18 それは知恵の輪かはたまたウロボロスか。

 トット先生の眼鏡が窓の外に零れる光を弾く。
 バルコニーに続く大きな両開きの窓には白いカーテンが掛かっていたが、珍しく高く差し上った日はその隙間から光を覗かせていた。
 窓脇のベッドの上に高く積み上げられた羽枕に先生はもたれかかっていた。いくらか痩せていたけれど、目の光はまだ生き生きとした輝きを保っている。
 思いの外元気そうな先生の様子を見て、若者たちはほっと胸をなでおろした。
 公務から外れて久しいとはいえ、彼がこの国にとって重要な政治顧問であることに変わりはない。それにジタンの子どもたちにとっては、彼は大切な家庭教師の先生なのだ。元気な姿を見ればほっとする。
 トット先生の方は、ルシアスとビビアンのみならず、レオンハルトに修道女まで現れたことに目をぱちくりさせていた。が、まるで叱られるのを廊下に並んで待っている生徒よろしく、ずらりと雁首を並べている若者たちの姿が微笑ましくてならなかったのだろう、すぐに莞爾とした笑みを湛えて枕元に佇立するジタンを見上げた。
「手持ちの札が一挙に増えましたな」
「数だけってことにならなきゃいいけどな」
 明るいトット先生の声音とは対照的にジタンの呟きは悲観的だ。ルシアスの眉が『おや?』というように上がる。
「父上?」
 心配そうな声と、そして目の色。自分を凝視める息子の顔を、ジタンは苦笑しながら眺め返した。
「心配事が山積みなのさ。」
「心配事――宝珠や事件の他に、ですか?」
 なおも訝しげに息子は小首を傾げる。後ろに並んだ若者連中も然りだ。一通り説明したほうが良さそうだった。ジタンは面倒くさそうに口を開いた。
「一時大量発生した魔物は何とか各領主とアレクサンドリアの軍とで討伐した。まだ各地から魔物襲撃の報は届くが、せいぜいが二、三体の出現でたいした事はない。だがそれ以来天災の方が目立ってきているんだ。ブルメシアは砂嵐に悩まされている。ウブ砂漠が目に見えるほどの速さで周囲の草原を侵食し始めているそうだ。リンドブルムは度重なる地震でかなりの被害を出している。アレクサンドリアは南部で大津波だ。グルグ山が噴火を起こし、エスト・ガザでもかなりの被害が出ているらしい。マダイン・サリでも然り、だ」
「宝珠が盗まれたことと、その天災とに、因果関係があると言われるのですか?」
 ルシアスは冷静だった。
「わからん。だからトット先生をお呼びしたんだ。このすべての災害が、集中して起こっている。アレクサンドリアで事件が頻発してるこの時期に、だ。ただの天災とは思えない。それはトット先生も賛同されている」
「そうですな」
 先生がジタンの言葉を引き継ぐ。
「私は、この災害を誘引している何かの力があるはずだと考えております。グルグ火山もマダイン・サリも、地脈の力の集中している場所です。クリスタルの揺らぎはその裂け目に発現しやすい」
「でも、それだけじゃ宝珠との関連は説明できないのではありませんか?先生。それに宝珠は盗まれただけです。あれは召喚士が持たないと意味をなさないただの石に過ぎないのでしょう?だとしたら盗まれたくらいでこの世界に影響を与えるとは思えません」
 狐につままれたような顔で立ち並ぶ若者たちを尻目に、ひとりルシアスは身を乗り出してけん制した。口調は穏やかだが、顔つきは厳しい。ビビアンが宝珠を盗まれたのは自分の管理不行き届きのせいだと思っているからだ。それだけに、宝珠との関連を否定したかったのである。
 その王子の気持ちはジタンにもトット先生にもよく分かっていた。
「さよう、いちがいに宝珠の影響だけだとは申せません。宝珠は封印にすぎない。その封印を解いて、神獣アレクサンダーの力を解放せんとする輩がどこかにいると言うことでございます」
「でも…宝珠はひとつじゃないし…それに召喚士じゃないと召喚できないのに?」
「それでも解放された無秩序かつ強大なエネルギーはこの世界に影響を与えてしまってるってことなんだろう」
 唐突に口をはさんだのはレオンハルトである。彼は今まで壁に凭せ掛けていた上半身を起こすと、つかつかとトット先生のベッドに歩み寄った。
「どうしてこの世界に災いを振りまこうとしているのかは俺にもわかりません。だが、そうしようとしている張本人については、心当たりがあります」
 意表をつく発言に、さしものトット先生も目を見開く。
「それは?」
「シルヴィウス・オシウス。正教会シルヴィウス派の宗主です。今飛ぶ鳥を落とす勢いでこの大陸全土に勢力を伸ばしつつあります。世の中が不穏で危険に満ちていればいるほど人々は救いを求める。もしかすると自分の宗派をもっと広げるために、この世界を乱したいのかもしれません」
 うむ、と先生は顎を引いて黙り込んだ。
 心当たりがある、というレオンの言葉には反応したジタンも、次に発せられた名を聞いて口を引き結ぶ。
「まさか、そんなこと…。僕もあったことがあるけど、彼は穏やかな普通の人だったよ。そんなことをするような人には見えなかった」
 一番驚いているのはルシアスかもしれない。白髪隻眼の長身の青年を思い起こしながら、彼は信じられないように首を振った。
「王子。お言葉だが、俺にはあいつが穏やかだとは到底思えない。表面は確かに凪いでいるが――だが奥に何か計り知れない部分を持っているやつだ。それに」
 一旦ルシアスの方に首を廻らしたレオンは、再び正面を向いた。
「それに、状況証拠はかなりあるんです。まず第一に、宝珠の在り処を賊が知っていたこと。ビビアン王女の話によれば、王女が宝珠を受け継いだことを知っている女官がいたはずです。確証はありませんが、彼女たちはおそらくシルヴィウス派の信者でしょう。彼女たちの私室を探せばその証は得られると思います。パルマコン族も同じです。彼らの振る舞いは狂信的ですらありました。だいいち、彼らが王女をかどわかさねばならぬ理由がない。何かに唆され…煽られて行動に及んだとしか考えられないのです。それに彼らの戦いぶりは、まるで殉死を望む求道者のようでした。第二に、そのパルマコンの邑を焼き払った『メテオ』。この黒魔法を自在に操れる者は限定されます。どんなに魔力を有するものでも封印された黒魔法の詠唱を目にすることはできません。それが可能なのは教会関係者の、それもひどく高位の聖職者だけです。長い年月かけて浸透してきた保守的な正教会の面々にそれができるとは思えない。だとしたら、該当するのはあの男しかありえません」
 そこまで一気に喋って、レオンは一つ息を吐いた。喋りすぎて気分が悪くなりそうだった。が、念を押すために背後を振り返り、壁際にじっと俯いて立っている修道女の名を呼ぶ。
「エルナ。そうだろう?」
 訊かれてエルナは言葉に詰まった。
 確かにそうだ。状況証拠はシルヴィウスが限りなく黒に近いことを示している。おそらくそれ以外には考えられない。だが。
「ええ、そうです。ただ、理由が…今レオン様がおっしゃったようなものだとは私には思えません。あの人は、そんな手を使ってまで自分の宗派を広めようとする人ではないし、それにその必要はないんですもの。皆様も御存知だとは思いますが、シルヴィウス派は一般庶民に護符を記して、下位魔法を使えるようにしてやります。だから爆発的な勢いで広がっているんです。あえて世を乱さなくても、このままで十分大陸全土に力が及ぶでしょう。それに彼がそうして魔法を与えるのは、人々が少しでも生き易くするためだもの。その生活を脅かすようなことをするとは思えないんです」
「エルナ、しかし…」
「修道女殿の言葉に私も賛成ですな」
 トット先生が結論を下す。
「先生」
 レオンが反駁しかけるが、それを先生は手で制した。
「シルヴィウス・オシウスに目星をつけたのはレオン殿が初めてではありません」
「え?」
「他ならぬ、ここにおいでのジタン陛下が真っ先に私に言われたことなのですよ。ガーネット様がお倒れになった。その際、シルヴィウスと言うその青年に気をつけるように、とのうわ言を口になさったらしいのです。ですから私は陛下のお力も借りて、その青年について調べられる限りのことを調べました。と言ってもこの数日ですから、全てを網羅することは適いませんでしたが。その結果分かったことは、シルヴィウスには動機がないということだったのです」
「しかし…」
 なおも承服できかねる様子のレオンに、ジタンが止めを刺す。
「例の魔物の大量発生のとき、シルヴィウス派がアレクサンドリア軍に聖水を大量に寄付したそうだ。そのおかげでこちらの被害は最小限にとどめることが出来た。お前の親父なんぞ、シルヴィウスを表彰したいとまで言ってたんだ。シルヴィウス・オシウスは確かに怪しい。目を離さないほうがいいかもしれんと俺も思う。一連の事件への関わりも否定はできん。だが動機がない。だからお前たちに話を聞こうとしたんだ。もしかしたら俺たちの知らないところに何か確たる証拠が眠っているかもしれないと思ってな」
「もし、その確証が見つからなかったら?」
 ルシアスの呟きに、ジタンが頷く。
「この一連の出来事を画策している犯人は特定できない。あとは対処療法しかないってことだ。後手に回って泥縄式だな」
「しかし、このまま天災が続けば、対処療法といっても限りがあるのではありませんか?」
 レオンのもっともな質問にはトット先生が答えを返した。
「先ほども申し上げたように、天災の根源は地脈の歪みだと思われます。ですから天災のみならば対処の仕様はないわけではありません」
 ただ、と注釈をつけたいところだったが、トット先生はそれきり口をつぐんだ。誰にも言えぬ注釈だったからだ。打つ手はある。だが、それなりの犠牲を必要とする手だった。
 トット先生の言う『手』は、ジタンにはある程度想像がついた。
「他に言い残したことはないか?気がついたことがあれば、何でもいい。ここに落として行け。あとは優秀な俺とトット先生の頭脳で問題を解していくから」
 余計な詮索をされぬためにも、この若者軍団にはさっさと引き取ってもらったほうがいい。何の手がかりも得られぬとなれば、もう彼らに用はないのだ。まるで厄介者でも追い払うようにジタンは手を振った。
「御自分で呼びつけておいて、それはないのではありませんか、父上」
 明らかに気分を害している一同を代表してルシアスが文句をつける。
「もう少し役に立つかと思って呼んだんだ。情報がなけりゃ何の役にも立ちやしねえ」
 言い放ってジタンはルシアスの肩を押した。
「あの…一つ気になることがあるんです」
 壁際にひっそりと立っていた修道女が顔を上げた。息子を押し出そうとしていたジタンの動きが止まる。
「何だ?」
 女性相手となると、途端に声が優しくなる。この徹底振りは我が親ながらあっぱれだとルシアスは思う。
「シルヴィウス派が何を信奉しているか御存知ですか?」
「いや。だが正教会の一派である以上、本派と同じ神じゃないのか?正教会は確か神獣アレクサンダーだったか」
 ええ、とエルナは頷いた。
「シルヴィウス派も同じです。ただ、それに加えてもう一つ、彼が崇め奉っているものがあるんです。公にはされていませんが」
「それは?」
「召喚士、ですわ。陛下。アレクサンダーを降臨させうる力を持つ召喚士を信奉しているのです。ですから彼が、シルヴィウスがこの国に災厄をもたらそうとしているとは私には思えないのです」
 修道女の言葉がひととき部屋を支配する。混沌がまた舞い戻ってきた響き。
「でも彼は盛んにルシアス様に接触を持とうとしていました。一連の事件を匂わせるような発言もしています。そして現に、その事件によってルシアス様の力は少しずつ引き出されているような気がするのです」
 ジタンは天井に目を向けた。相変わらず出口が見えないもどかしさが胸に渦巻く。
「ではあなた様は、シルヴィウスがルシアス様の力を味方につけようとしているとお考えなのですな?」
 ベッドの上から静かな声がした。
 居合わせたものは皆その声の主に視線を注ぐ。
 トット先生は眼鏡を拭き始めた。忙しく頭脳を働かせる時の先生の癖だ。
「はい――いえ、わかりません。あの人の考えることは私の理解の範疇を超えてますもの」
「ルシアス殿」
 トット先生は眼鏡をかけなおすと、部屋の中央に突っ立つ少年の名を呼んだ。
「はい」
 ルシアスは慌てて先生の側に駆け寄る。
 先生は王子の手を取った。自分よりも大きく育った骨ばった少年らしい手だ。その滑らかな甲を愛しげに撫で、先生は噛んで含めるように言った。
「断定はできぬまでもどうやらシルヴィウス・オシウスが関わっていることは明白のようですな。彼奴の目的は定かではありませぬが、宝珠のことはこれで説明がつきました。封印が取り去られた後、その力を自在に――何の障害もなく行使できるようになるのは、あなた様なのですから」
 そして先生は少年の手を包む皺だらけの手に力を込めた。
「どうかこの老人の言葉を胸に刻んで下さいますよう。…宝珠の封印が解かれたときは、あなた様ご自身が封印となられませ。」
「そんな…」
 ルシアスの目に怯えたような光が走る。自分のか弱い精神の上に、更に重荷が課せられようとしているのだ。彼は戸惑ったように父を見上げ、レオンを見、そして壁際の修道女を見つめた。
「ふん――なら話が早い」
 息子の周章を吹き飛ばすように素っ気無く乱暴にジタンが言い放った。
「お前がぐらつかなきゃいいだけの話だ。後は対処療法でも泥縄でもかまわんから俺たちが何とかするさ」
 そして父親はいつものように、息子の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「お前はしっかりと大地に足を踏みしめて立ってろ。ぐらつくな。それだけで十分だ」
「そうですな。ジタン殿。では我らは今後の対策について再び話し合いましょう」
 

 ぐらつくな、と言われたって。
 トット先生の部屋を出てからというもの、ルシアスはどんよりと暗い表情でため息ばかりついていた。
 ルシアスの暗鬱な気分とは対照的に、中庭をぐるりと囲む回廊にはのどかな日が満ちている。外はまだ肌寒いが、そよぐ微風に春の匂いが潜む。
「兄さま…ごめんなさい。あたし、ちゃんと宝珠を肌身離さず持ってればよかった」
 兄の後ろを小走りについていきながら、ビビアンが必死に謝る。
「ビビのせいじゃないよ。ビビが悪いんでもない。だから謝ることないよ」
 はっとしてルシアスは歩調を緩めた。
「僕こそごめん。心配かけて。落ち込んでるのは全然ビビアンのせいじゃないからね」
 半泣きの妹の頭を抱き寄せて言い繕う。
「だったらしゃきっとしろ、しゃきっと!俺は喋りすぎて気分が悪い」
 速度を落とした二人の横を、レオンがさっさと追い抜いてゆく。
「レオン――、ねえ、やっぱりあのシルヴィウスって人が黒幕なのかな。僕にはどうしてもそう思えないんだ」
 追い越していった青年の広い背中に向かってルシアスは声をかけた。
 青年は振り向かなかったが、幾分歩くペースを落とす。
「これだけ状況証拠が揃っていても、か?」
 背を向けたままいらえを返すレオンの前方にルシアスは回りこんだ。
「そうだよ。だって問題は僕自身だってことじゃないか。僕が完全に覚醒して、自分の力を律することができれば、クリスタルだって安定させられるんだろう?トット先生がおっしゃってたことって、そういうことだよね?今こうしてこの世界が不安定なのは、僕って異分子が不安定だからで、だとしたら、事態を解決するには僕がいなくなるか、僕が完全に覚醒すればいいってことだろう?つまりは僕の問題で、誰が何を画策していたって関係ないってことだよね」
 すがるような眼差しを向けられて、レオンは困ったように顎を掻いた。
「…俺に聞くな。ただでさえ傷が痛むのに、頭まで痛くなる」
「レオン!」
 ルシアスは立ち止まり、両手を広げてレオンを止めた。
「俺に何を求めてる?答えが俺の頭の中にあると思ってるのか?俺はシルヴィウスが犯人だと睨んでる。やつをぶっ殺せば何もかも収まると思ってるさ。お前のせいだなんてこれっぽっちも思ってねえ。だけどもし、お前の力のせいだとしても、そしてお前が半端に動揺したせいでこの世界が揺らいだとしても、俺はお前の側にいる。お前の後ろにいて、いつでもお前を守ってやる。それが俺の信条だ。文句あるか」
 やけくそで怒鳴ると、彼は立ちはだかるルシアスの体をずいと横に押しのけて再び歩き出した。前よりももっと大きな歩幅で。
 ルシアスは目を大きく見開いてその場に固まっていた。レオンの言葉が腑に落ちるまでしばらく時間がかかった。
 そして。
「それって――答えになってないし!」
 はぐらかされたことを責めつつ、慌てて踵を返して後を追う。何かが吹っ切れたのか、その声には幾分明るさが戻っていた。

 残された二人の女性は、瞬く間に見えなくなっていった男性陣の姿を黙って見送った。
「つまんない」
 花崗岩が規則正しく敷き詰められた床に視線を落として、ビビアンが口を尖らせる。
「何がですか?」
「だって――結局あたしの気持ちなんて、男の友情に適わないんだもの」
 体の後ろで手を組んで、転がる小さな石ころを蹴っ飛ばす。その幼子のような仕草にエルナは思わず微笑んでいた。
「そうでしょうか。確かにレオンのあの変な励ましは効果があったみたいですけど、でもそれはビビアン様のお気持ちがあったからこそですよ」
「そうかな」
「そうです」
 修道女の柔らかな断定は、レオンの言葉がルシアスにもたらした効果と同様の効き目をもっていたらしい。ビビアンはぱっと顔を明るく輝かせて、にっこりと笑った。 のせられやすい単純な性格も幸いしたようだ。
「そうよね!」
 完全に調子を取り戻すと、王女はばっとドレスをたくし上げて駆け出した。
 もともと運動神経はいい。目にも留まらぬ速さで回廊を駆け抜け、出口で振り向いて彼女はぶんぶんと手を振った。
「あたし、レオンを送ってくるね!」
 つられてエルナも思わず手を振り返してしまう。が、すぐに手を下ろして彼女はかすかに赤面した。そこが城の真っ只中であることを思い出したのだ。
 そうして彼女は姫君とは別の意味のため息をついた。
 
 シルヴィウス・オシウス。
 因縁浅からぬ先輩がこの事件の黒幕である可能性はきわめて高い。だが、自分の中にどうしても彼を擁護したい一面もあることに、彼女は気づいていた。同時に、ルシアスという愛すべき青年の力になりたい気持ちも強かった。その相克の中で彼女は身動きがとれなくなりそうだったのだ。おそらく、あの場所に居合わせた誰よりも。
「自分の目で――耳で確かめるしかないのかもね」
 誰にともなく、彼女は呟いていた。