「ユーリ、ユーリ!」
「――ティト?」
「あっちに行列が見える。きらきらした、別の行列があるぞ! ユーリ、ユーリ!」
「おい、呼んでるぞ」
「う、うん」
「早く行って黙らせないと、無礼者なんて展開になるんじゃねえのか?」
「いい大人がひどい言葉遣いをするよりは、ましでしょうが」
軽く睨みつけるテッドを無視してミクが言う。
「距離があるので、まず大丈夫だとは思いますが。あまりはしゃぎ過ぎるのも問題でしょう」
「分かった、ちょっと行ってくる」
言葉と同時にユーリが走る。飛び跳ねながら戻ってきたティトと合流し、仲良く先頭まで駆けていくのを見送りながら、テッドが呟く。
「何だかなあ。ユーリも結構、楽しそうに走って行ったな。行列なんぞ見て、何が面白いんだか」
「そうですね」
「――って、おい」
赤い髪が直ぐ脇を過ぎて行くのに気付き、テッドが口元を歪める。
「お前さんまで見物か?」
「他にすることもありませんし」
「それもそうよね」
「おい、サナ。お前も行くのかよ」
「そういうテッドこそ、何で付いてくるの?」
「それは……みんなが行くから」
「サナ、覚えておくといいですよ。こう見えてもテッドは寂しがりやですから。飼っていたカメを、ほんの数日間の旅に連れていくくらいに」
「カメを……旅に?」
サナが振り返る。
「ふ〜ん、そうなの」
テッドの眉が、険しく寄る。
「サナ。今、軽く笑ったろ」
「いいえ」
「いや、笑った。しかも鼻で笑った」
「あっ、見えてきたわ」
「わざとらしく、話を逸らすなよ」
そう言いつつ、テッドも皆に従って前方を見た。
道の先、二十メートルほど行ったところで右から左、つまり北から南に走る街道と合流している。その街道を、静々と進む行列がある。輿の煌びやかさと、お付きの者の服装に若干の違いはあるものの、自分達の行列と大きく異なる部分はない。特に人々の顔立ちは、ウル国の民と全く変わらず、ユーリ達の目では、両国の間に民族的な違いを見出すことはできなかった。
金箔でも貼られているのか、光り輝く輿がゆっくりと正面を過ぎる。ほんの四、五メートルほど進んだところで、なぜか止まる。
「何だ? あんなところで、あっちも休憩か?」
呟くテッドが見つめる先で、静かに輿が地に降ろされた。と同時に、背後がざわつく。ユーリ達と同じように遠目で見物していた人足達が、いっせいに膝をつき、道の上に正座する。そして、金色の輿に向って、軽く頭を垂れた姿勢を保つ。
「もしかして、俺達も」
「その方がいいようですね。仮にも相手は一国の王ですから」
慌しくササノエがこちらに近付いてくるのを認め、ミクが言った。
微笑を向け、表情だけでササノエを制してから、土に膝をつける。人足達を真似て、全員がその場に座し、頭を下げる。
視界のほとんどが、黄褐色の土色で占められた。道なりに沿って瞳だけ上げると、わずかに輿の底辺が垣間見えるのみだ。その輿の前で、影が揺れる。どうやらシャン国王は、長い黒衣を纏っているようだ。そう思うユーリの側で、声が響く。