[PM2:30 常磐線車内]
……2時間後。
逃げるようにトレセンを出てきたぼくは、福島へと向かう常磐線の中にいた。
海とは反対側の席に座ってしまうのが、ぼくの弱さなのか……。
電車に揺られながらほんの少しだけ冷静になったぼくは、さっきの片山の言葉をいろいろと蘇らせていた。
『俺の何が気に入らない? 俺がいったい何をしたっていうんだ?』
『真理子ちゃんなら、四六時中貼りついてても文句言わないくせにさ』
『彼女に構ってもらいたいお前は、同じように干渉してくる俺が邪魔なんだ。だから俺だけ遠ざけようとする』
……何だか、わかってきたような気がした。
確かに片山の言う通り、やつも桂木さんも、やってくることはよく似ている。孤独になりがちなぼくを心配して、何かと元気づけようとしてくれるのだ。それなのに、なぜやつに対してだけわずらわしさを感じ続けてきたのか……。
やつの言ったことは正しい。きっとぼくは、その役をやつではなく桂木さんに演じてほしかったんだろう。
そして、ぼくが今まで強くなれなかった理由も見えてきた。
弱い自分でいれば、彼女が優しくしてくれるからだ。
彼女は世話好きな性格。弱い人間を元気づけるのは大の得意だろう。だからぼくに優しかった。でも、ぼくが強くなってしまえば、彼女は「自分の役目は終わり」と離れていくに違いない。ぼくは彼女が好きだから、それがたまらなく怖かったのだ。彼女を失ったら、ぼくにはもう何も残らない……。
……だが。
それでは自分のためにもならないし、第一いつまでも彼女に迷惑や心配をかけてばかりだ。
そろそろ、本物の強さを身につけて、彼女の束縛を解いてあげよう。
ぼくの名前は「剛士」。
強い男だ……。
ぼくは決めた。
あの海辺についたらすべてを告白し……好きとかはまだ言えないだろうけど、弱さの理由などをすべて話して、それでもなお自分のそばにいてほしいと頼もう。
どう言われるかはわからない。でも……彼女に自分の真実を知ってもらえないのは、ただの友達や仲間の関係で終わるよりもつらい。
ようやく、それに気付いたのだった。