1783年12月27日
もうすぐ生まれてくる私の赤ちゃん。
ユーベルはもう名前まで考えている。
まだ男の子か女の子かもわからないのに、彼は絶対女の子だと思い込んでいるみたい。
「一月に生まれてくるから、ガーネットって名前にするんだ。」
私の顔を見るたびに、相好を崩しまくってそう言う。
宝石は磨かれて輝く。その輝きには、磨いてきた過去が反映される。宝石を作り出す者の心と努力が美しさを生み出すのだ。そんなふうに、生れ落ちたときから美しいのではなく、美しく輝くように、生きていってほしい。だから宝石の名をつけたいんだと彼は言って、小さな声で付け加えた。
君みたいにね。
くすぐったいような言葉を、いつも私に贈ってくれる。
結婚して8年になろうかというのに、彼はちっとも変わらない。
相変わらず美しくて、そして少しずつ威厳を身に纏い始めている。穏やかな慈愛に満ちた人柄で、その出自を越えて民からも貴族からも慕われている。
この人の傍らにあるとき、私は自分が何と幸せなのだろうとつくづく思う。
女王という重責を担うことができるのは、この人がいてくれるから。
身ごもってから食欲が増した私は、あっという間に太ってしまった。以前の倍くらいになったような気がして、鏡を見るたびにため息が出る。
どうか生まれてくる子供は、男でも女でも、彼に似ますように。
こんな私なんかに似たら、可哀想過ぎる。
こう言うと、ユーベルは必ず怒るのだけど。
君は愛らしいよ。と、彼は言ってくれるけど、それだけは彼の目がどうかしていると思う。
1784年2月15日
いとしいこの子が生まれてから一月が経った。
ぬけるような白い肌、そして漆黒の髪と大きな黒い瞳。
生まれてきた子はユーベルにそっくりの、見目麗しい女の子だった。
私の宝物。いいえ、私たちの宝物。
ガーネットは今私の横ですやすやとかわいい寝息をたてて眠っている。
ほんとに…五分おきには顔を出しているのではないかと思えるほど、ユーベルは足しげくこの部屋にやってくる。
もちろん、ガーネットの顔を見るためだ。
動けない私に代わって、執務を一切取り仕切ってくれているから、忙しいはずなのに。
でも、ユーベルだけではない、ヴァイスも、それから女王付の女官たちも、なにくれとなく理由をこじつけては、この子を見に来てくれるのだ。
私はそれが、まるで自分のことのように嬉しくて、こんなに幸せでいいのだろうかと時折不安になる。
もし、このユーベルがいなくなって、この子までいなくなったりしたら、私は気が狂ってしまうかもしれない。
命に代えても、あなたたちを護ってあげる。
絶対に。