タギルがふにゃふにゃ!? ガムドラモン大ピンチ!!

 脚本:村山功 演出:三塚雅人 絵コンテ:八島喜孝 作画監督:八島喜孝
★あらすじ

 生徒たちが突然、やる気を失って骨抜きになってしまう事態が続出。
 熱血で知られる体育教師も無気力になってしまい、自習になってしまう有様です。
 その裏にはやはりデジモンの影が。フレイウィザーモンの仕業です。人間の「やる気」を吸い取って力を得ていたのでした。
 止めようとしたタギルもまた、やる気を奪われてふにゃふにゃになってしまいます。

 タギルが乗り移ったかのようなフレイウィザーモンのハッスルで、被害は広がるばかり。
 タイキとユウは何とか阻止しようとするのですが、タギルの不屈の精神を得たフレイウィザーモンは異様にタフになっており
 何度ダウンしても立ち上がってきます。決め手が見つからず、戸惑うタイキたち。

 そのとき、タギルを連れてガムドラモンが乱入。
 パートナーとともに頂点を目指す。その誓いを胸に奮闘を続けるガムドラモンを見て、タギルの魂が再点火しました。
 怒濤の攻撃でフレイウィザーモンを仕留め、胸の炎が無限であることを証明したのです。

 こうして人々も元に戻ったのですが、校庭には熱血教師の熱血授業に辟易するタギルの姿が。
 いつも通りの生活も、それはそれで大変なのです。



★全体印象

 65話です。脚本は村山氏。作画は八島氏の一人原画です。クロスウォーズでは案外珍しい事態。
 氏はさらに絵コンテもやっており、相変わらずの八面六臂です。デジモンには欠かせない人材のひとりでしょう。

 今回からアバンパートとして、OP前に本編が入るようになりました。
 特撮・アニメを問わず今や当たり前となっているアバンパートですが、デジモンの場合は経緯が複雑です。
 フジ時代にセイバーズで初めて導入されたものの、サブタイトルが最初に入ったり入らなかったり
 回によって長さが完全にバラバラだったり、統一感がありませんでした。

 クロスウォーズも途中まではセイバーズに近い形式だったのですが、デスジェネ篇からは一転して廃止。
 そのまましばらくアバン無しが続いて、今回でまた復活という流れです。
 というか、クロスウォーズはシリーズ中で最もフォーマットが定まらない作品じゃないでしょうか。
 中断がたびたび起こったり、局が変わったり、時間帯移動したりしたので仕方ないのかもしれませんけど。

 とはいえ、そんな話は本編にあまり関係ありません。
 内容についてどうかと言えば、極めてシンプルで真っ当なお話という感想が出てきます。
 タギルの最大の長所である行動力と滾り立つモチベーションを奪うことで逆説的に肯定を行い、
 自らそれを再び掴み取ることで「偽の熱血」を打ち破るという流れですから。説明が楽です。

 また、上記の状態になることでパートナーのガムドラモンが目立ちやすくなるという利点もあります。
 彼の口から改めて「お前とならやれると思ったんだ」と語らせることで、タギルの長所をさらに強調してます。
 タイキたちを敵の扱いに苦慮させるにとどめ、安易にタギルと同じ状態にさせなかったのも良かったでしょう。
 最後のアレスタードラモンが異様に強かったのは、まあ…気迫でパワーが左右されやすいということで。

 まあ、そんなに語ることもなかったりするんですけど…出来は悪くありません。
 村山氏はヒデアキ登場を除いて重要といえる回を書いてないのですが、米やんより印象はずっと良いです。
 それに、58話はある意味ダメモン復活の59話より重要なお話かもしれませんね。



★各キャラ&みどころ

・タギル

 極端な性格なだけに、ホンによって微妙に変化を窺わせることがある彼。
 三条氏は熱血の中にふとクレバーが光り、吉田氏の場合は優しい横顔を見せてくれます。村山氏の場合は今回に象徴される通り、
 長所であるそのバイタリティと価値観の多様さを披露してくれることが多いようですね。
 
 そう、行動トリガーを山ほど持っているのが彼の最大の長所なのです。その気になったらカードゲームの世界にも行けるでしょう。
 …どこにでもいるタイプの熱血主人公という意地悪な意見も言えますが、デジモンにはいそうでいなかったタイプじゃないですかね。
 ポジションの似ている大輔とは気が合いそうです。

 とにかく、そのトリガーを奪われることが彼にとってどれほどの窮地か、視聴者の我々にも簡単に理解できるわけですね。
 失敗しても決して諦めず、地を這って泥を啜ってでも前へ進もうとするのが彼らです。
 タイキやユウに比べれば恰好は良くないかもしれませんが、恰好だけにこだわるような妙なプライドは持っていません。
 タイキもそういう底力の重要性を知っている男ですから、タギルに目をかけていたはずなのです。

 スパロボに例えればひらめきではなく、不屈で堪えて気力を上げるタイプですね。間違いない。
 もっと言えば、あれは気力50になって上がりもしない状態なのでしょう。む、実感が湧いてきた。なんて恐ろしい。
 最後に気迫でやる気を取り戻すくだりは御都合なようですが、そうでなきゃ主人公じゃなかった場面でもあります。
 別に二度と戻らないなんて明言されているわけではないので、矛盾というほどのものはありませんし。


・ガムドラモン→アレスタードラモン

 タギルが気力50になってしまったので、ひとりで奮闘する姿が目立ちました。
 61話の喧嘩と和解を踏まえ、やはりタギルとでなければ成し遂げられないことがあると再確認する形です。
 叱咤でタギルを奮起させるあたりは極めて王道で、プリキュアっぽいとさえ言えてしまう場面ですが、
 あそこで萎えたままというのはこっちが萎える展開でしょう。
 そういう外しがダメとまでは言いませんが、それはもっと他の番組でやってくれれば済むことです。

 ともあれどん底から一転、気力限界突破した攻撃は不死身のはずのフレイウィザーモンをも追い詰めるものでした。
 魂から得た炎は、同じ魂をもってせねば吹き消せなかったのかもしれません。
 精神論のようですが、原理的にはあり得ることです。


・タイキ組とユウ組

 デジモンハントに積極的ではないので、行動が受け身になりがちな人々。
 これ、意外と重要な設定です。二人ともデジモンに対してタギルとは違う価値観を持っているので、
 いっしょに行動しないことも多いんですよね。これにより、必然的にタギルが目立てるようになってるんです。

 美味しいところを持っていくこともあるけど、悪目立ちはしていない。そんな印象を持っていますね。
 むしろ、もうちょっと頑張ってもいいんだぜ? と思うことさえ。

 今回はそのタギルが動けない状態で、やむを得ず退治に向かうという結構珍しい構造だったりします。
 フレイウィザーモン相手に手をこまねいていたのは、やり過ぎると捕獲じゃ済まないことになるからでしょうか?
 行動原理が基本的に「逮捕」に近い以上、過剰攻撃にはためらいが生じて当たり前でしょうから。

 …いや、まあ、ミもフタもないことを言えばシナリオ上、タギル組でしか倒せなかったというだけなのですけど。


・マミ

 前半でちょっと登場。
 体育の杉本先生の様子がおかしい、と状況説明をしてくれる役です。相変わらずのネームドモブぶり。
 この調子だと、本筋に絡むことはないのかもしれませんね。加藤さんのように脚光を浴びる前から存在感があった、
 というわけでも(失礼ながら)ないし……うーん。

 スタッフは彼女をどうしたいんでしょう。
 このまま学校の友達、という役目で終わらせる率は高いとして、一回ぐらい事件に関わらせる気はあるんでしょうか。
 それとも無いのでしょうか。謎は深まるばかりです。


・フレイウィザーモン

 フロンティアの頃にデビューしたウィザーモンの派生系です。
 当時は映画のモブぐらいしか出番がなく(一応大映りするカットはありましたが)、日の目を見る事はないのかと思いきや
 単発回とはいえメインを占め、前期主人公を梃子摺らせるほどの活躍を見せてくれています。
 赤いマッチで攻撃、青いマッチで人のやる気を吸い取るようですね。

 まあ要するに、主人公補正を吸い取ったようなものなのでしょう。そりゃタフで当たり前だ。
 どんな攻撃を受けても、紙一重だとかなんだとかあれこれ理由をつけて何故か絶対に死なないのが主人公というものです。
 相手がよほどの強者か、事前にもう死にそうだとか山のように仕込みをしてない限りは折れることがありません。
 クロウォで言えばシャウトモンが単身でダークネスバグラモンに挑むぐらいの無茶でもないと、砕くのは不可能なのです。

 しかし、それは所詮ニセモノの補正。
 心の奥底から無限に湧き出てくる真の主人公補正の前には、ただ萎んで吹き消されるしかありませんでした。
 ああなってしまったら、もはやニセモノが存在し続ける余地すらなくなってしまうのですから。

 中の人は阪口大助氏。デスジェネ篇ではイグニートモンを演じていた方ですね。
 もはやイグニートモンが再登場する余地はほとんどないでしょうが、こちらの役としてならまだ登板の目はありそうです。



★名(迷)セリフ

 構造上、後半に集中しています。


「やったか!」(ダメモン)

 それ言っちゃダメダメね、とお約束のコメントを強いられました。
 相手の補正をさらに補強してどうするんですか。知らないんだからしょうがないですが。


「ま、まるでヒーローのよーなセリフ!」(オメガシャウトモン)

 フレイウィザーモンの啖呵に仰天。この形態ではめずらしいギャグ顔です。
 これによりギャグ空間にも支配されたため、事実上フレイウィザーモンを倒す権利を失ったことになります。
 メタな話ですが、まあそういう感じ。


「タギル…はじめてお前と会ったとき、オレは誓ったんだ。
 お前と全デジモンをハントする…! そうすりゃ、オレたちは人間界とデジモン界の…スーパースターになれる!
 オレは本気で…お前のやる気、根性があれば…オレたち二人はトップ獲れる…!
 スーパースターになれると思ったんだぜっ!」
 (ガムドラモン)


 幾度か折れそうになった目標ですが、そのたびに立て直してきました。
 いささか具体性に欠けますけど、今を全力で生きる彼らにはむしろ相応しいのかもしれません。
 こうした捻りも衒いも無いセリフを真っ正面からぶつける展開は、村山氏流ですね。


「へっ…お前のやる気はしょせん、タギルの借り物だ! 心の底から…湧いて出たもんじゃねぇ!
 そんなのにオレは負けねぇっ!」(ガムドラモン)


 フレイウィザーモンを糾弾して。
 このセリフが、タイキに何かを予感させることになります。何かが生まれようとしている。
 新たな何かが、滾り立つかのように。


「オレのやる気は、次から次に溢れ出てくるんだ…!
 お前なんかに、全部奪えるかっ!!」(タギル)


 気迫を取り戻して立ち上がり、唖然となったフレイウィザーモンに。
 なぜ元に戻れたかなどはこの際どうでもいいです。このぐらいでなきゃ、主役の器とはいえません。
 うまいこと作戦で取り戻す展開もできたでしょうが、それでは彼の尽きぬバイタリティは描けない。
 そうした策より、パワーを持って引っくり返すほうが彼ららしいとは言えないでしょうか。


「オレたちの! やる気は! お前のその炎より…熱いっ!!」(アレスタードラモン)

 フレイウィザーモンと激突しながら。直後、圧倒的なパワーで気迫の押し出しをやってのけます。
 ところでこの組み合わせ、なんか思い出すと思ったら中の人がカテジナさんとウッソだ。


「…なんか、オレたちみたいだな」(タイキ)
「…ああ、そうだな」(オメガシャウトモン)


 みごと勝利を収めたタギルたちを見て。
 今回の事件は、彼らとしてもいろいろ大切なことを再確認した一件だったのかもしれません。


「ちょっとぐらい、やる気が戻らなくてもよかったかも…」(タギル)

 すっかり復活してテンション2倍な杉本先生に振り回されて。
 東京の放送では、直後のCMに杉本先生と中の人が同じブロリーが出てくるので牛乳を噴いてしまいます。



★次回予告

 いまや日本人のソウルフードのひとつ、ラーメンを題材にしたお話です。
 もはやデジモンでやる話なのかどうかすら不明ですが、セイバーズあたりにも似たお話があったような……