HOME研究ノート質問

演奏会・講座などでよく受ける質問と回答です。
専門的な内容が多いので、こちらに載せました。


所要時間New! 全句聴きたい  平家詞曲の魅力
琵琶法師?  家元?  趣味?

全句(200句)語ると何分かかりますか?

稽古のときは口伝を受けるために中断することが多いこと、
一句語るのに、約10分〜90分以上かかること、30〜40分くらいの句が多いことから
2004年5月20日の段階では単純計算して150時間くらい?と考えていました。


2006年2月〜12月までを費やして全句の通し稽古をしたところ、
約95時間で語ることができました。
ただし語る速さは、個人差・建物・天候・聴衆などの環境でも変化しますので
これは一例にすぎないことをご承知下さい。もっと詳しく

Copyright:madoka  初版:2006年12月20日

ちなみに江戸時代には寺社の改修費用を集めるための
「勧進平家」なるものがあり、複数の検校たちが
ひと月かけて、代わる代わる全句を語ったのだそうです。
江戸時代の記録をみると、琵琶会などで好んで語られるのは50句程度だったようです。
それ以外の句は、「語り」としては単調だったり、武将の非業の死の場面などが
あったりするため、避けられていたのです。
このような珍しい句を聞くことができるのが、「勧進平家」になります。
興行的な目的を果たしつつ、寄進も募る、合理的な方法だったのかもしれません。

追記:1日3〜5時間×30日、約120時間かけたものと推測しています。

Copyright:madoka  初版:2004年7月10日 補足2004年12月23日 追記:2006年12月20日

今年(2004年)のように自然災害の多い年には、
貴重な寺社も莫大な修復費用がかかることでしょう。
ひと月かけて「勧進平家」をするのは、さすがに困難ですが、
その精神を受け継ぎ、2〜3日間で数句を語るようなチャリティー演奏会を、
来年か再来年には計画したいです。  2004年12月23日 鈴木まどか




全句(200句)聴いてみたいのですが?

かなりの覚悟が必要ですよ。
音の変化や物語の内容が楽しめるものは、実は50句くらいです。
江戸後期の演奏記録などをみても、それが裏付けられます。
それ以外の句は、難解もしくは退屈なのです。

いずれは全句を語る企画をしたいと考えていますが、
灌頂巻や秘事は、一日に一句しか語れない決まりがあるので
(重い内容のため、語り手も聴き手も疲れるからです。)
日程的にも負担は大きくなるでしょうね。

Copyright:madoka  初版:2004年5月22日



平家詞曲の魅力は?

いろいろな魅力があると思いますが、
私がいま、いちばん興味を持っていることは、
客観的に描かれた『平家物語』に
客観的に記された「曲節」をつけて語ることにより、
【聞き手】が自由に、その場面を想像できる点です。

小説を題材にした漫画やテレビドラマに置き換えてみてください。
漫画家の描く主人公や、役者が演じる主人公は、
小説の読者それぞれが描いた主人公と、きっと違うと思います。

平家詞曲では、【語り手】自身が感情を表すことはありません。
曲節の助けを借りて、どういった場面かを示すだけなのです。

Copyright:madoka  初版:2004年10月3日



あなたは琵琶法師ですか?

ちがいます。
江戸時代末期まであった盲人団体「当道座」に属する盲人は、
成立の背景から、お坊さんの格好をしていました。
琵琶法師とは、琵琶を弾く目の見えないお坊さん、という意味です。
私は女性ですし、出家もしていませんので、琵琶法師ではありません。
ピアノを弾く人をピアニストというような感覚で、
琵琶を弾く人を琵琶法師と言う方もありますが、
適切な表現ではありません。

Copyright:madoka  初版:2004年5月20日



あなたは家元ですか?

ちがいます。
平家詞曲は免許皆伝制のため、 家元は存在しません。

免許皆伝制は、武士の間で培われた武道で多く見られます。
平家詞曲は「当道座」の盲人の間で伝承されてきました。
いずれも限られた立場の人が支えたものです。

いっぽう、茶道・華道・日舞など、町人の文化となったものは、
免状を発行する人を「家元」とすることで、
門人は免状取得を励みにし、家元は謝礼を収入源としました。

Copyright:madoka  初版:2004年5月20日



琵琶がご趣味なのですか?

いいえ、正業です。
ただし収入源にはならないので、誤解を招くようです。

平家詞曲は江戸幕府の盲人保護制度の中で伝承されていたため、
演奏に対する謝礼等は、昔から定められていなかったようです。
私も「謝礼は○○円です」と申し上げることができません。
(出してくださる分は有難く頂戴しておりますが。)

そのため、私は生業(ナリワイ)を持っています。
相伝者としての私を、雇用者としての私が、保障しているのです。

Copyright:madoka  初版:2004年7月10日



研究ノート 内容の転載・引用を希望の方は、必ずご一報下さい。