ガーネットの体が仄かな光を放ち始めた。
闇に染み込むような幽かな、しかしどこか清冽な聖らかさを与える光。
それは彼女の体を抜け、光の柱にいざなわれるように虚空へ立ち昇る。
ガーネットは声もなく、その美しく温かい光の粒の軌跡を凝視めた。
エーコもスタイナーも…誰もが言葉を失い、我が目を疑った。
虚空に広がるアレクサンダーの聖なる翼は、瞬く間に翼竜の群れを一掃した。と、その純白の翼の前に、突然煌く光の粒が出現したのだ。きらきらと輝きながら、その光はまるで踊るように舞い上がり、やがて人の姿を形作り始めた。
それは不可思議な、そして荘厳な光景だった。
白くぼんやりとした輪郭が次第にはっきりした縁に変わってゆく。見る間にそれは、一人の少年の姿となって、闇の中に浮かび上がった。
黒髪と、その角以外は父親に瓜二つの少年。
――僕が、つれてゆくよ。
少年の背後でアレクサンダーが大きな純白の翼を広げた。
まるで天からの御使いのような神々しい美しさをまとい、少年はゆっくりと目をあけた。
澄んだ――そして深い、美しい青。
――行き場を失った魂を、僕がクリスタルに連れてゆくよ。
少年は笑った。この上なく聖らかな眼差しを母なる女性に向けて。
「だめよ!」ガーネットが必死に叫ぶ。
その少年が誰なのか、彼女は本能的に察知する。彼女の、そしてジタンの分身。二人の想いの証。
「行かせないわ!かあさまがあなたを行かせやしない!お願いだから戻ってきて。あなたまで行ってしまわないで!」
半狂乱の絶叫だった。
ミコトがガーネットの身体を抱きしめる。それを振りほどこうともがく彼女を力づくで抱き込んで、ミコトは空に浮かぶ少年を見上げた。
「あなたは、この二人の子どもなのね?」
少年は静かに頷く。
「二つの世界を融合させるものとして生まれたのね?」
そしてまた。
――融合ではなく融和を。
――全ての魂を平安に還元するために。
――魂の循環が元通りになって、クリスタルの融和が終ったら、きっと僕は帰ってくるから。
――だから、悲しまないで。
「悲しむわ!だってあなたはそこに一人しかいないのよ!あなたじゃなきゃだめなのよ!?」
ガーネットは夢中でミコトの腕から逃れる。
だが、少年は再び微笑むのだ。
――うん。僕が…僕自身が帰ってくるよ。
――二つのクリスタルを融合させるものとしてではなく、今度は融和の証として。
だから悲しまないで欲しいと。少年は優しく笑う。
その視線に貫かれた瞬間、ガーネットの脳裏に幻影が閃いた。
穏やかな日差しの中。
腕の中に抱いた黒髪の赤ちゃん。
傍らに佇む金髪の青年。
――おとうさん。僕が戻ってくるまでお母さんを守って。お願いだよ――
再び少年の眸が閉じた。
アレクサンダーの白い翼がひときわ強く輝き、大きく開かれる。
凄まじい量の光の洪水の中で、それはゆっくりと、全てを包み込んだ。
そう…天空の全て。
そして地表に横たわる全てを。
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