第31号 2002年7月 食 BSE(牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病)問題や雪印食品をはじめ、止めどもなく広がった食品の不正表示、そして無認可添加物入り肉まんに、無認可添加物入り食品香料と、食べ物にかかわる不祥事が次々に起きています。 今回は「食」についてです。 食生活の変遷 1945年、第2次世界大戦で敗戦国となった日本は、海外から引き揚げてくる兵士や民間人たちによる人口増、農地の荒廃、うち続く異常気象などが重なり、極度の食料難に苦しみました。ところがそれから半世紀を経た今日、食べ過ぎによる健康障害が問題になるほど食生活は豊かになり、「飽食」と呼ばれるほどの状況となっています。 この飽食は、数多くの穀類や生鮮品を輸入に頼り、それらの食料を加工して、原材料の7倍の価格にもなる加工食品、そして、原材料の11倍にもなる外食産業によって成り立っています。つまり、私たちはこのような巨額の支払いによって、多様化と簡便化が極度に進んだ食生活を送っているのです。 食の洋風化 最近の食生活は洋風化傾向を強め、栄養素摂取面では、脂肪摂取量及び脂肪エネルギー比の増加、動物性脂肪の増加、食物繊維摂取量の減少がみられます。 昔から日本人は欧米人に比べ3〜4倍もの魚を食べ、世界一の魚好きといわれてきましたが、近頃のこどもは、骨がある、生臭いなどで魚を嫌う傾向が目立っています。魚類と肉類の栄養価の比較は、タンパク質の面ではほぼ互角といったところですが、脂肪の面では、肉類は飽和脂肪酸が多いのに比べ、魚類は多価不飽和脂肪酸が多く、特にDHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(エイコサペンタエン酸)は生活習慣病予防効果も知られているので、こどもの時から魚好きにしたいものです。 2004年9月29日、日本癌学会で発表された内容です。文部科学省の研究班が1988〜1990年に、全国の40〜79歳の女性約25,400人を対象に、魚をどのくらいの頻度で食べるかなど食生活についてアンケートしました。そしてその後7年半にわたって健康状態を追跡したところ、127人が乳癌になったとのことです。 魚に含まれる魚介性脂質に注目した場合、ほとんど毎日魚を食べるグループは、週1〜2回以下と魚をあまり食べないグループに比べて、乳癌の発生率が43%低かったとのことです。ちなみにこれは、植物性脂質の摂取量とは関連性がなかったとのことです。 弧食・欠食 幼児期は、食習慣の基礎が作られる時期ですから、家族そろっての食事をする中で、良い食習慣が身につくようにしてあげたいものです。しかし核家族化が進み、家族それぞれが職場・学校・塾などの社会的な契約や約束事を優先し、出勤や帰宅時間にずれが生じるなどの理由から、家族での生活リズムが共有できなくなり、食事はバラバラにとるようになってきています。特にこどもだけで食事をする「弧食」は、食欲が劣り、偏食して栄養素のバランスが劣るだけでなく、精神的に不安定で、こどもの心も育たないことになります。
咀嚼機能の低下 最近、乳幼児の咀嚼力や摂食機能の低下が問題となっています。幼児期になっても離乳食の延長線上にあるような食事や早食いを習慣化すると、噛む能力が衰えてあごの発達不足、歯肉(歯ぐき)の変形、歯並びが悪くなってかみ合わせがうまく出来ない、歯周病の増加などの問題が見られます。 硬い食べ物や、イカやタコなど弾力のある食品やパサパサした食品など、食べにくいものを嫌って食べなかったり、丸のみしがちであったり、食べ物を飲み込まず口の中にためていることがよくあるというこどもがかなり増加し、現代っ子の食事へのやわらか志向が見られます。 よく噛むためにはよい歯が必要となり、よく噛むことは消化吸収や大脳の働きの活発化、歯周病や肥満の予防にも役立つので、こどもの時から、丈夫な歯を作るための栄養・食事摂取のあり方、食べ物の物性にも配慮した献立づくりや、食べさせ方にも配慮しましょう。 おやつのとりすぎ こどもにとって、おやつは単なる嗜好品やむだ食いでなく、食事の一部としての意義が大きいです。しかし、不適当なおやつやおやつのとりすぎは、こどもの健康を害したり、食欲不振、栄養のアンバランスの原因となります。 摂取エネルギーの多いこどもは、おやつのとり方が多く、特に菓子類のとりすぎが目立ちます。おやつの与え方については、時間と量を決めてだらだら食いさせず、1日のエネルギーの20%程度を上限としたいものです。そして与えるものも、果物と飲み物、菓子と果物といったように、組み合わせで与えるようにしましょう。 物を大切にしない 経済発展によって、日本は大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会になりました。確かに生活は便利で豊かになりましたが、一方で、資源の減少、環境汚染を招いています。野菜や果物がそのまま捨てられる以外にも、調理食品や加工食品、弁当などがパックのまま捨てられているケースも多くなりました。もっとこどもの時から、物を大切にする心、食べ物を大切にすることを習慣化させたいものです。 「もったいないお化け」が出ますよ! 生活習慣病予備軍 食の洋風化や生活リズムの乱れ、日常生活における慢性的運動不足などから、こどもの生活習慣病予備軍の増加など健康面にも大きな影響が見られます。 WHO専門委員会報告では、生活習慣病を引き起こす重要な危険因子は、小児期に確立した行動様式によって決定されるので、成人期にこれを是正したり、危険因子を軽減するよりも、早い時期から生活習慣病の危険因子に発展するような行動様式を、コントロールしたほうが効果的であると述べています。 不健康な行動習慣が形成される前の小児期に、しっかりしたライフスタイルと食習慣を形成することの必要性がうかがえます。 まごわやさしい 日本の伝統食である「まごわやさしい」食材をバランスよく摂りましょう。大リーグのワールドシリーズで、日本選手初のMVPに輝いたニューヨークヤンキースの松井秀喜選手は、体調管理の要が「まごわやさしい」食だと、ニューヨークに行って再確認したとのことです。
食育基本法 「食」という字は「人」に「良い」と書きます。人を良くすることを育む、それが食育(しょくいく)です。2005年6月10日、国会で食育基本法が成立しました。 食育基本法では、食育を「健全な食生活を実践する人間を育てる」と定義。内閣府に設置され、首相を会長とする食育推進会議が、今後数年間の食育推進施策の指針となる食育推進基本計画を作成することを定めています。また地方自治体については、国と連携して、食育推進に取り組んでいくことを求めています。 食育推進基本計画では、さまざまな経験を通じて、食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践できる人間を育てる食育を推進しています。具体的な目標としては、食育への関心度を高める、朝食欠食者の割合を減らす、食事バランスガイドなどを参考に食生活を送る人の割合を増やす、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の認知度を高めるなどです。 毎年6月を「食育月間」とするとともに、毎月19日を「食育の日」としています。 食育推進宣言
人間は、その長い歴史の中で「食」を単なる生命維持のための「栄養摂取」としてではなく料理として、さらに人と共に食することで「心のふれあい」、「食事のマナー」としても発達させてきた。これは食のあり方が文化や文明と深く関わってきたことを意味する。そして今、その食が乱れ、あり方が問われているとすれば、これはとりもなおさず、文化や文明の乱れとして捉えなければならないと、考えている。 国は、近年におけるこのような国民の「食」をめぐる環境の変化に対し、重要な課題として、国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性をはぐくむための食育を推進することによって、現在及び将来にわたる健康で文化的な生活と豊かで活力ある社会の実現に寄与することを目的に「食育基本法」を制定した。 食は命の源である。人は食物を「口」から摂り込み、十分に咀嚼することによって身体の栄養ならず五感を通した味わいや寛ぎなどの心の栄養を得る。また、食物の知識と「食べ方」を通して健全な心身の糧となり、豊かな人間性を育むことが可能となる。以上のような観点にたって、次の食育の支援を行う。
われわれ歯科に関連する総ての職種は、国民すべてが豊かで健全な食生活を営むことができるよう、多くの領域と連携して国民的運動である食育を広く推進することをここに宣言する。 2007年6月4日 日本歯科医師会 日本歯科医学会 日本学校歯科医会 日本歯科衛生士会 食事バランスガイド食事バランスガイドとは、1日に「何」を「どれだけ」食べたらよいかが一目でわかる食事の目安です。食事と運動のバランスがコマで表現されていて、食事のバランスが悪くなると倒れてしまうことと、規則正しくコマが回転することは、継続的な運動の重要性を表しています。水やお茶はコマの軸とし、食事の中で欠かせない存在であることを示し、菓子・嗜好飲料は「楽しみながら適度に」というメッセージとしてひもとなっています。
学校給食
学校給食の歴史 学校給食の始まりは、1889年(明治22年)、山形県鶴岡町(現鶴岡市)の私立忠愛小学校だといわれています。当時、貧しい家が多く、お坊さんが、昼食におにぎり、漬物などを食べさせたのが始まりでした。どちらかといえば、炊き出しのイメージに近いものだったといえます。 1945年、日本は終戦とともに未曾有の食糧難時代をむかえます。地方の疎開先から児童たちが都会に戻ったものの食料はなく、欠食児童救済のため、翌年から学校給食が始まりました。当時食糧難に加え米の生産量が上がらず、アメリカの無償援助小麦に頼らざるをえない事情があったので、必然的にパン給食となりました。 1952年4月講和条約の発効により、日本は占領時代を終え形の上では独立国となりますが、アメリカからの無償援助は終わりをむかえます。と同時に、学校給食は財政難から給食費は有料となり給食辞退者が続出して大きな社会問題となりました。この頃から日本の食糧事情は次第に好転し、学校給食に米飯を取り入れることも可能になっていましたが、当時のアメリカは、膨大な量の農産物の過剰在庫をかかえ苦しんでいました。一刻も早く農産物を輸出しないと、財政悪化はさらに進み農民の不満も増大していました。そこで1954年余剰農産物処理法を成立させ、早急な余剰農産物のはけ口を発展途上国に求め、その最大のターゲットにされたのが日本でした。初めは学校給食用の小麦を無償で日本に与えるが、毎年4分の1ずつ減らし、減った分は日本が有償でアメリカから購入しパン給食を続けなさいというものでした。パン用小麦を日本では生産せずパン給食を続けるということは、その原料を全量アメリカからの輸入に頼ることになります。アメリカは膨大な余剰農産物処理のため、日本にパン給食を定着させようという高度な政治戦略があったのです。学校給食に米飯が登場するのは、1976年(昭和51年)まで待たなければなりませんでした。 パン食の問題点ごはんは水分が約60%だと美味しく感じます。しかしパンは約30%程度しか含まれていないので唾液を吸われてしまい、パサパサに感じて美味しくないのです。そこで唾液を吸われないようにするため、マーガリンやバターといった油脂類でコーティングすると、美味しく感じるのです。ただし最近の食パン・コッペパンはしっとりとして、それほどマーガリンやバターを必要としなくなっています。ぬらなくても、十分に油脂類や砂糖が含まれているからです。食パン・コッペパンが菓子パンと変わらなくなってきており、菓子パンは文字通りお菓子ですが、食パンもどんどんお菓子と同じになっています。 パンを主食にすると副食も同じです。パンにほうれん草のお浸しは食べづらいので、ほうれん草を食べたければバター炒めとなります。野菜を食べようとすれば、普通はサラダにドレッシングやマヨネーズ、あるいは野菜炒めとなります。魚も同じです。パンにマグロやアジの刺身は合わないので、フライやカルパッチョ、マリネなどにします。主食だけでなく、副食も油脂類だらけになります。 完全米飯給食 現在は、市町村合併により長野県上田市になった旧真田町。週5日、町内産の米を使った「完全米飯給食」により、こどもたちの心と体を改善させてきました。 1992年(平成4年)当時の中学校は、生徒数1200名の大規模校ということもあり、荒れた学校だったそうです。タバコが校内に散乱、非行や犯罪も連日、不登校生も60人以上いて、何より授業に集中できない生徒が多かったそうです。全校集会でバタバタと倒れる生徒が多いことから、食事に関する調査をしたところ、朝食を食べてきていない生徒が30%を越えていたそうです。朝食抜きであれば、少なくとも12時間以上食事をしていません。成長盛りの中学生ですから、空腹からくる無気力で授業に集中できないし、イライラしていじめにも発展してしまうのです。 当時は米飯が週2日だったものを、週3日、最終的には週5日の「完全米飯給食」にし、魚・野菜を中心とした和食の献立にし、「食育」の授業をしていったそうです。すると、貧血で倒れる生徒はほとんどいなくなり、いじめやキレル生徒も激減し、2年後には60人以上いた不登校生も非行犯罪もほとんどなくなったそうです。授業への集中から学力も向上し、全国作文コンクール、全国花壇コンクール、合唱コンクールでも、毎年全国上位に進出するようになりました。また、食と健康についての関心も高まり、中性脂肪、高脂血症、アレルギー・アトピーのこどもが激減しました。
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