[AM10:00 若駒寮・食堂]
「……なあ、片山」
桂木の姿が完全に視界から消えると、俺は片山を呼んだ。
「どうした」
「お前って、桂木が苦手なのか?」
「え!?」
片山は、完全に予想外といった感じに驚いた。どうやら、俺の推理はハズレに終わったらしい。それはそれでいいことなのだが。
「そんなことないよ。だけど、なんでそんな風に考えたんだ?」
「お前、篠崎のパーティーの件、さっき初めてあいつに言ったんだろう? しかもあいつは、俺がこっちに帰ってきたのも知らなかった。だから、本当はあいつだけ誘いたくなかったのかと思ったんだ。今日になってから誘えば、何らかの予定が入ってて断られる可能性があるからさ」
俺のその話を、片山はあっけなく笑い飛ばした。
「残念、大ハズレ。真理子ちゃんにも来てほしいに決まってるじゃないか。それに、篠崎を祝うパーティーなんて、彼女なら何をキャンセルしてでも飛んでくるんじゃないのか?」
「まあ、それはそうだ。しかし、それならなぜ今日まで桂木に言わなかった?」
「ちょっと、すれ違ってばっかりでチャンスがなくて。どうも女の子相手だと、携帯鳴らすのも気が引けてさ」
意外な言葉が出た。
「……あいつのどこが『女の子』なんだ? そういうのを表に出すタイプじゃないだろう」
俺は、桂木を「女」として扱ったことは一度もない。女であるより先にひとりの仲間、ひとりのライバル。あいつを真っ先に女として見るのは、篠崎くらいのものだ。もちろん、そういった見方を否定するつもりはないが。
「確かに、確かに」
片山も納得したらしく、大きくうなずいている。俺たちは声をそろえて笑った。
だが……俺はまだしも、片山にはこの件で笑ってほしくはない。
当然のようにそう願う俺が、ここにいた。
……当然のように、願う?
愚かな。
そんなことを願うのは、愚かでしかない。
そもそも、他人が自分の思った通りに行動することを願って、何になる。
人は誰しも孤独。
自分以外の誰とも、心はつながっていない。
決して……。