さっきとは逆に、上へ上へとゆっくりひっぱり上げられる……。
……気がつくと、俺の視界には若草色があふれていた。
みどりの部屋のカーペットの色だった。俺はその上に倒れていたのだ。
戻ってきたんだ……。
俺は、その現実をかみしめた。
が……その直後、新たな不安が胸を支配し始めた。
……もしかして、俺は夢を見ていただけなんじゃないだろうか?
あれは、俺の未練が作り出した幻の世界だったのでは?
そう、そこで何をしようと現実は何ひとつ変わらないという、今の俺にとっては冷酷非情この上ない夢……。
経験してきたのがあまりに非現実的な世界だったため、その不安は余計に募った。
俺は起き上がり、カーペットの上にあぐらをかいて座ると、自分の後ろのベッドを意識した。
……振り返れば、すべてがわかる。
もしそこに誰もいなければ、あの奇跡は現実にあった出来事だということになる。
でも……もしみどりがあの無惨な姿のまま、そこに横たわり続けていたとしたら……。
俺には、それを確かめるだけの勇気はなかった。
……何を怯えてるんだ、俺は。
一度は彼女を追って死のうとまでしたくせに、後ろを振り返るなんて簡単なことが、どうしてできないんだ。
弱気な心を戒めるために、俺は……。
B みどりが愛用していた目覚まし時計を手に取り、耳にくっつけてベルを鳴らしてみた。
C さっき残しておいた手紙があるかどうか、思いきってテーブルの上を見てみた。