蒼き騎士の伝説 第一巻                  
 
  第七章 エルティアラン(1)  
             
 
 

 旧世界の滅びし町。わずかに存在する他のそれと同じように、ここエルティアランの遺跡も、町の名残を微かに感じさせるものが、瓦礫同然の状態で草むらに埋もれていた。かつてその地上にどのような町並みがあったのか、面影の欠片すらない。それでもエルティアランの遺跡は、まだ形を残している方だった。至るところで途切れてはいるが、用水路や道の跡と思われるものも見受けられたし、一見、無造作に横たわる石も、よく見れば規則性を持って並んでいる。
 だが、その事に喜びを感じたのは一部の考古学者のみで、王も軍も、そしてほとんどの国民にとって、それは無関心な事実にしか過ぎなかった。しかし、それから二十六年後、一つの伝承が、ある考古学者によってエルティアランと結びつけられる。

 破壊神
 旧世界を滅ぼせし者
 その目に映るもの全てを焼き
 その耳に聞こえるもの全てを沈黙に帰す
 天と地が無にならんとした時
 光の民エルフィンがそれを救わん
 闇は再び地で眠り
 光は天に昇る

 流浪の民、キャノマンの間に伝わる歌の中に、その一節があった。破壊神はまだこの地に存在する。その可能性を強く意味するこの歌を知った考古学者ディルフェルは、その発見に生涯を費やす。そしてついに、エルティアランにおいて、巨大な地下層を見出したのだ。
 明らかに人工的に作られた層は二段になっており、一部は崩れて巨大な空洞となっていた。内部はいくつかの小部屋に仕切られ、なかにはかつて貯蔵庫として使用されていたことを裏付ける、ほとんど砂と化した穀物がぎっしり詰まっているものもあった。他には古びた日用品と思われるものが、少なからず散らばっていたが、それ以外は特に何も残されてはいなかった。もともと何もなかったのか、それともラグル達に荒らされた後であったのか。いずれにせよ、ここが伝承の地ではないように思われた。
 だが、ディルフェルにはどうしても気になることがあった。遺跡の西北の角、そこにある地下二層の小部屋の大きさが一致しない。上の部屋の方が大きいのだ。上下の部屋とも西北の角の位置は同じ。そこから南に向かう壁、東に向かう壁は同じ線上にある。さらに西壁から東への仕切り壁も一致する。このような作りは、この部分以外の場所全てで見受けられることで、上下の部屋が対の大きさとなっていた。しかしこの小部屋に限って、北壁から南へ走る仕切り壁が、上と下で食い違いがあった。そこでディルフェルは、ここに隠し部屋があるのではないかと推測した。そして直ちに、この壁を壊してみることにしたのだ。
 結果、彼は、その壁の向こうを見ることなく生を終えた。恐ろしく堅い岩盤に遮られ、どうしても壁を掘ることができなかったのである。一見、周りと何の変りもない土壁。しかし、のみもつるはしも、ありとあらゆる物を使っても、小さな穴一つ開けることすら叶わなかった。
 晩年のほとんどをこの壁の前で過ごしたディルフェルは、生きながら死者のごとく、血の気のない青白い顔をしていたという。何かに取り憑かれたかのような目で、何日も寝ずに壁の前に立ち、時に叫びながら、手が血塗れになるまで壁を叩いた。またある時は、自分の血で黒ずんだ壁に頬擦りをし、抱くように両手で撫でる。そんなディルフェルの狂気が、彼の死後、一人歩きを始める。
 エルティアランの地下。その一角に、伝説の破壊神が、エルフィンの手によって封じられていると……。

 
 
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