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[PM4:00 福島県東部の海岸・岩場]

……長い時間を経て、ぼくはようやくあの海辺に着いた。
シーズンはすでに終わり、砂浜の海の家は、周囲に板を縛りつけられて長い眠りについている。
そして、駐車場にはただ1台、見覚えのあるバイク。
砂浜に、桂木さんの姿はない……。

でも、ぼくは慌てなかった。
そのまま、ゆっくりと岩場の方へと向かう。
そして、かつてぼくが孤独に浸っていたあの場所に……。

「あ……早かったのね」

彼女は座っていた。その瞳は、驚きを映している。
「そうかな……遅かったくらいだと思うけど」
何気ない話をしながらも、ぼくは次の言葉を考えていた。言うべきことを言わなければならないのだ。

「……それより、聞いてほしい話があるんだ」
そしてぼくは、彼女の隣に座った。彼女は不思議そうな顔をした。
「何かしら?」
「……ぼくは今までずっと、弱気なまま生きてきた。どうしても強くなれなかった。その理由が、たったさっきわかったんだ」
「まあ……」
彼女は、らしくない声でぼくの言葉を受けた。でもそれは、ぼくの勇気を目覚めさせてくれる声でもあった。
「それは……君に優しくしてもらいたかったからだった」
「え……!」
彼女はとても驚いたようだった。
「君は優しい人だ。弱い存在には、無条件で手を差し伸べてあげる。昔のぼくは、それを受けて嬉しくて……結果的に、いつまでも弱いままでいたいと思うようになってしまっていたんだ」
「じゃあ……私のせいだったの?」
「いや、せいとかいうんじゃない。それが、ぼくの望みだったんだ。君に構ってもらいたかったんだ……」

「……」
波が岩にぶつかる力強い音が静寂を彩り、同時に恥ずかしさを打ち消した。

「……でも、それじゃいけないんだって、ぼくにもようやくわかったよ。だから、ぼくは決めた。君にひとつ、頼み事をしようって」
「頼み事……」
「……もしぼくが誰の助けも借りないで生きていけるほど強くなったとしても、ぼくのそばにいてほしいんだ。勝手かもしれないけど、君のそばにいたいんだよ……」

彼女の瞳に、何かが宿ったように見えた。
そしてそれは次第に大きくなり、やがて……輝きとなって飛び出してきた。

「嬉しい! もちろんよ! あなたがどんなに変わっても、私、あなたのそばにいる!」

「よかった……」

ぼくは彼女を見つめた。
彼女もぼくを見つめていた。
……と思ったら、その視線はそれた。

「ねえ……あっちの砂浜に行かない? ここは、何だかせつなくなるの」

それは、ぼくも同じ気持ちだった。
「そうだな……。じゃあ、一緒に行こうか。あの日はできなかったけど、今ならできる」
「そうよね、ふふっ」
その魅力的な笑顔を見つめながら、ぼくは彼女と一緒に立ち上がった。

 

 

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