私は建物の中を自由に歩きまわれるのだ。これを利用しない手はない。確かに怖くないと言えばウソになるが、自分にできることがある限りはそれをするのが私のポリシーだ。
早速、行動を開始しよう。
まずはこの建物の中をまんべんなく歩きまわって、犯人グループの現在位置と正確な人数を探ろう。人数に関しては正面から入ってきた4人で全員だろうとは思うが、裏口あたりからもうひとりほど侵入している可能性も考えた方がいいだろう。

 

 

私は、恐怖に脅える人質を演じながら裏口の方へとゆっくり歩いていった。あまり普通に歩くと、何かを企んでいると思われてしまう。

――この寮には階段が2ヶ所ある。さっきスキンヘッドが座っていたホールのものと、裏口の近くだ。
その裏口近く(といっても裏口まではまだ数十メートルあるのだが)の階段の1階部分には、リーゼントが座っていた。当然、そばを通る私のことは上目づかいでチェックする。私は口を手で押さえながら足早に通り過ぎ、裏口の方へ急いだ。

裏口の前では、女が床に座っていた。……手に持ったマシンガンが物騒だ。
女のすぐ横には、何かの機械がある。ホールでの会話からすると、あれがセンサーの装置なのだろう。
……女が顔を上げ、感情のなさそうな瞳で私を見た。慌てて退散する。

リーゼントの座っている階段を使って2階へ上がる。
リーゼントがここに、女が裏口にいるということは、他に侵入している人間がいない限り、これで全員の居場所を確認したことになる。
が、当初の予定通り、念のため建物全体を見てまわろう。

2階の廊下を端から端まで歩いて、ホールにつながっている方の階段を使って3階に上がる。
今度は3階の廊下を歩き、端まで行ったら裏口近くの階段で4階に上がる。
そして4階を端まで歩いてみたが――どうやら本当に犯人グループはあの4人だけらしかった。
人数的には少ないが、2ヶ所の階段と裏口を見張るあたり、やはり私たち人質を逃がさないための予防線は徹底しているようだ。

……しかし……。
見まわりを終え、4階の廊下の窓から何気なく寮の裏側を眺めていた私は、ふと考えてしまった。
犯人グループの人数や現在位置を私が知っていたところで、いったい何になる?
センサーで外から完全に隔離されている以上、いくら中の状態を知っていても、それを外の人に教える手段は一切ないのだ――。

 

 

……そうして、どれくらいその場でぼんやりしていただろうか。

「真奈さん!」
不意に横から呼ばれて振り向くと、花梨ちゃんが廊下を走ってこっちに来るところだった。
「どうしたの、慌ててるみたいだけど」
私にはそう見えた。
「いえ、別に慌ててるわけじゃないんですけど……ちょっと、お聞きしたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
私が聞き返すと、花梨ちゃんは話し出した。

「はい。実は私、何とかここから自力で脱出する方法はないかと作戦を練っているところなんです。でも、どうもいい方法が見つからなくて……。真奈さん、何かいいアイディアはありませんか? 例えば、お部屋に使えそうな道具があるとか……」

私は答えた。

 

 

A  「そういえば……」

B  「ごめんね、ちょっと思い当たらないわ」

C  「危ない真似はやめなさい!」


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