[AM10:20 若駒寮・長瀬健一の部屋]
それから20分後。
朝飯を終えた俺は、片山や桂木と別れて自分の部屋に戻っていた。
……気分は最悪だった。
人を観察しないと決めていた俺。人に干渉しないと決めていた俺。古い自分は、あの日の海岸に置いてきたはずの俺……。
それが、さっきのは何なんだ。
片山が桂木を苦手にしてようがしてまいが、そんなのはどうだっていいじゃないか。それなのに、細かいことにこだわりやがって。
自己嫌悪が込み上げる中で、俺はそのいらつきを拭おうとするかのように、テレビのモニターに視線を焼きつけていた。
サウンドノベル・ゲーム。
文章が表示され、時折出てくる選択肢を選ぶことで展開が変わる。言うなれば、昔流行ったゲームブックに音と絵をつけて、コンシューマーゲームに乗せたようなものだ。
……ひとつの物語が終わった。
主人公は、何者かに殺された。バッドエンド。しかも、前に見たことがあるエンディングだ。
俺はコントローラーを放り投げた。
所詮、ゲームなのだ。容量の都合か、違う選択肢を押しても同じエンディングが待っている。
現実では、こんなことはあるはずがない。
選択肢の数だけ違う結末が待ってなくてはおかしい。
しかも、往々にして最悪の結末が。
「分岐点があり、そこの選択肢のひとつが最悪の結末に通じるものであった場合、人はそれを選びがちである」
かつて、そんなタイプの人生訓を満載した本がベストセラーになったことがあった。
ベストセラーになったということは、共感するやつが多かったということだろう。
……まったく、その通りだ。
今さらながら、俺はそう思った。