[前のページに戻る]

←[6]に戻る

[7]

港署に戻った勇次は鷹山と共に近藤課長に経緯を報告した。
2年前に知り合った笹川親子。
母親の理香が一昨日の夜から行方がしれないこと。
恐らくはその件に銀星会の田島、会社社長の鈴田が絡んでおり、
フィリピンからの拳銃密輸が関係しているかもしれないこと。

”銀星会”という単語を鷹山の口から聞いて近藤課長は顔をしかめた。
「おいおい、銀星会かぁ…(ため息)。」
「銀星会もこの間の県警の取り締まりで拳銃密輸のルートを1つ潰されてますからね。
 新規開拓に必死になってる所ですよ。田島は目立ちたがり屋だ。ここで新ルートを開拓できれば
 組の中での評価もあがる。」
「おい、鷹山。最近勝手に動き回ってたのはそれか?!」
「え、いや…」
「鷹山、派手に動かんでくれよ。改造拳銃の密輸に関しては、県警もまだ動いてるんだ。また何言われるか…」

近藤課長の鷹山への小言が始まりそうになる。慌てて勇次が話を元に戻す。

「と・も・か・く!鈴田がフィリピンからの客をもてなしてたことは事実なんですから、
 田島と鈴田の周り、あたらせてください。」
「…よし、わかった。但し、慎重に。まだ笹川理香がこの件に関係しているという確証はないが、
 もしそうなら先ずは彼女の無事を確認することが先決だ。それを忘れるな。」
「はい!ありがとうございます、課長。」

捜査課全員が部屋を出て行く。

勇次は宿直室に真理亜と薫がいると聞き、覗きに行く。
そーっと扉を開けると、薫が人差し指で「しー」というポーズをする。
音を立てないように、ベッドに腰掛けている薫の側に行く。
布団の中では真理亜がすやすやと寝息を立てて眠っていた。
薫と勇次は小声で会話する。

「今寝てるんだから、静かにね。」
「(黙って頷く)」
「安心したのかしら、ぐっすりよ。」
「悪ぃな、薫。」
「この貸しはちゃんと返してもらうわよ。それにしてもこの子、可愛いわね。人見知りもしないし、いい子だわぁ。」
「だろ?」
勇次は真理亜を褒められて自慢げな気持ちになる。軽く真理亜の髪を撫でる。
「何が、『だろ?』よ。あんたが産んだワケじゃないでしょ!?まったく…」
「ははは、…スイマセン。じゃ、あと頼んだぞ。」
「ほい!薫ちゃんにまかせて仕事しといで!」

こういう時の薫は多くを聞かないし、とても頼りになる。勇次は安心して真理亜のことを任せて出かけていった。


田島、鈴田の周辺を洗った所、取引が近々ありそうだということがわかった。

トオルから無線が入る。港302でその無線を受ける勇次。

「先輩、見つけました!山尾らしき男ともう一人が泊まってるホテル!」
「よーし、よくやったトオル。そこから目を離すなよ。」
「早く応援にきてくださいよ、大下先輩。」
「情けねぇ声だしてんじゃねぇよ、トオル…」

そこへ一人で何かを調べていた鷹山が戻って来て車に乗り込む。

「どこ行ってたんだよ、タカぁ。」
「ちょっと気になってたことがあったんでね。」
「ん?」
「”山尾”って名前に聞き覚えがあったんだ。そしたら、やっぱりでてきたぜ。」

4年前。銀星会は、関東進出をもくろむ関西のとある暴力団と小競り合いを繰り広げていた。
その時相手側の先発隊として来ていた幹部が殺された。やったのは銀星会が雇ったチンピラだ。
結果としてこれを機にその時の進出は阻まれた。
銀星会としては、組とは無関係に見せかける為に、もともと鉄砲玉としてそのチンピラを雇い、
用が済んだら始末するつもりだったのだろう。
ところがこのチンピラが逃走した。海外へ逃亡したという噂だった。
そのチンピラの名前が”山尾”だった。

「当時、警察も山尾を追っていた。もし銀星会より先に見つければ、奴らを潰す絶好のチャンスだったからな。」
「でも見つからなかったのか…」
「ああ。ひょっとしたら銀星会に殺されているのかもしれない、という説もあるがな。」
「じゃあそいつが今回里帰りして、とーっても恩のある銀星会と取り引きしようとしてるってわけ?」
「かもな。だが、銀星会だってバカじゃない。”山尾”が生きていること自体が予定外なんだ。
 黙って奴のいいなりになるとも思えない。」
「誰が考えたってそうだよな…。もしその”山尾”がこの山尾なら、どうして日本に戻ってきたんだろうな。
 わざわざ殺されに来たようなもんじゃねぇか。」
「さてね。それは山尾くんに聞いてみないとわからないな。で、これが当時の写真だ。」

鷹山が当時の捜査資料からコピーしてきた山尾の写真を取り出して、勇次に渡した。
勇次はちらっとその写真を見る。そして、ちょうど山尾の宿泊しているホテルに車が到着した。

「あ、先輩。こっちです、こっち。」
ロビーを見張れてちょうど死角になる位置いたトオルが勇次たちを呼ぶ。
「どうだ?」
「今のところ動きはありません。あっ!」
と、ちょうどトオルが報告した時にエレベーターの扉が開き、男が2人降りてきた。
1人はフィリピン人と思われる男。もう1人は日本人らしい。
勇次が先ほどの写真と見比べる。
「タカ、ビンゴ!山尾に間違いないな。」
「連れのやつは現地の組織の人間ってとこだろうな。」

山尾ともう1人の男は1階にあるレストランに入っていった。
レストランと言うよりは食堂といった方がいいぐらいの粗末な所だ。
このビジネスホテルの他の泊まり客に混じって、食事をしている。
2人が食事を済ませ、また上の部屋へと戻っていくまで、3人は物陰からそっと見守った。

「あいつら、今日は出かけない気なんすかね?」
「部屋は?」
「608です。」
「ここでじっと見張るしかねぇかな…」
「勇次!」

鷹山が小声で勇次を呼ぶ。
鷹山の指差す方を見ると、ロビーにあるソファにガラのよくない男たちがいた。
勇次たちの方には気付いていない。

「銀星会の下っ端だ。」
「あいつらの見張り、って訳ね。それじゃあオレたちがここにいてもしょうがないな。彼らにお任せ。」

そういうと勇次はロビーの男たちには気付かれないように外へと出て行く。
鷹山もそれに続く。
「え?え?ちょっと待ってくださいよぉー、先ぱ〜い(小声)!」

外の覆面車に乗り込む勇次、鷹山、トオル。

「ちょちょちょっと、いいんですかぁ、中で見張らなくって?」
「オレたちの代わりにお兄さんたちが見張っててくれるんだ。大丈夫さ。」

そこへ吉井から無線が入る。

「はい、港302、大下。」
「昨夜、店の近くからそのホテルまで、笹川理香らしい女性を乗せたタクシーが見つかった。」
「このホテル、ですか?!」
勇次は思わず無線を握る手に力がこもる。
銀星会が絡むような件に理香が関わっていないことを最後まで願っていたのだが…。
「どうやら山尾たちが帰っていく車をつけてたらしい。但し、ホテルには入っていかなかったそうだ。
 そこまでは運転手が覚えてた。」

吉井は一呼吸置いて続きを話す。

「ところが、だな。谷村が聞き込んできたんだが、その近くで、
 笹川理香らしい女性が黒い車に連れ込まれるのを目撃した人がいる。」
「!」
「ヤクザ風の男たちだったそうだ。今、ナンバーを照会してもらっている。」

→NEXT

[前のページに戻る]