Long Long ago  <6>

 




1790年8月22日

ごめんなさい、ガーネット。
あなたを守ってあげられなかった。
不甲斐ない母を許して。

ユーベルの筆跡)
お前が部屋に閉じこもってもう3週間が過ぎた。
あの子が天に召されたのはお前のせいではない。
お前には何の咎もない。
国中に疫痢が流行り、お前はアレクサンドリア国内をくまなく視察して回った。
手ずから病人を介護し、民衆を慰め、できるだけの手をうった。
その姿を、あの子はちゃんと見ていた。
お前がいない間にあの子が疫痢に感染し、床に臥せてからも、あの子はずっとお前を誇りに思っていた。たった6つなのに、ちゃんと、お前を理解していた。自分の病気がお母様のせいだなんて少しも思っていなかった。
最後、息を引き取る間際、あの子はお前を呼んだのだ。他の誰でもない、お前をよんで、そしてこういった。
だいすき、と。
お母様。だいすき。
それがあの子の最後の言葉だった。
ガーネットはお前を愛し、お前の笑顔が大好きだった。
元気を出して欲しい。
今は辛いかもしれない。時を待つしかないのかもしれない。
だが、お前を待っている民が大勢いることを忘れないでおくれ。
そしてあの子が一番…お前が元気になるのを望んでいるということを、忘れないでいてほしい。

 

1790年8月25日

私が卓上に放り出しておいた日記が、ベッドの枕もとに置いてあった。
あの人が私のために、私のことを思って書いてくれた言葉が、胸に沁みた。
そう、私は女王なのだから。いつまでも悲しんでいるだけではいけないのだ。
ガーネット
ガーネット。
お前を愛していたわ。世界中の誰よりも、何よりも、お前を大切に思っていたわ。
ガーネットのことは絶対に忘れたりしない。
今は、お母様は頑張って、お前が誇りに思ってくれた女王さまに戻る。
でも、それはガーネットのことを忘れたからじゃないのよ。
お空から見ていてね。
いつかお母様も、ガーネットのそばに行く。
それまで、いい子にして待っていてね。
ガーネット…
お母様を許して。

 

1790年11月15日

ああ、神様。

今朝、港に難破船が漂着した。
難破船と呼ぶのもおこがましいような小さな小さな船だった。
その船には、母親らしい若い女性と、そしてまだ幼い子供が乗っていた。
母親の方はすでに息を引き取っていて、手の施しようがなかった。でも、子供の方は、生きていた。
そして…
ああ、神様、子供は、私のガーネットに生き写しだったのです!

額にある角は、一度天に昇ってまたこの世に舞い戻ってきた印のように見えた。
戻ってきてくれた。私の元へ。ガーネット。
息はあったけれど、まだ意識は戻らなくて、今は医者のもとで治療を受けている。
私は待つしか出来ない――でも、ユーベルがついていってくれているから。

神様、感謝します。
今度こそ、あの子を放したりしません。
今度こそ、あの子を守ります。

1790年11月16日

ユーベルが先刻城に戻ってきた。
何も言わずに私を抱きしめてくれた。
「あの子はガーネットだわ」
私の言葉にも、ユーベルは応えなかった。でも、私の身体に回された手に力がこもった。
「お前の思うとおりにすればいい。あの子の額の角はとれたよ。これでもう、どこからどう見ても、あの子はガーネットだ」
随分経ってから、ぽつりと、彼はそう言ってくれた。
「大切にするわ。あなたと私の子ですもの」
私は混乱しているのかもしれない。そう、分かっているのだ。あの子はガーネットではなく、ガーネットの身代わりにすることがあの子の人生を狂わせるかもしれないことも。
でも、抑えきれない。
あなたがいてくれるだけでいいのよ、ガーネット。
私をお母様でいさせて。
あなたを愛すから。全身全霊を傾けて、愛するから。