[PM2:30 福島県東部の海岸・岩場]
長旅の末、私はあの海岸に着いた。
まだかろうじて8月とはいえ、すでに海水浴シーズンは終わっている。バイクを置いた駐車場にも、砂浜にも、人ひとりいない。
私は、あの岩場へ歩いていった。当然、そこにも誰もいない。
3年前とまったく同じ場所に座る。
……ここで篠崎くんとはしゃいでいたときは、楽しい想い出だけが積もると信じていたのに……。
隣をふと見ると、今でもそこに、彼のシャツの幻影を感じられる気がした。
シャツだけが主を求めて座っていたという記憶は、私の想い出をいつでも締めつけている。
そのことに関しては、一応彼とももうわかり合えているはずなのに、私は今も……。
……あれから、3年。
私たちは相変わらず仲がよく、彼の方も、あの頃よりはずっと他人を遠ざけなくなった。それはもちろんいいことだ。
でも……。
私たちの心は、ひとつにはなれない。それはきっと、もう「運命」みたいなものなのだろう。一度ならずとも、今まで以上の関係に進展しそうになったことはあるけど、いつもふたりの間にあの日の想い出が入り込んできて、気まずさに負けて止まってしまう。
あの日……。
私は立ち上がり、岩場の上から深い海をのぞき込んだ。
……確かにあのブローチは、大のお気に入りだった。流れ星に見立てて、よく願いをかけた。授業についていけなくなりませんようにと、無事に卒業してジョッキーになれますようにと、そしておそらくは、彼が寂しくなりませんようにとも。それだけ信じ、大切にしていたのだから、なくなってしまったのは残念だと思う。
だけど……それで彼を責めるつもりはまったくない。死にかけてまであれを拾おうとしてくれた責任感の強さを、誰が責められるだろう。
第一、何度も思っているように、悪いのは彼ではなく私なのだから……。
私はもう一度、海の底を見通そうとした。
そんなはずないのに、その彼方にあの星が輝いているような気がした。
……泣きそうな気持ちをこらえて、私はその「沈んだ星」に願いをかけた。
どうか、彼のこれからの人生が、幸せなことばかりでありますように……。