私は、同期生の女性騎手・星野レイラのお見舞いのために、僚ともうひとりの同期生・城泰明くんを誘って病院へやってきた。
レイラは一昨日の障害レースで五十嵐厩舎所属のアイスバーン(牡5歳)に騎乗していたが、レース中に馬が故障を発症して落馬。馬は予後不良となり、レイラも左足首の骨折で全治3ヶ月と診断されたのだった。
「……納得いかないなあ……」
ベッドから起き上がり、飲み物などが置いてある台で頬杖をつきながら、レイラがぼやいた。
「納得いかないって?」
私たち3人がお見舞いで持ってきた果物かご(オレンジとバナナと花が入っている)をその台に乗せながら、泰明くんが聞き返す。ちなみにこのかごを選んだのも彼だ。
「あんただって障害乗るんだし、知ってんでしょ? 最近、障害であたしみたいな落馬事故がすっごい多いってこと」
「確かに……そうだね」
「ああ。言われてみれば、俺が有馬乗れるようになったのだって、あのレースでブランチの主戦ジョッキーがレイラの落馬の巻き添え食らって一緒に落ちてケガしたためだしな……」
僚が腕組みをしながら言った。
「そうね。ちょっと多すぎるような気もするわね……」
私もそう感じていた。
障害レースというのは1日に1レースあるかないかで、1ヶ月でも7〜8レースなのだが、この3ヶ月ほどの間に実に9つのレースで、馬の故障による落馬があった。単純に計算して1ヶ月に3レース、およそ2回に1回は事故が起きていることになる。しかも、故障したのはそのレースで人気を集めていた馬ばかりだ。
「でしょ? だからさ……あたし、どうしてもこう考えちゃうんだよね。何か陰謀でもあるんじゃないかってさ」
「陰謀? まさかそんな」
「……泰明、信じてくれないんだ」
「あ、いや……まだそんなことは言ってないよ」
泰明くんはレイラには弱い。
「しかし……その説、あり得るかもな。常識で考えたって、夏までとはちょっと事故の発生率が違いすぎる。何者かが何らかの方法で馬を故障させてるとか、そんなことがあるのかもしれない」
僚の話には基本的に賛成だったが、まだ疑問も残る。
「でも、何らかの方法って何? レース中に特定の馬だけを狙って故障させるなんて不可能に近いわ」
「遠くからライフルで撃つとか……」
と泰明くん。
「ちょっと、物騒なこと言うんじゃないよ。第一、走ってる馬の脚だけ狙って命中させるなんてこと、世界一のスナイパーだってできっこないじゃん」
レイラの言う通りだ。それは無理があるし、現実味もない。
「そうか……そうだね」
泰明くんは自分の説を引っ込めたが、4人が4人とも考え込んでしまったところから、「何者かの陰謀説」には一応全員が賛成のようだ。
……私も、頭の中で少し推理のようなことをしていた。
どこかの誰かが、何らかの方法で馬を故障させている……。
それが事実だとしたら、まず、その目的として考えられるのは何……?
A 馬券を狂わせようとする、いわゆる「八百長」じゃないかしら?
B 馬を使って、何らかの「動物実験」をしているんじゃないかしら?