HOME研究ノート平家詞曲の伝承者


伝承者、相伝者

師匠の口から自分の耳へ、自分の口から弟子の耳へと
師匠からの伝承を、演奏活動や後進の育成によって伝える人のことです。
また、全200句の平家正節(へいけまぶし)を修得し、免許皆伝が許されたものは
相伝者といいます。

現在、どのような伝承者がいるのか

弘前藩士だった楠美家は、江戸時代末期に全200句の相伝を受けています。
その子孫 館山 甲午(1894年−1989年)師は 無形文化財の保持者となり、 
子息・館山 宣昭 師をはじめ 5人に相伝を授けました。
館山 宣昭 師は、平成10年、2人に相伝を授けました。(その一人が私です)

いっぽう、尾張藩に伝わった平家詞曲は、明治維新後も盲人の音楽団体に守られ
8句を伝承してきました。
現在 今井 勉 氏(今井検校)が それを伝承し、
さらに 館山甲午師のテープやCDによって 2句を復元されているそうです。

この人たちは「伝承者」と言えるか

定義の方法によっては、少しだけ演奏ができる人も「伝承者」になるのかもしれません。
しかし、「趣味で謡曲を習っている人」のことを、能楽師と呼ぶでしょうか?
「ピアノを習っている人」のことを、ピアニストと呼ぶでしょうか?

私は、師匠が伝承していたすべてのものを授かり、さらにそれを後世に残すべく、
責任を持って活動している人でなければ、伝承者とは呼べないと考えています。
少なくともこのホームページ上では、次のように定義します。
伝承者:師匠が伝承していたすべてのものを授かり、
それを後世に残すべく責任を持って活動している人。
相伝者:平家正節全句を修得し、免許皆伝を受け、
後進に免許を授ける資格を持っている人。

「少し習った人」の活動について

館山甲午師や、甲午師より相伝を受けた弟子から 
「数句」あるいは「数十句」習った人は 大勢いらっしゃいます。
ただ、平家詞曲の真髄は、その程度習うだけでは決して理解できません。
ですから「数句」習った方が一人で演奏するには無理があります。
「数十句」習った方が「演奏家」として活動するのなら、意義はあるでしょう。

ところが、中には、
数句習っただけで(演奏もできないのに)弟子を取る人

習ったことさえ無いのに、館山甲午師のテープやCDを「ものまね」して
あたかも伝承者であるかのように偽って活動している人もいるのです。
この人たちは「復元の試み」と「伝承に対する冒涜」をしているに過ぎません。

なぜ、このような事態が起こってしまったのか。
それは、真の伝承者があまりにも少ない上
文学や音楽の「おまけ」としてしか平家詞曲が研究されなかったため
平家詞曲の真髄が、一般に浸透する機会がなかったからだと思われます。

相伝の立場から

「演奏家」や「復元家」がどんなに努力してもできないことがあります。
師匠と対峙し何度も繰り返し稽古をつけていただくことで伝わる「口伝」
伝授物を修得しなければ知ることの出来ない「秘伝」
相伝を授かる頃に、自然と身についている「自信と確信」 です。

私が 相伝を受けた者として取り組まなければいけないことは
自信と確信を 学術的に証明し、学会や書籍として発表していくこと、
地道な演奏活動や このホームページを通じて、
平家詞曲の正しい理解を広め、後進を育てることだと考えています。


Copyright:madoka 初版:2000年3月24日
 
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