香港上陸!超美少女アイドルを守れ!!

 脚本:米村正二 演出:園田誠 作画監督:梨澤孝司/浅沼昭弘
★あらすじ

 香港でアイドル活動をしているネネの要請により、彼女を狙うデジモンらしき存在の調査に乗り出したタギルたち。
 美人で役者としても頭角を現しつつあるネネにタギルはすっかり夢中になり、空回りしながらも
 彼女を守るために張り切って事件に臨むこととなります。

 やがて、ネネをつけ狙っていたハーピモンがその姿を現しました。
 謎の仮面の男から力を得て凄まじい空戦能力を得たこの敵には、ジェットメルヴァモンすら叩き落とされてしまいます。
 タギルは咄嗟の判断でネネのスパロウモンに力を借り、クロスアップによって何とかハーピモンを捕獲しました。

 同時に、仮面の男も正体と正気を皆の前に顕します。それはなんと、ネネの父親。
 仕事柄、あまり姉弟を構ってやれずにいた父でしたが、その愛情は離れていても変わりませんでした。
 アイドルになるため反対を押し切って香港に渡ったネネを案ずるあまり、ハーピモンに付け込まれたのです。

 波乱を経て、親娘は今ようやく和解のときを迎えていました。
 香港の夜空に、全てを吹っ切ったネネの歌声が高く、高く響き渡ったのです。



★全体印象

 64話です。だいぶ遅れてしまいましたが、少しずつでも取り返していかないと。
 脚本は米村氏。演出の園田氏とはピノッキモンの時も組んでいます。作画は梨澤氏と浅沼氏の連名で、
 そのため特に戦闘シーンはかなりの迫力がありました。ハーピモン対アレスタードラモンの空中戦は一見の価値あり。

 さて今回はアカリに続き、前期からのゲストとしてネネが再登場するお話です。
 それだけではなく、父親までもが初登場したのはちょっとしたサプライズかもしれません。
 これにより、天野姉弟がなぜ二人だけでいる回想ばかりだったのかがより想像しやすくなったといえるでしょう。
 まあ、そこらへんは後で語ることにします。

 さて、実のところ脚本が米やんというだけで大して期待してなかったのですが、良くも悪くも予想通りでした。
 他ではともかく、クロスウォーズでは本当に安定して低空飛行です。マシな回があったとしても再見性は低いですし。
 致命的にひどいほどじゃないんだけどコレというところがほとんど無く、ひたすらに凡作を連発しているというか……
 たまに暴走するとたいていアレな方へ突っ走りますし、村山氏が入ってきてくれて本当によかった。

 なぜ香港なのかとか、細かい理由はまあ別にいいんです。大人の事情かもしれないし。
 それ言ったら、ネネが香港に行ったこと自体が今期のための大人の事情だと言えてしまうでしょう。
 問題は、わざわざ異国を舞台にした意味が意外と無いことでしょうか。序盤の山下りぐらいしかない。
 映画撮影だって、日本のどっかに場面を取り替えても案外成立しそうな気がしますし……
 それに、交通手段のトレイルモンがどういう存在かすらわかりません。うーむ。

 予想してなかったと言えば、メルヴァモン登場の肩透かしっぷりも半端じゃありませんでした。
 まさかすでに再会していてボディガード紛いのことをしていたなんて、正直アレ? という心地。
 ユウがクロスローダーを持ってきてネネに渡したり、危機に際してメルヴァモンとスパロウモンが駆けつけたりとか
 そのぐらいはやると思ってたんですが、どっちもやらないとはさすがにちょっと予想外でした。
 ネネがデジクォーツのことを知る経緯が省かれたどころか、知らなかったという事さえ省かれた感さえありますね。

 戦闘描写も相変わらず雑というか、拘りが足りないというか…ぶっ飛ばされたけど主役がクロスアップしたら打開できた、
 とだけ書くと60話と何も変わらない。ボスを倒したらなぜかコードクラウンが出た、を何度も繰り返しただけはあります。
 しかもあれじゃ、ネネ組の立場がありません。せっかくのゲスト回なんだから、もうちょっと何とかしましょうよ。
 今期に入って、むしろますます仕事が雑になってませんか。

 どうしても、直前のアカリ回と比べてしまう出来です。
 最近のネネは描写の点でアカリに水をあけられっぱなしな気がしますね。まあ、これは脚本全体の問題ですが。

 アレスター+スパロウの上乗せパターンがX5と同じだったのは、ちょっと面白かったですね。
 背中だけはスクランダーというより、スリングパニアーやジェットストライカーみたいな付き方ですが。



★各キャラ&みどころ


・タギル

 米やん担当だと輪をかけてバカになる人。おバカじゃなくて、バカになります。微妙ですが、この差は大きい。

 上手く言えないんですが、他の方のホンだと見せ場の前のタメとして一回はいいところを見せたり、
 いいセリフを貰えたりして「こいつはこういうヤツなんだな」と何となく納得してしまえるところが残るのですけど
 60話や今回だともうただひたすらにバカなだけというか、見ていて少々悪い意味でハラハラさせられてしまうんです。
 そのうち机の下から鰹でも引っ張り出しそうで…おっと、これは米やんじゃねえ。

 それでいて周囲から妙に持ち上げられたり、今回のようにタメ無しで突然打開策に化けたり、
 バカなりの過程ってものすらなかなか描いてもらえないときています。
 とりあえず最後に活躍させときゃいいんでしょ? といういい加減な考えすら透けて見えてしまうんですね。
 おかげでタイキまで巻き添えを食うという。あんさん、どこらへんを見て任せようと思ったんですか。60話とか。

 言い過ぎなようですが、これが米村回におけるタギル描写の率直な感想です。
 シリーズ全体としてみれば、先輩キャラをリスペクトしつつ自分の考えは譲らないところが気に入ってるのですが。


・クロスアップ・アレスタードラモン

 今回の目玉のひとつ。ガムドラモンと通常アレスターはほとんど印象が無いので省きました。
 上で書いた通り、X5を強く想起させる形式でスパロウモンとクロスアップを遂げたアレスタードラモンの姿です。

 その最大の特色は、やはり空戦能力を得たこと。
 ジェットメルヴァモンが敗れた強化ハーピモンを打ち破ったところからみて、その力は相当のものです。
 フォローを入れるなら、たぶんスパロウモンとの相性がメルヴァモン以上だったのでしょう。
 もともと飛行能力自体はあるわけですから、条件は良いはずです。

 まあ、クロスウォーズの場合強さ描写がその場のノリで変わるのであまり厳密に言い出すとキリが無いかもしれません。
 この姿でルーチェモンサタンモードに勝てるかと言われると、うーんと言葉に詰まってしまいますし。


・タイキ組とユウ組

 一応タギル組に同行してるんですが、びっくりするぐらい何もしてません。
 ユウなんて誰よりもネネに馴染みがあるはずなのに、アクションシーンに驚いたぐらいしか思い出せない。
 それでも全く何もないよりはマシですが、ハーピモンとの対峙ではサボってるみたいに見えて困ってしまいました。

 ところでシャウトモンが知っていたということは、デジタルワールドでもハーピモンは名の知れたワルだったんですかね。
 コテモンのときと同様、王様ということで「知っているのかシャウトモン!」なノリかもしれませんが。


・ネネ

 久し振り…というほどでもありませんが、再登場です。
 一年のあいだにまたぐっと大人になり、特に発育がものすごく進んでいますね。まさに超進化。
 前髪の分け方が変わってる他は、あの特徴的な髪型もそのままです。こうして見るとむしろアイドルっぽい。
 殺陣もこなせるようになっており、なにげにタイキ並みの万能人物になりつつあります。いや、元から割とそうなのかな。

 とはいえ、香港でアイドルになっているという設定のネタっぷりには耳と目を疑ったものです。
 それは今でも変わってません。なぜか宇宙飛行士になっていたヤマトほどではないですが、近い程度にビックリしました。
 いや、だってアイドル志望だなんて聞いたこともなかったし……周りに持ち上げられやすいタイプではありますけど。
 ただ以前からあの髪型だったことを思うと、潜在的にそういう憧れはあったのかな? という程度の類推は可能ですかね。
 デスジェネ篇からは結構派手な恰好をしていたし、本来の彼女に結構ハッチャけた側面があったのは確かでしょう。

 今回はこれに加え、父親の存在と家庭の事情が明らかになっています。
 子供のころから父親に放置されがちだったのでしょう。母親の存在が窺えないのは、別れてしまったせいでしょうか。
 あるいは、姉弟がごく幼い頃に亡くなったか…その分、祖母が二人の面倒を見ていたのは想像に難くありますまい。
 お婆さんが亡くなった理由は不明ですが、せめて心労でなかったことを祈るばかりです。

 ネネが誰よりもユウを気にかけており、ユウのためなら悪にでもなる覚悟を秘めていたのも、
 多くはこの世に自分達だけはという絆のなせるわざだったのでしょうね。
 しかし、そこにもすれ違いがあって……親父といい、なにかと身内がらみでやらかしてしまう一家のようですね。

 業の深い一族です。でも、その業を未来へ向かう力に変える強さも秘めているのでしょう。
 ダークナイトモンの呪縛を断ち、親との和解を果たした今からが、彼女たちの本当の始まりなのかもしれません。


・メルヴァモン&スパロウモン

 ネネのボディガード紛いを務めていた方々。
 ただし目立っていたのは専らメルヴァモンで、スパロウモンはほぼジェットスクランダー扱いでした。
 クロスアップの時に本人の意思をまるっと無視しているあたり、ある意味徹底しています。

 その上、実はろくにいい所を貰えていなかったり。
 事実上、ハーピモンにはほぼやられっ放しだったと言っていいでしょう。クロスアップで一瞬押し込んだものの、
 ダウンを奪われる前フリでしかありませんでしたし。あげく、唐突にしゃしゃり出たタギルが全部持っていく始末。
 うっかり「しゃしゃり出る」なんて表現を使ってしまっていますが、そう見えてしまいました。

 せめてクロスアップの発想がネネかメルヴァモンからだったら、まだ良かったんですが……
 ダメージを受けながらもクロスオープンで回避、そのまま後をタギルに託すとか、色々できた気がしますよ。
 ホントはギリギリまで頑張ってピンチの連続、そんな時にジェットメルヴァモン参上が一番いいと思うのですけれど。


・ネネパパ

 出し抜けに初登場した天野姉弟の父親。
 ユウがダークナイトモンに付け入られた経緯を考慮すると、ネネの労苦の本当の元凶とも言える人です。
 ひょっとしたら、それもあって未だに拗れたままだったのかもしれません。

 どのような仕事に就いていたのか本編だけでは不明ですが、子供を放置せざるを得ないほど多忙だった事、
 姉弟の経済力、ユウが香港に土地勘があったことなどから見て、世界じゅうを飛び回る仕事かもしれません。
 部屋になにやら勲章みたいなものがいっぱいあったのが気になります。

 そういえば、タイキの父もあっちこっち飛び回る類の仕事をしているらしいですね。
 となると、やはり母親の存在の有無がでかかったというわけだ。ネネたちもせめて祖母が健在ならば。
 お婆さんなら、父親と二人の橋渡し役になれたはずですから。本人同士の性格もあるといっても。

 ただ、そんなネネパパとて子供たちへの愛情まで失ったわけではなかったようです。
 仕事に没頭していたのも構ってあげられない分、せめて楽をさせてやろうという想いからかもしれません。
 しかし逆にそんな人であるほど、手の届かないところへ子供が行ってしまうのを嫌うものです。
 それがネネには「愛情がないのに、束縛だけはしようとする」と伝わってしまったということなのでしょう。

 ハーピモンに付け入られたのは、やはりこのあたりの蟠りが理由でしょうね。
 ネネに近づくもの全てを排除しようとしていたのは、その何処か影のある愛情が暴走した結果と思われます。
 今回はデジモンではなく、人間のほうが暴走していた形ですね。ハーピモンはそれを利用して力を得ていたわけだ。

 声は古川登志夫氏。言わずと知れた名バイプレイヤーであり、かつてのTVアニメでは主役も多数演じていました。
 私の知る限り、昔からほとんど声が変わらない人の一人です。本当は変わってるのでしょうけど、印象は変わらない。
 ただ最近はとみにお父さん役を演じることが増えており、時代が変わったなと思うことしきりですね。


・ハーピモン

 ネネ父の愛情を利用し、力を得ていたデジモン。中の人は櫻井氏の掛け持ちです。

 力を得た上で何をするつもりだったのかは不明ですが、推測はできますね。
 本来のハーピモンには盗賊という設定があるので、追い回されているうちにデジクォーツへ迷いこみ、
 そこで人間の力の利用価値に気付いて一計、誰にも邪魔されない力を手に入れようとしたのかもしれません。

 実際、ネネ父から得た力は相当のものでした。クロスアップしたアレスタードラモンの主役補正には負けたものの、
 あのジェットメルヴァモンを破っているので実力は極めて高いと言ってよいでしょう。
 それを抜きにしても、アレスタードラモンの空中機動力では手が出せないほどの素早さがあります。

 ガード対象であるネネを引っ張り出すというのは本末転倒ですが、そうせざるを得ない相手として設定されているわけですね。
 それならメルヴァモンをネネのガードに徹させておいて、最初からアレスター+スパロウで挑んでも良かった気はしますが……

 ところで、このデジモンをハントしたということはスパロウモン抜きでもそれに準ずる飛翔能力を得たことになるはず。
 空を飛ぶデジモンを相手にするのなら、このハーピモンの能力を借りない手はないはずです。
 捕らえたデジモンを使ってのクロスアップは意外にやってないので、もっとやってほしいところなんですが……


・トレイルモン

 タギルたちをデジクォーツ経由で香港に連れてきたデジモン。中の人はなぜか桑島氏の掛け持ちです(多分)。
 掛け持ち自体は珍しいことじゃないですが、なんでわざわざ当のネネと掛け持ちだったのでしょう。
 姿はフロンティアにおいてセラフィモン城の地下に眠っていたものと同じ、ケトル型ですね。
 まあ、別に珍しい型というわけじゃないみたいですが……

 ネネとの関係は不明。どういう経緯でタギルたちに事を伝えたのかも不明。かなり謎の存在です。
 ひょっとしたら、頼まれれば何でも運んでくれる単なる業者なのかもしれませんけど。
 デジクォーツといっても、なんか普通に暮らしてる方々もいるみたいですし……よくわからん世界だ。

 つうか、タギルたちはどうも何故、どこへ連れてこられたのかさえわかってなかったようです。
 ネネからの依頼だとさえ伝えてなかったんじゃないでしょうか。でなきゃ、ユウが把握していたはず。



★名(迷)セリフ

 心にぐっと来るほどのものが無かったので、今回も特にありません。
 ネネとネネパパのやり取りも何かこう、通り一遍のことしか言ってなくてキャッチーじゃないというか……



★次回予告

 表題だけで内容がある程度以上推測できる回ですね。フレイウィザーモンがこれほどメインになるのも初めてのこと。
 タギルがそういう状態になるというのが彼自身にとってどれほどの危機かも、これまでの回を見ていればわかりますね。
 なぜか「ウルトラマンマックス」31話「燃え尽きろ! 地球」を思い出したのは秘密。