八百長……。
事故が起きたレースでは人気馬の故障で必ず高配当が出ているだけに、その可能性は高い。
故障させる方法についてはわからないものの、少しだけ糸口が見えてきた気がした。

では、その犯人は……?
八百長だと仮定すると、黒幕は外部の暴力団あたりか。
だが、それと同時に、競馬界の内部に協力者がいなければならない。
ということは……今までに犠牲になった馬を1頭1頭調べて、その馬たちの関係者に共通する人物がいれば、その人は限りなく怪しいわ!

何か、私にも調査のようなことができそうな気がしてきた。
自分の力が及ぶところまで、やってみよう。

 

 

病院を出てトレセンに帰ってくると、私は僚や泰明くんと別れ、若駒寮の自分の部屋に戻ってパソコンに飛びついた。
データベースを検索して、被害馬たちに共通する関係者を探すためだ。

 

 

――1時間ほどかけて調べたところ、共通項はひとつしかなかった。
それは、普段診察してもらっている獣医が同じ「東屋隆二先生」だということだけだ。
トレセンは広いが、獣医の数はそれほど多いわけでもなく、共通していてもおかしくはない。

だが――。
ひとつでも共通項があった以上、やはり東屋先生が怪しいと考えるべきなのだろうか。
それとも、それは軽率な判断だろうか。

幸い……というか、私は東屋先生についてはそれなりに知っている。
彼の父親・東屋雄一先生は、若い頃は同じくこのトレセンで獣医をしていたが、その後に調教師免許を取得して厩舎を開いた。そこに所属していたのが、騎手時代の私の父だ。
東屋隆二先生は、名前からわかる通りふたり兄弟の弟。お兄さんも獣医だが、彼はトレセンを離れ、遠い街で犬猫病院を開いているそうだ。
東屋先生の今の家族は、ひとり娘の香先生だけだ。彼女もまたこのトレセンで獣医になった。まだ見習いの段階だが、いずれは父親の診療所を継ぐことになるのだろう。
奥さんは、ずいぶん昔に出ていってしまったらしい。というのも、東屋先生は――父によるとこれは雄一先生から香先生まで親子3代同じらしいのだが――少々変わり者で、自分が興味を示したことだけに一生懸命で、その他の事柄にはまるで無頓着なのだ。早い話が家庭を顧みないタイプで、奥さんはそこに愛想を尽かして出ていったのだろう。
まるで私の家みたいな、バラバラな家庭だ。うちは両親の仲がいいから、まだましな方なのだろうか。
いや、娘が不満を持つようでは、いい家庭とは呼べまい。やはりうちにも問題は山積みだ。

……ともかく、東屋先生について私が知っているのはこの程度だ。やはり、少々物足りない。
彼についてこれ以上のことを調べるには、どうすればいいのだろう。

 

 

A  東屋雄一先生に詳しい、私の父に聞いてみよう。

B  トレセンの内情に詳しい知り合いに聞いてみよう。

C  東屋先生についてはひとまず置いておいて、別の視点から探ってみよう。


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