36号 2002年12月 はしか・風疹

 

 「コプリック斑」。 この言いづらい言葉が、「歯」「歯科」と関係しているって御存知ですか?

 

 「はしか」とは「麻疹」のことですが、昔は「命定め」と呼ばれるほど恐い病気で、七五三のお祝いは、「はしか」等を切り抜けた喜びがこめられているようです。

 「風疹」は、発疹が「はしか」と似ていて3日間くらいで消えることから「3日はしか」とも呼ばれています。

 

 

麻疹

 春先から初夏にかけて、幼児に流行する急性発疹性伝染病で、麻疹ウイルスという伝染力の非常に強いウイルスの感染によります。

カタル期:感染して10〜12日は何も症状のでない潜伏期ですが、やがて発熱があり咳も強くなります。発熱3日前後で、口のなかで頬の内側に、直径2〜3mmの円い赤い斑点が出て、その中に針先くらいの白い斑点があります。これをコプリック斑といい、これを見つけたら2〜4日後の発疹出現を予測できます。

発疹期:コプリック斑が出た後、熱はいったん下がりますがまた高くなります。そして、それと同時に赤い発疹が出ます。顔から始まった発疹は2〜3日で全身に広がり、重なり合って見分けにくいほどになります。

回復期:発疹が出て4〜5日すると、赤い発疹が色あせて茶褐色のしみになり、熱も下がってきます。合併症がなければ、しみも1〜2週間で消失してきれいになります。

合併症:肺炎・気管支炎・中耳炎・脳炎などを合併することがあります。

はしかの治療・予防

 ウイルスに効く薬がないため、熱ざましや咳止め、合併症防止のため抗生剤を使うことしかできません。安静にし、消化のよい食事、水分補給に注意しましょう。

 

 

風疹

 はしかに似た急性発疹性伝染病で、風疹ウイルスの感染によりますが、麻疹ウイルスほど伝染力は強くなく、児童を中心に流行します。ちなみに私は、8歳の時に小学校のクラスで流行しうつされました。

症状:2〜3週間の潜伏期の後、頚部のリンパ節が腫れたり、指で押すと痛みがあることがありますが、はしか特有のコプリック斑は出現しません。発疹ははしかに似ていますが、重なり合うほどの広がりはなく3日前後で消失します。熱もそれほど出ません。

合併症:関節炎・脳炎・血小板減少性紫斑病などを合併することがあります。

先天性風疹症候群

 妊娠した女性が、風疹に対する抗体を持っていないまま風疹ウイルスに感染すると、白内障・心疾患・難聴を主症状とする先天異常児が生まれやすく、この先天異常が先天性風疹症候群と呼ばれます。その頻度は妊娠4週までなら50%以上、5〜8週で35%、20週以降は0%とされています。

 

 

 

日本は「はしか輸出大国」

20075月、新学年が始まったばかりだというのに、「はしか」の流行で休講になる東京都内の大学が相次ぎました。はしかは幼児がかかることが多い病気なのに、15歳以上での流行は前代未聞です。なぜ、今若者に流行したのでしょう?

もともとはしかの伝染力は非常に強く、入学式や新入生の歓迎会など、人が多く集まる催しで感染が広がる例もあります。そこへきて、幼児の行動範囲は狭いものの、若者は多少体調が悪くても遠くまで出かけるため、その途中や行き先で、感染を広げる結果になっているのです。

 しかし、はしかはいったん免疫ができれば再びかかることはありません。ところが今回は、幼児の頃に予防接種を受けたのに、かかっている例が目立つというのです。1回のはしかワクチン接種で、十分な免疫がつかない人が数%いたり、あるいは免疫が弱くなったりしているからなのです。時間の経過とともに免疫が落ちてきても、ウイルスと接する機会があれば免疫は強まりますが、近頃のように流行が少ないと、ウイルスに接する機会が減って免疫の増強効果がえられず、感染しやすい人が増えたのです。

 世界的にみると、こんな流行がいまだに起こるのは、先進国では日本が例外的です。南北アメリカやヨーロッパ諸国、アジアでも韓国などは、国を挙げてはしか対策に取り組み抑え込んでいます。患者がほとんどでない「排除」を達成した国もあるのです。そんななか、日本でかかった患者が海を渡ることも少なくなく、「はしかの輸出大国」として、アメリカなどから迷惑がられています。

 

 

海外タイプが急増

 2011年、厚生労働省研究班の調べで、国内の風疹やはしかの感染者が、今までの日本で流行していたタイプのウイルスでなく、海外で流行するタイプのウイルスからの感染が急増しているそうです。

国立感染症研究所や地方衛生研究所が、2011年に国内の麻疹ウイルス約120検体、風疹ウイルス約20検体の遺伝子の特徴を調べました。その結果、麻疹ウイルスは、東南アジアやヨーロッパなど海外で流行しているタイプのウイルスがほぼ100%を占めました。2008年までは、ほとんどが日本で流行するタイプのウイルスでしたが、2009年から海外タイプのウイルスが急増しているのです。風疹も同様に、大半がタイやフィリピン、ベトナムなどで流行しているタイプでした。

先天性風疹症候群だけでなく、妊娠初期の女性が、はしかに対する抗体を持っていないまま麻疹ウイルスに感染すると、3分の1が流産や死産したという報告もあるそうです。

 

 

はしか・風疹の予防接種

 2006年3月までは、1歳〜7歳半までに、はしかワクチン(弱毒化された麻疹ウイルスの生ワクチン)と、風疹ワクチン(弱毒化された風疹ウイルスの生ワクチン)の2種類を、各1回ずつ接種することになっていました。しかし、2006年4月からは、はしかと風疹を同時に予防できる混合ワクチン(MRワクチン)を、1歳児(第1期)に1回、小学校入学前1年間(第2期)に1回の計2回接種することになりました。これは、はしかの流行がなくなって自然界で麻疹ウイルスと接触する機会が減り、体内で免疫効果が上げられなくなったため、小学校入学前にはしかの予防接種を済ませていても、その後発症するケースが出ていたり、風疹ははしかよりワクチン接種率が低いことから、はしかと風疹の両方を予防するMRワクチンで利便性を高め、接種率を向上させるのがねらいです。さらに予防効果を高めるため、2回の接種となりました。

お子さんのために、必ず2回のワクチン接種を受けてください。2007年のような流行を抑え、できるだけ早く「はしか輸出国」から脱却したいものですね。

また大人の場合、風疹は、現在は男女ともにワクチンの定期接種が求められていますが、1977年〜1994年までは、女子中学生のみを対象とした集団接種でした。このため、3040代の男性では、風疹への抗体を持っている人は7〜8割にとどまります。はしかも定期接種の接種率は90%台で、3040代で抗体がない人もいます。海外旅行や出張で海外に行く前や、妊娠を希望する人は、男女ともにワクチン接種することをお勧めいたします。

 

 

 

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