第35号 2002年11月 おたふくかぜ 耳の下が腫れ、ひどいとまるで「お多福」の顔のようになるため、そう呼ばれていますが、正式には「流行性耳下腺炎」といいます。 流行性耳下腺炎
おたふくかぜは、ムンプスウイルスの感染による、代表的なこどもの急性ウイルス感染症です。ムンプスウイルスの発見は古く、紀元前すでにヒポクラテスにより、耳周辺の腫れを中心に、しばしば片側あるいは両側の睾丸の腫れを伴うことのある病気として紹介されています。 唾液を通じての、空気感染または接触感染でうつります。そのため、家族や保育所、幼稚園、小学校など、こども同士が密接に接触するところで流行します。感染したことのない兄弟では、60%ほどの確率で感染します。よって、3〜8歳で感染することが多く、85%は15歳以下だといわれています。ちなみに私は、9歳の時に弟からうつされました。 感染力は比較的弱く、感染しても症状がでない:不顕性感染(ふけんせいかんせん)が、約30〜40%もあります。しかし、たとえ不顕性感染でも抗体ができるため、2度はかかりません。 症状 潜伏期間は2〜3週間で、発熱、頭痛、耳の下の違和感などがでた後、耳の下が腫れてきます。これは耳下腺が腫れるからで、多くは左右の両側が腫れますが、片側がまず腫れ、その腫れがひいてきた頃にもう片側が腫れることもあります。(私はこのタイプだったため長引きました。)しかしなかには、片側だけしか腫れない人もいます。腫れは柔らかく、指で押すと痛いのですが、赤くならないのが特徴です。口を開けると痛く、すっぱい物をとると痛みが増すことが多いです。腫れは3〜10日ほど、発熱は1〜6日ほどで消失します。 耳下腺だけでなく顎下腺も腫れることがありますが、なかには舌下腺も腫れることもあるようです。 合併症
髄膜炎・脳炎:無菌性髄膜炎は最も多い合併症であり、発生頻度は約10%といわれています。1週間以上続く発熱、頭痛、嘔吐、けいれんなどがあれば疑われ、髄液検査が必要となります。一般に予後は良好で、ほとんどは2週間程度で後遺症もなく治りますが、まれに重篤な経過を示すこともあります。 睾丸炎・卵巣炎:一般的には最も有名な合併症ではないでしょうか?思春期以前はまれで、ほとんどは思春期以降に合併します。睾丸炎は約20〜30%の頻度で起こり、発熱、頭痛、睾丸の腫れ・痛みが見られます。まれに睾丸が萎縮してしまうことがありますが、片側だけのことがほとんどのため、不妊症になることはまれのようです。卵巣炎は成人女性の約5%に認められ、下腹部痛が多いようです。 膵臓炎:発生頻度は数%で、発熱、激しい上腹部痛、嘔吐などを伴って急激に起こるようです。 難聴:頻度はかなり低いですが、片側の耳の難聴が発症し、難治性の聴力障害を残すため注意が必要です。 治療 ウイルスに効く薬がないため、痛みや腫れをおさえる薬を使うことしかできません。安静にし、消化のよい食事、水分補給に注意し、よく噛まなければいけない食べ物やすっぱい物は避けましょう。また、合併症に注意しながら経過を観察してください。 予防学童の登校停止:平成11年4月より施行された感染症新法に伴い、学校伝染病の第2種に分類されました。耳下腺の腫れが消えるまでは出席停止と定められています。 おたふくかぜワクチン:現在使用されているおたふくかぜワクチンは、弱毒化されたムンプスウイルスの生ワクチンです。予防接種は任意接種(有料)として実施され、1歳以上であれば接種でき、90〜95%の確率で抗体ができます。副反応として、耳下腺の腫れが1%前後、無菌性髄膜炎が0,1%以下で認められますが、後遺症を残すことはほとんどないといわれています。 |
||