[PM4:10 福島県東部の海岸・砂浜]
「……誰かの隣にいるのがこんなに楽しいってわかっていれば、ぼくの人生もちょっとは変わってたかもしれないのにな……」
東屋先生のカメラを砂浜に置き、オートで写真を撮ったぼくと桂木さん。その後は、ぎりぎり波が届かないあたりに並んで座り、話をしていた。
「実は、厩舎で留守番してたとき、『連れていきたい店があるから』って片山が誘いに来たんだ。それをぼくは、君との約束があったとはいえ、ろくに話も聞かずに追い返した……。悪いことをしたなと思ってるよ。あいつも、あいつなりにぼくのことを考えてくれてたんだろうに」
……彼女は答えなかった。なぜか、ためらったように目を伏せている。
「どうかしたのか?」
「……これ、本当は言っちゃいけないって約束だったんだけど」
彼女はようやく話し出した。
「片山くんね、今日あなたのために、誕生日のパーティーを企画してたのよ」
「えっ……!!」
それは、ぼくの中に新しい風を呼び込む事実だった。
「何も知らせずに誘って、お店についたら私と長瀬くんがいて、びっくりしたけどすごく嬉しい……って形にしたかったんじゃないかしら。長瀬くんを札幌から呼び戻したのも片山くんなのよ」
「……」
「あなたに誘われたときにちょっとためらったのも、その先約があったからなの。片山くん、どうしても自分があなたを誘いに行きたいから、例えあなたに会ってもパーティーのことは言わないでって……」
……ぼくは、東屋厩舎の入口で平手打ちを食らわせたときの片山の姿と、手の痛みを思い出した。
あのときぼくは、やつを追い返すことしか考えなかった。
それなのに、あいつは……。
「……あいつ、いいやつだったんだな。あいつにはぼくの心はわからないって思ってたけど、何もわかってなかったのは、ぼくの方だ……」
今さら遅いだろうが、ぼくの胸の中は、やつへの申し訳なさであふれた……。