専門家の“神話”にご注意を

“プロ”のレベルは玉石混淆



今回は「専門家」をキーワードに、いろいろな雑誌などの生命保険に関連する記事をまとめて、検討してみます(いつも思うのですが、雑誌などに顔を出すFPを“専門家”と持ち上げるのは、ほめ殺しの類でしょうか。少なくとも、売る側・勧める側の専門家ではあっても、とても契約者・顧客側の専門家とは言えないFPが、専門家として登場するのはいかがなものかと思うのですが)。

生命保険の専門家(プロ)といえば、もちろん“生命保険に詳しい人”を指すわけですが、それでは“生命保険に詳しい人”というのはどういった人を言うのでしょうか。
一般的には、下に挙げるようなイメージで、“生命保険に詳しい人”かどうかを判別しているのではないでしょうか。
  • 有名だから(TV出演や書籍の出版、雑誌への登場などで)
  • FPだから(または、上級資格者だから)
  • MDRTの会員だから(もっとも、これは会員の方からアピールしてくるわけですが)
  • NPO法人(特定非営利活動法人)に所属しているから
  • パソコンを使ったライフ・プランニングをしてくれるから
  • 数字を使ってニーズを確認してくれるから
  • たくさんの商品を取り扱っているから
  • 身なりが良いから(これは外資系生保に見られ勝ち)
  • 知人から紹介されたから(これも外資系生保に見られ勝ち)

ただ、これだけでは、本当に“生命保険に詳しい人”(プロ)かどうかは分かりません。
単に、「そう見える」というだけだからです(つまり、実態を伴わない、肩書きだけの「虚仮威し」でしかない場合が、あるわけです)。
そこで、逆に消去法で、「専門家とは言えない人」の定義をしててみて、そのうえで「専門家」がどういった人なのか、検討してみたいと思います。
で、まず私が考える、とても“生命保険の専門家とは言えない人(FP)”をまとめてみましょう。

  1. 「将来のインフレに対応するためには、“変額保険”しか選択肢がない」というFP
  2. 「生命保険文化センターのアンケート結果の平均値を使って、ニーズを確認しようとする」FP
  3. 「きちんとした根拠ではなく、感情に訴えかけて、ニーズを確認しようとする」FP
  4. 「公平・中立・客観性をアピールする」FP
  5. 「“予定利率”の意味を十分理解できていない」FP
  6. 「“配当金”の意味を十分理解できていない」FP
  7. 「確定していない数字を、まるで確定している数字であるかのようにアピールする」FP
  8. 「老後になったら現金が一番役に立つ」ことを教えてくれないFP
  9. 「まず医療保険やがん保険、介護保険を勧める」FP
  10. 保険金・給付金を「もらえる」というFP
  11. 「お年寄りに生命保険を積極的に勧める」FP(相続対策のための保険プランは除く)

それでは次に、なぜ“生命保険の専門家とは言えない人(FP)”なのか、その理由を挙げてみましょう。


■ 本当に「将来のインフレに対応するためには、“変額保険”しか選択肢がない」のか

例えば、最近自腹で買った「レタスクラブ“保険の本”」に、「お金の専門家はこんな保険に入っている」という記事があります。
7人の専門家(?)が、自分の加入している生命保険プランについて、その内容と理由を公表しているのですが、専門家というのに、選択する商品がほぼ同じで、言ってることも同じ。
これなら、7人もいらないのでは。
これが、読後の感想です。
考え方の違った専門家を入れなければ、一方的な偏った選択にしか見えないわけですが、素人にしてみれば、「専門家全員が同じことを言っているから、信用できる」と言う風に思い込みかねません(あるいは、思い込まそうとしている可能性も)。
でも、「生命保険には正解がない」と言うのが唯一の正解なので、この人選では、その正解を担保出来ておらず、したがって客観性において致命的な人選と言わざるを得ません。

肝心の変額保険についてですが、3つの「プロのコツ」の1番目に“将来のインフレリスクに備えて、変額終身保険を選択”といった形で取り上げられています。
また、専門家7人のうち4人が変額終身保険に、1人が変額個人年金に加入しています。
ところが、なぜ変額保険が将来のインフレリスクに備えることが出来るのか、その根拠が一切明示されていません。
それもそのはず、変額保険で将来のインフレリスクをカバーできるという根拠がないからなのです。
FPが変額終身を勧めたい理由は、次のことが考えられます。
  • 一般的な終身保険より、保険料が割安(解約返戻金が一切確定していないのだから、安くて当たり前なのに)
  • 運用がうまくいったときの“確定していない数字”をアピールすることで、うまい話(夢のような商品)に見せかけるこことが出来る(うまくいかなかった時の話は、十分、聞けませんが。もっとも、勧められる方も、聞かないようにするわけで)
  • 専門家に相談すれば、うまい話(夢のような商品)に見せかけるこことが出来る(そんな商品があったら、他人には勧めません)
  • そしてなにより、販売手数料(コミッション)が高い(一般の終身保険を売るより儲かるうえに、自分の専門性もアピールできる)

ここに登場している専門家のうち5人が、何らかのFP団体や総合代理店に所属している訳ですし、その所属団体のホームページアドレスの末尾が「.com」であることからも分かるように、その所属団体はそもそも商売を前提とした生命保険のコンサルティングを行っている訳ですから、それは儲かる商品をアピールするのは、当然といえるでしょう(公正中立をどんなにアピールしても、生命保険プランには絶対の正解がないので、お薦めするプランは、FPが考える正解でしかなく、それはあくまでも主観的なお薦めであり、客観的なお薦めとはいえないことからも、ご理解いただけるでしょう)。

もっとも、FP自身が、「配当金」の機能を十分知らずに、“将来のインフレリスクに備えるには変額保険しかない”と、FPの教本を頭から信じている場合(つまり、勉強不足)もあり、悪意はないにしても、これはこれで迷惑な話です。
そもそも、変額保険の収益はキャピタルゲインであり、市場金利やインフレに連動する訳ではないことを、わざと誤解させているとしか思えません。
むしろ、配当金や積立金の方が市場金利に連動する分、インフレに対応が可能と言えるわけなのですが、その配当金や積立金を頭から役に立たないものとして否定した上(そもそも、既存の生命保険を否定することからFPの生命保険の話はできあがっているので、こういった発想になってしまうのです)で、変額保険をインフレリスクのヘッジに勧めるとは、とても専門家とは言えないでしょう。

配当については、下記などを参照ください。
http://www4.plala.or.jp/anshin/yoteiriritsu.html
http://www4.plala.or.jp/anshin/haito_tsumitate.html
http://www4.plala.or.jp/anshin/shushin_hoken_sentaku.html

また、ちょっと書籍や雑誌を読めば、次のような記事がたくさんあり、変額保険がとても「うまい話」とはいえないことはお分かりいただけると思いますし、専門家を標榜するなら、そのくらいの知識は必要でしょう。

「臆病者のための株入門」橘玲著(文春新書)

愛情と称して、偽善を売るひとたち(p.188〜190)の文中
保険商品は急速に複雑になってきた。その代表が、生命保険に投資信託を組み合わせた変額保険である。
そもそも保険と投資はまったく別もので、このふたつを組み合わせることに経済合理的な理由はない
たとえていうならば、ダイコンとエンピツをセットで販売するようなものだ。
ところが保険会社は、投資商品よりも保険商品のほうが税制上有利な扱いを受けていることを楯に、この奇妙なセット商品を買わせようとする。
もちろん、顧客が制度上のメリットを享受できるなら問題はない。
だが実際には、利用価値があるのは相続税対策に使える一部の富裕層だけで、それ以外の顧客は意味のない保険に半強制的に加入させられ、そのうえ割高なコストを請求される。
保険は、人生のリスクを管理するのにきわめて有利な金融商品である。
だが、私は、「愛情」と称して偽善を売るようなひとたちと好んでつきあいたいとは思わない
申し訳ないけど

また、この本はこのほかにも、保険とは直接関係ありません(ただし、間接的にはものすごく関係があります)が、金融商品に騙されないためのフレーズ(常識)が、詰め込まれています。

  • チャートでもうける方法が無料の株式セミナーで教えられていたり、株の入門書に書いてあることは絶対にない
  • 投資家の仕事は、損をすることである
  • 株式投資が偶然のゲームであるという事実を前提とすれば、「必ず儲かるチャート分析」の類はすべてインチキである。同様に、「確実に儲かる長期投資法」というのもこの世には存在しない
  • “金融のプロ”は、医者のような専門家とはちがう。医者が病気を治すのは、自らの専門知識を提供して患者を健康にし、なおかつ治療費という対価を受けられるからだ。一方、“金融のプロは”やたら高価なクスリをばら撒くばかりか、その処方箋に従うと病気がさらに悪化するおそれすらあるのである
  • すなわちリスクとは、「損する可能性」であると同時に「儲かる可能性」でもあるのだ。「私は投資でリスクをとりたくない」ということは、「私はべつに儲からなくてもいい」というのと同じ意味だ。これさえ理解していれば、「元本保証で儲かる商品ってなんですか?」と質問して、「こいつ、頭骸骨の中に脳味噌入ってるのか?」という疑惑の目で見られることもなくなる
  • “金融のプロ”も含めて多くのひとが誤解しているが、「長期投資にリスクはない」という定説にじつは根拠がない。リスクとは、予想可能性のことである。となるとこれは、「遠い将来のほうが予測しやすい」といっているのと同じことだ。このよに考えれば、「長期投資ほどリスクが大きい」ということがだれにでもわかるだろう
  • 投資用ワンルームマンションについては別のところでなんども触れたのでここでは繰り返さない。「確実に儲かるなら業者が自分で投資しているはず」ということさえわかれば、隠されたリスクは簡単に見つかるだろう
  • 投資は偶然に左右されるゲームであり、確実に儲かる方法などどこにも存在しない。だが、確実に損をする方法なら、いくらでもある

「マネーロンダリング入門」橘玲著(幻冬舎新書)

同じ著者の本からもう1冊。
プライベートバンクはさまざまな“神話”を身にまとっている。
魔法のような力で資産を増やしてくれる、というのもそのひとつだ。
プライベートバンク自身も、宣伝や広告を通じてこうした神話を増幅してきた。
だが現実には、「富裕層だけの金融商品」などというものは存在しない。
金融市場における最大のプレイヤーは年金基金や生命保険会社などの機関投資家で、数兆円規模の資金を運用することも珍しくない。
もしも運用資金の多寡によって利益が割り振られるのなら、彼らこそ真っ先に特等席を確保し、年金の運用難など起こらないはずだ。
数億円規模の資金しか持たないプライベートバンクの顧客は、金融の世界ではただの“ゴミ”である。
彼らが機関投資家以上に優遇されるというのは、なんの根拠もない幻想に過ぎない。
事実、ほとんどのプライベートバンクでは、一任勘定のパフォーマンスが市場金利の平均を下回っている。
彼らが自社の運用成績を公開しないのは、「特別な運用」を行っているからではなく、たんに格好がつかないからだ。

FPと称する人が、本来は証明されていない、あり得ない上記のような“金融神話”を語りだしたら、お引き取り願った方が良いでしょう。
少なくとも、生命保険の専門家ではありません。

週刊ダイヤモンド「“投信”の罠」(2006.12.02号)

変額年金保険(p.40)の文中
年金保険の安心感に注意。
中身は「割りのよくない投信」。
漠たる安心イメージと節税メリットにつられて、飛びついてはいけないのが、変額個人年金だ。
金融機関にとっては“おいしい商品”だが、保有コストがかさみ、早期解約すると大損を被る。

マネー経済の歩き方 No,181(p.69)の文中

「いつか来た道“バランスファンド”」
  • バランスファンドであれば、窓口の販売員は市場を語らずにすむうえに、運用側の生にもできる
  • 投資信託に分散投資するFOF(ファンド・オブ・ファンズ)方式では、信託報酬も二階建てで徴収される
  • 年に6回とか12回といった多分配ファンドは得でもないし、精神的な満足以外に役に立つ顧客の事情も考えにくい

From Editorsの文中

投信は不思議な商品だと思います。
余分なおカネガあるので運用したいけど、やり方がわからない。
だからプロに任せるということなのでしょうが、投信の本数は2600本以上あります。
どうやって選ぶんでしょうか。
(中略)
賢く利用するのは難しい商品だなあという感じがします(清水理)。

この順番で読んでいただくとお分かりのように、変額個人年金(私的には変額終身保険も含む)は「割りのよくない投信」であるにも関わらず、投信自体もなくてもいい金融商品だとしたら、変額個人年金という金融商品は、売る側には理由があっても、いったい買う側に購入する必然的な理由は全くないと言えるのではないでしょうか(一部の相続税対策が必要な富裕層以外)。

ちなみに、真っ当な金融の本というのは、本当に少ないのですが、おおよその見分け方はあります。
少なくとも、“うまい話”や”お得な商品”をお薦めしている本は、真っ当な金融本とは言えません。
なぜなら、金融商品に“うまい話”はないからなのです。
では、真っ当な金融本はといえば、“うまい話”や”お得な商品”がないことを、きちんと解説しているものということになります(保険で言えば、“払ったなりくらいにしか役に立たない”と言うことを)。

■ 本当に「平均値は信じられる」のか

FPから、ライフプランニングを丁寧に行ってもらったうえで生命保険プランの提案を受けると、ようやく自分のニーズに合ったプランに出会えたような気がします。
でも、そのニーズって、本当にあなたのニーズなのでしょうか。
あなたに確認しながら聞き出したニーズですから、疑うことなくあなたはそのニーズを自分のニーズと思いこみ勝ちですが、実際は、いろいろなアンケート結果の平均値を駆使して、FPは自分の提案したいプランになるように、あなたのニーズを誘導している可能性もあるのです。

ポイントは、平均値です。
ある意味、日本人は「平均」が大好きです(現在、「格差社会」が問題になっていますが、これも“平均”や“中流”という意識が前提にあるからなのです)。
でも、平均値の統計学的な意味を知らずに、FPも、マスコミも、生命保険会社も、自分たちの都合の良いように使っているのが現状です。
また、単なるアンケート結果を、様々な偏りをできる限り排除した「統計」の結果と勘違いして、特定の集団の偏った平均をまるで、日本人全体の平均であるかのように、アンケート結果を誤って使用しているFPや、マスコミ、生命保険会社も目に付きます。

ところが、平均値のみで、対象を判断することはできません(参考:「データの罠」田村秀 著、集英社新書)。
例えば、勤労者世帯の平均貯蓄額(総務省「家計調査」)は1,273万円(2004年末)という結果が出ていますが、本当にそんなに皆さんは貯蓄がありますか?
実際に、この平均値は、一部の資産家の大きい貯蓄額に引っ張られた結果でしかなく(実際、4,000万円以上の世帯が5.5%もいます)、中央値(メディアン:データを大きさ順に並べ、真ん中にくる数値)は805万円、最頻値(モード:データのうちで最も出てくる値)は200万円未満という結果となっています。
ちなみに、200万円未満の世帯は16.2%であり、この平均値が一般的な世帯の感覚とは大きく食い違っていることが分かると思います。


勤労者世帯の貯蓄現在高 階級別世帯分布(総務省「家計調査2004年」)

貯蓄額
世帯割合
200万円未満
16.2%

 ← 最頻値(モード)

〜400万円未満
13.4%
〜600万円未満
11.1%
〜800万円未満
10.4%
〜1000万円未満
7.4%

 ← 中央値“805万円”(メディアン)

〜1200万円未満
7.6%
〜1400万円未満
4.9%

 ← 平均値“1273万円”(単純平均)

〜1600万円未満
4.1%
〜1800万円未満
3.1%
〜2000万円未満
3.3%
〜2500万円未満
5.2%
〜3000万円未満
3.6%
〜4000万円未満
4.2%
4000万円以上
5.5%

ライフプランニングの際によく使われているアンケート結果が、生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」です。
そもそもが、生命保険会社がその経営を維持しているような財団法人が、生命保険に関する客観的な調査を実施できるのかどうかから疑問がありますが、それは置いておいても、この調査には様々な問題点があります。

一番根本的な問題点は、分析結果が平均値のみで、中央値や最頻値についての言及がないことですが、質問についても、言葉足らずに見える設問が多々あります。
例えば、皆さんの目に一番触れているはずの「入院日額の平均は15,000円」というあの数字も、この調査の結果に基づいていたものですが、この結果を導いた設問は次の通りです。
その一番最近の入院で実際に支払った費用は全部でおよそいくらくらいでしたか。
治療費・食事代・差額ベッド代などを含めてお答えください。
1.約□,□□□万□千円
2.支払った費用はない
3.わからない

実際の入院時の負担は、高額療養給付により、自己負担した医療費の一部が戻ってくることから、
「実際の入院時の負担=病院で支払った費用ー高額療養給付金」
となるはずですが、この設問では、その高額療養給付金を病院で支払った費用から差し引くのかどうか、その指示がありません。
そのため、回答者によって、高額療養給付金を差し引いたり、差し引かなかったりするおそれがあり、結果として、平均値が高くなる方にブレる可能性が高くなっています。
とすると、1日あたりの自己負担費用の平均が14,700円という結果も、かなり高めにブレた数値ということが推測できるはずで、この数値に基づいて入院日額を検討することにそれほど根拠がないということができるでしょう。
もっとも、生命保険会社(あるいは専門家は言えないFP)にとっては、設問の正確性よりも、1日あたりの自己負担費用の平均が大きくなった方が、不安を煽ることができ、結果として保障(入院日)額の増額につながる訳ですから、その平均値を金科玉条のごと活用するわけです。
だからといって、皆さんがそれに乗っかることはないのですが、平均値の大好きな日本人は、残念ながら大して根拠のない平均値でも、気になってしまうのですが。

もう一つ、おかしな設問を。
これも、「ゆとりのある老後生活を送るためには、月37万円が必要」といった内容のパンフレットを目にしたことがあると思いますが、その出所は、この調査結果です。

あなたは、老後を夫婦2人で暮らしていくうえで、日常生活費として月々最低いくらぐらい必要だとお考えですか。
現在のお金の価値でお答えください。
1.月々約□□□万
2.わからない

経済的にゆとりのある老後生活を送るためには、今お答えいただいた金額のほかに、あといくらぐらい必要だとお考えですか。
現在のお金の価値でお答えください。
1.月々約□□□万
2.ゆとりのある老後生活を送るつもりはない
3.わからない

まず、この設問の根本的におかしい点ですが、実際にいくらで老後を暮らしている人ではなく、ほとんどの回答者がまだ老後を迎えていない人(調査対象は18歳〜69歳)である点です。
また、“最低日常生活費”の“最低”自体に基準がないため、平均値を算出してもそもそも意味がないということになりかねません。
“ゆとりのある老後生活を送るための費用”も同様で、“ゆとり”の捉え方で、金額は大きくもなり小さくもなります。
あるいは、現在の自分の収入に見合った金額を思い浮かべる方もいれば、自分の生活水準と切り離して憧れの生活を思い浮かべる方もいるかもしれません。
にもかかわらず、この設問から導かれた平均値である37.9万円が一人歩きをして、まるで月々37万円が準備できないと老後生活が送れないかのようなアドバイスを最もらしくするFP(銀行員)等がいる訳です。
で、この結果は、地道にお金を貯めてもとうてい足りないから、お金は変額ものや投資もので大きく増やさなければいけない、その根拠としてFPや銀行員が活用し、その挙げ句、月37万円がないと老後が送れないかのように一人歩きをしているわけです。

週刊エコノミスト「これだけかかる」(2006.12.05号)

つい最近も、週刊エコノミスト(06.12.05号)「これだけかかる」の一部に、この調査を根拠にした次のようなFPによる記事が掲載されていました。
■医療保険で備える「入院費用は1日平均1万4700円」
■定年後の生活費「夫婦2人で月平均28万円の支出」

言わずもがなですが、このような金融専門誌でも、平均値の誤った活用が幅を利かせています。

ちなみに、“教育資金をどう準備する?”では、「学資保険より積立商品を」という記事がありますが、学資保険以外の生命保険商品について、まったく触れていない点は片手落ちです。
確定して積立商品よりも利回りの高い保険商品があるからです。
ただし、こども保険が元本割れしかねないというのは正解ですが。
学資を積み立てるための保険商品は学資保険・こども保険だけではない、ことをアドバイスすることもFPの役割だと思うのですが、残念です。

生命保険でいえば、ライフプランニングを行う際に、このレベルのほとんど根拠のない平均値をアドバイスされ、本来のニーズではない高めのニーズに誘導され、結果として、自分にとっては“なくてはいけないレベルの保障額”を大きく超えた保障額(必要保障額)を設定されてしまうのです。

ちなみに、ライフプランニングについて、もう一つ。
パソコンから出た数字を信じ込むのも考え物です。
というのは、ライフプランニングの結果は、プラグラム次第でどうにでもなります。
したがって、使用するライフプランニングのソフトが違えば、同じ条件(ニーズ)を入力しても、結果は大きく異なります。
ライフプランニングは、一種のゲームだと思って楽しむ分には害はありませんが、それを根拠に生命保険プランを設計するのは止めましょう。
実際に、ライフプランニングをしてもらうくらいなら、自分(あるいはご夫婦)で“困らないレベルの保障額”を設定した方が間違いが少ないうえに、思い通りに生命保険が役に立たなかったとしてもあきらめがつきます。
つまり、ライフプランニングは“素人考え”を否定するためにあるツールであって、その否定による衝撃で専門性をアピールすることで、生保セールスがプラン設計の主導権を握るためのツールなのです(もちろん、その方がセールスにとって、メリットがあるからでしょうが)。

■ 本当に「公正・中立・客観的なコンサルティング」はあるのか

実は、公正・中立・客観的なコンサルティングは、存在しません。
公正・中立・客観的なコンサルティングも“神話”の一つです。
なぜかといえば、コンサルティングによるアドバス自体が、FPの主観でしかないないからです。
アドバイスを聞くということは、FPの主観を聞きに行くことなのです。
仮に、FPのアドバイスが主観でないのなら、わざわざそのFPにアドバイスを聞きに行く必要がないことになってします。
また、公正・中立なコンサルティングも存在しません。
なぜなら、公正・中立が何なのか、それ自体が主観で決まるものだからです。
したがって、公正・中立の絶対基準はありません。
例えば、公正・中立を謳っているコンサルティングがあるとした場合、その公正・中立は、そのコンサルティングを行っているFPが考えるところの公正・中立でしかなく、普遍的に誰にでも当てはまる公正・中立というわけではないのです。
ということから、公正・中立・客観性をアピールしすぎているコンサルティングは、自ら、公正・中立・客観性でないことを公言しているようなものです。
少なくとも、「公正・中立・客観的」という謳い文句には騙されないようにしてください。
つい、うっかり使ってしまった場合でも、そのことで、そのコンサルティングには深みがないことを自ら告白しているようなものですから、やはり注意が必要でしょう。

もう一つ、公正・中立・客観的を担保するものとして、「たくさんの生保の商品を取り扱っている」ことをアピールしているFPや総合代理店がありますが、これもいかがなものでしょう。
たくさんの商品を取り扱っているということは、確かに選択肢の多様さを担保できることは間違いありませんが、それが公正・中立・客観的に直結するわけではありません。
あるいは、親切・親身・優しい・熱心といった対応でコンサルティングの印象が変わることがあるでしょうが、これらの対応ももちろん、公正・中立・客観的に直結するものではありません。
繰り返しになりますが、公正・中立・客観的は、画に描いた餅で、実際は存在しないものだからです。

関連した謳い文句によく、「たくさんの商品を扱っているから良いとこ取りが出来る」というアピールがあります。
これも表(契約者・加入者)から見ればその通りといえそうですが、裏(勧める側・代理店側)から見ると話は変わってきます。
  • 保険が不要な人に対してまで、たくさんの商品から、無理矢理ニーズにあわせることが出来る
  • 同じような商品から、一番手数料(勧める側のメリット)が多いものを勧められる(勧めるには、意味があります)
  • いろいろな生保の商品を組み合わせることでプランを複雑することで、専門性をアピール出来る(本当は、シンプルなプランが最適な場合でも)

つまり、取扱商品が多いから、うまい商品が見つけられる、あるいは良いプランが作れるとは、必ずしも言えないと言うことなるのです(もっとも、うまい話は最初から存在しないのですが)。
また、契約者・加入者の便宜のために、取扱商品が多いと言うよりは、勧めることが出来る商品数が多い方が、手数料を稼げるということの理由で、取扱商品が多いといってもいいと思います。
あるいは、たくさんの取扱商品のすべての内容を把握しているわけではないでしょうし、あるいは売りたい商品のメリットしか知らないのかもしれません。
少なくとも、加入後の使い勝手については、その商品を専門に取り扱っているFPや代理店よりも、専門性が低いと言えるでしょう。

「公正・中立・客観的」に関連してもう一つ。
肩書きで、公正・中立・客観的をアピールする場合があります。
例えば、アメリカに本部がある“MDRT”という生保セールスの会員組織があります。
この会に入会しているセールスは、必ず名刺に刷り込んであるので、判るはずです。
この会員になるには、資格制限(代理店手数料または保険料を、人よりたくさんかき集めること)があり、誰でもなれるわけではありません。
と言うことで、“MDRT”会員を無闇にありがたがる、そういった生保やサイトがあります。
確かに、この会員になるには、生保セールスの「成功者」になる必要があることは間違いありません。
ただし、生保セールスの成功者であることが、必ずしも生命保険のコンサルティングの質を担保するものではないのです。
これは、単に“売ることがうまい”ことを表す資格であって、むしろ、いらない保障を売ったり、過大な保険料となるプランを勧めたりした結果であるとも言われかねません。
ということは、FPだから、MDRTの会員だから、といっても、そのコンサルティングの内容・質は担保(保証)されないと言うことではないでしょうか(日本FP協会の資格の場合、CFPの方がAFPより上級資格となりますが、かといってCFPの方が生命保険に詳しいわけではない、それと同じようなことです)。

あるいはNPO法人に所属しているFPというのは、“非営利”をアピールしたがりますが、これはNPO法人が、何なのかが分かっていれば、その手の虚仮威しの騙されることはないと思います(NPO法人の認可は、その法人の活動内容について国や都道府県がお墨付きを与えたわけではありませんので、注意が必要です)。

ところで、売りつけようとしているコンサルティングは、次のポイントでほぼ見分けられます(売りつけることが悪いわけではありません。皆さんがコンサルティングに出かける理由が、“うまい保険商品”を見つけたいからなのですから。ただ、最初から売りつけるつもりなら、公平・中立・客観的を標榜してはいけない、ということです)。

  1. 複数の生保の商品を取り扱っている(どんなニーズや状況の人にも、無理矢理合わせる商品が見つけられるのは、相談者のためではなく、売る側の理由からです)
  2. 生命保険文化センターのアンケート結果、とくに平均値に基づいて、ニーズを聞き出したり、保障額を勧めたりしている(根拠のない数字は信用しないことが肝心です)
  3. 「愛」「夢」「責任」「不安」といったような客観的に数値化できないような事柄について、意図的に感情に訴えかけて、生命保険プランやライフプランニングに盛り込もうとする(そのような感情に訴えかけて出てきたニーズは、数年すると陳腐化してしまいます)

これに該当しなければ、売りつけようとしているコンサルティングではない、ともいえないのですが。
あくまでも、一つの目安として、参考にしてみてください。

■ 本当に「老後に役に立つのは医療・介護保険」なのか

週刊エコノミスト(06.12.19号)の特集「間違わない保険の選び方」でも、賢い商品知識で取り上げられている商品は、第3分野商品といわれる
  • 医療保険
  • がん保険
  • 介護保険
  • 個人年金保険

の4つで、いわゆるこれまで生命保険の主流といわれていた死亡保障(第1分野商品:定期保険、終身保険、養老保険)は取り上げられていません。
これだけ見ると、老後に役に立つ保障、つまり長生きのリスクに対応するための保障は、上記の4つに絞られるように思えますが、これをそのまま鵜呑みにするわけには行きません。

そもそも「間違わない保険選び」といいながら、この4つをメインにしている時点で、すでに“間違っている”のです。
なぜなら、老後に役に立つものは保障ではなく「現金」だからです。
あるいは、保障ならば、現金化(しかも、その金額が確定しているもの)できるものだからです。
例えば、医療保険の場合、病気をしたときに役に立つのではなく、入院しなければ役に立ちませんが、現金なら家で寝込んでいても、治療のために活用できます。
あるいは、医療保険の場合、1入院の上限日数や通算日数などの制限があり、無制限に入院給付を受け取れるわけではありません。
確かに、加入後すぐ長期の入院をした場合は、現金よりも役立つかもしれませんが、そもそも老後に役に立たせたいのなら、それまでの期間に現金を確保すればいいわけで、したがって、医療保険が有利とも言えません。

また、「賢い商品知識」というのも一種の誘導で、この記事に取り上げられている保険商品は、単に目新しい商品といえそうな商品を選択しただけで、とても「賢い」とはいえない選択となっています。
「賢い」を謳いたいなら、商品のメリットを取り上げるのではなく、まずデメリットや保険の限界をきちんと取り上げるべきで、パンフレットを見れば分かるようなメリットを記載する必要はないはずです。
あるいは、メリットとデメリットの双方を書けば、客観的というような記事も見受けられますが、こんな記事ならFPでなくても書けるわけで、わざわざFPが「賢い」を標榜するなら、その記事の担当FPの主観が盛り込まれていなければ意味がないのではないでしょうか。
もちろん、医療保険などの第3分野の商品にも「うまい話」はありません。
新商品であっても、必ずしも保障内容がよくなって、保険料が安くなっている訳ではありません。
そう見えるよう(つまり、実質的には、よくも、安くもなっていない)に、プランを作り直しただけなのかもしれません。
これまた“神話”の一つといえるでしょう。

保険会社は、第3分野商品が収益の柱になりつつあるわけですから、一生懸命、第3分野商品をアピールしたいのは山々でしょうが、その尻馬に乗って、まるで第3分野商品の選択の正否が生命保険プランの根幹であるような誤った内容を、金融専門誌が特集するのはいかがなものでしょう。
あるいは、専門家として、その特集に迎合した記事を書くFPはいかがなものでしょう。
少なくとも、「生命保険の専門家」とはとても言えないでしょう。

最後に、医療保険のTV−CMについて一言。
保険金・給付金は「もらえる」訳ではありませんので、ご注意を。
保険料の負担をしたうえで、もうやく取り戻せるだけですので、天からお金が降ってくるわけではありません。
「もらえる」といっただけで、すでに金融商品の広告としては失格です(そう表現するFPも、失格です)。
同様に、またぞろ「健康お祝い金」が“もらえる”医療保険のTV−CMが盛んに流れていますが、これも「払った以上に受け取れる」訳ではありません。
10年間無事故(事故といっても、病気の入院の対象となります)なら20万円が戻ってくることは強調されていますが、10年間にいくらの負担をするのかは、一切TV−CMでは触れられていません(しかも、更新する度に保険料はアップするのに、健康お祝い金の額は増えません)。
もちろん、20万円より遙かに多い金額を負担することになるわけです。
しかも、規定の入院をしてしまうと、その健康お祝い金は受け取れないわけですから、「入院しても、入院しなくても役に立つ医療保険」なのではなく、「入院しても、入院しなくても損をする医療保険」なのです(ただし、10年間の保険料以上に入院給付を受け取れれば役には立ちますが、その可能性が低いということを、次のようにTV−CMが自ら認めています)。
ところが、最近のTV−CMでは「なかなか入院はできない」と自ら10年更新型のプランの最初の10年ではなかなか入院給付が受け取れないことを認めて、だから健康お祝い金という形でリスクヘッジが出来るというのですから、開いた口がふさがりません。
健康お祝い金で旅行をするくらいなら、最初から10年間保険料を貯金した方が、もっといい旅行に行けるわけです。

以上、生命保険の専門家について検討してみました。
その内容はもちろん、私の主観でしかありませんから、これが必ず正しいということではありません。
ただし、一つの目安として、皆さんが根拠もなしに頭から信じ込まされている“神話”を、自分なりに考える切っ掛けとなれば、それなりの意味があると思います。
ぜひ、専門家に惑わされず、皆さんの「素人考え」を大切にして、生命保険プランをご検討ください。

蛇足ですが。
「ほとんどの人は。自分の信念を補強する証拠だけを求め、否定的な証拠を探そうとしません。
心理学者が言うところの確証バイアスというやつです。
しかし、あなたがたは、自説の間違いが証明できるのではないかと考え、超能力について知ろうと、私を訪ねてこられた。
私はその態度を評価したいんです。
その迷いを忘れてはいけませんよ。
確信を抱くのが一番危ない。
常に『自分は間違っているんじゃないか』『論理ではなく盲進で動いているんじゃないか』と問いかけることです。
自分が間違っている可能性を探すこと。
それが道を誤らないための唯一の方法です」
これは、小説「神は沈黙せず(上)」(山本弘 著:角川文庫)の一説です。
少なくとも、保険のプロ・専門家を名乗るのであれば、「生命保険についての“神話”」を鵜呑みにするのではなく、常に疑う態度が必要です。
あるいは、その態度こそが保険のプロ・専門家の必須の条件と言えるのかもしれません。
根拠もないのに“神話”を振りかざし、専門家面するのは、保険のプロ・専門家と、とても言えないと思いますが、いかがでしょうか。

 


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