展版かもしれぬ状況です。
 あの時彼は自分についてこれる者だけ這い上がってくればいいと言っていましたが、今回は違いますね。
 タイキならば必ず這い上がってくると信じているから、留まって戦い続けることができるのでしょう。
 バグラモンの力、その全貌を暴きたてるためにも。


「私に傷を……ふむ、前言を撤回しよう、キリハ。君がそこまでの力を得ていたとはな…」(バグラモン)

 キリハを中心に立て直した猛攻により、浅手を負った時のセリフです。あっさり主張を引っくり返しました。
 相手の力を素直に認め、警戒をもって隙を埋めるのも大物の条件です。それも圧倒的優位があればこそのことですが。
 そんな彼も、弟にだけは心を許していたのかと思うと少々切ないものがありますね。


「この際、君たちの奇跡の快進撃を利用させてもらおうと思ってね……!」(ダークナイトモン)

 隠しに隠し通した本性を露とし、バグラモンを背後から攻撃した場面で。
 野望のために兄を犠牲にし、敵さえも利用する。まさしく悪魔の所業であり、暗黒の騎士が面目躍如を迎えた瞬間です。

 と同時に、ある意味で壮大なビジョンを持っていた兄と比較して器の小ささが目立つ場面でもありました。
 結局、彼は偉大とさえ表現できるバグラモンを越え、その力を手にすることしか考えていなかったことになるのですから。
 そのあとD-5を引き継いだとしても、それは兄を越えた証として実行するだけのものでしかないと思います。

 そーいえば、誰もバグラモンが最終的に目指した世界を知らないんですよね。
 もしもそれなりに平和な世界だったとしたら、大いなる矛盾と皮肉が入り交じった話になりうるでしょう。
 今の所業が未来を見据えて行っている手段としての悪ではないと、いったい誰が断言できましょうか。
 だからといって、今行っている悪を放置する理由にはならんのですけどね。それこそ放っとけない。

 …あ、でも自分で悪に満ちたデジタルワールドって言ってましたよね、バグラモン。
 それが七つの王国を差しているのなら、部下へのポーズかもしれないですが。


「…バグラモン? そんなデジモンはもういない…兄上は消えた…! 私は勝ったッ!」(ダークナイトモン)

 バグラモンを強制デジクロスで取り込み、己の力として。間違いなく最高にハイな瞬間、デジモン人生の頂点でしょう。
 勝ち誇ったときそいつはすでに敗北している、のパターンにもろに陥りそうですけど。



★次回予告

 ぽいーんと吹っ飛ぶタイキやワイズモンたちに演出上の不安を感じつつもアカリたちの推参、ダークナイトモンの顛末、
 ユウを巡る戦いなど見どころはまだまだ満載です。上にも書きましたが、バステモンの出番に期待しましょう。
 巨大チューチューモン相手に奮戦を見せてくれそうです。