第一章 最近の国策化学

第九節 グットイヤー


 グッドイヤーGoodyrear初春か新年のような目出度い名前です。此の人はゴム工業からは神様のように崇められてる人です。全く立志伝中の人です。十七歳の時アメリカフィラデルフィヤの鉄商に勤め、二十一歳父の下に金属細工を手伝っていました。然し幼い時からゴムに興味を持ち忘れる閑もなく此れについて実験を試み、遂に硫黄によってゴムが弾性に富み水や薬品に強い性質のものと変化する事を発明した。即ち今日のゴムが初めて生まれたのである。(1844年)。

 ゴムは熱帯地方に産する樹木の膚から滲み出す膠のようなどろどろした液で、水分を失えばやや弾力あるものに固まる。此れをゴムと称し水にも弱く全く今日のような実用的な原料とならない。

 此の樹から出る汁をラテックスと云い、其の成分は次の様であり、其の内炭化水素はゴムの本質であるが、其の含有量は一定しない。ゴムの取れる樹はHevea及びFicus elastiaの二種で前のものより得られる汁をパラゴムと云いゴム含有量最も多い。後の樹からは印度ゴムと称するゴム成分やや劣る。此の外にもゴムを得る樹木数種あり。

ゴムラテックス成分表

富有種
貧質種
炭化水素(ゴム主成分)
90−93%
25%
樹脂
 2−4%
60%
水不純物
 3−8%
15%

 硫黄によりゴムに弾性を与える事を今日はバルカニゼイション「和硫作用」と呼ぶが、発明の初めには此の作用をメタリゼイション「金属化作用」と呼んだ。

 和硫作用の研究も次第に進み、此の作用を促進させる為に加える種々の薬品も明らかとなり、又ゴムが空気により酸化され、その品質を低下する事をゴムの老化と呼ぶが、此の老化を防ぐためにも幾つかの薬が考案された。

 ゴム製品中薄物、例えば手袋、煙草容器の如きものを作るには、普通の和硫作用の如く圧力や熱を加えず、塩化硫黄の2−3%の二硫化炭素溶液中に薄いゴムを浸して和硫す、此の方法を低温和硫と云う。

 ゴム化学に於ける最近の新しい発明はゴムの生汁、即ちラテックスより直ちに製品を造るに至ったのである。今ラテックスは多量の水分を含んでおるため、之を熱帯の原産地から遠く離れたゴム工業地に運搬する事は非常に運賃が高まる、然るにラテックスにアンモニヤの少量を加えたる後遠心分離機を以って、牛乳よりクリームを分離すると同様にしてラテックス中のゴム製分と水分を大部分分かつ事が出来る。斯くの如くしてゴム主成分70%以上を含む物を得。ラテックスより水分を去るとゴム分が凝縮して和硫作用を施し難きものとなり易きを、アンモニヤを加え置く事によりゴム分を濃厚にしても此の凝縮の欠点を生ぜず、それに硫黄及び和硫促進剤其の他のものを加えたる後、此の液を薄く塗る事により水分を加熱空気により乾かし去れば、ゴム分は薄く弾性に富む膜を作る。

 最近塩化ゴムと称されるものが、英国に於いてはalloprene(アロプレン)と云う名称にて初めて売り出された。此の特許は1859年に得られたものであるが、其の実用化は極めて遅かった。塩化ゴムの製法は溶液又は直接クロルをゴムに作用せしむる時は、クロルが三分の二(重量)位迄ゴムに化合する。此の塩化ゴムは酸アルカリに強く、又堅牢にして火に耐える性質を持つにより塗料とし用う。防錆塗料ともなる。此の塩化ゴムは普通のゴムとは混合する事が出来ない。

 ゴムの産地はインド其の他の熱帯地方であるが今その天然野生のゴムの産額を示せば。

天然ゴム世界産額

1900
53,900
1905
62,000
1906
65,700
1907
68,000
1908
63,600
1913
60,800
1922
24,900
1930
21,000
1933
11,800
1934
13,600
1936
22,800
1937
27,200

ゴム輸入額
        (ネット)(2240ポンドのロングトン)1936年

米国
488,145
英国
126,764
(1935年)
フランス
51,450
(1935年)
ドイツ
71,793
カナダ
27,867
日本
61,700
イタリー
16,535
ロシヤ
30,994
旧オーストラリヤ
9,978
(1935年)
ベルギー
9,626
旧チェッコスローバキヤ
8,781
スエーデン
4,538
オーストリー
3,650
(1935年)
オランダ
2,890
スペイン
8,553
(1935年)

列国のゴム消費高(単位 千瓲)

昭和10年
〃11
〃12
日本
57.0
63.0
65.0
米国
500.0
582.0
552.0
英国
96.5
101.0
116.5
独逸
64.0
73.0
100.0
仏蘭西
53.0
57.7
60.0
加奈陀
27.4
28.3
36.6
ソ連邦
38.6
31.5
29.5
伊太利
24.4
16.3
24.4
濠州
10.0
14.2
20.3
白耳義
8.1
9.8
14.7
其ノ他
69.0
74.0
84.0
948.0
1,050.8
1,103.0


第八節に戻る

第十節に進む

目次に戻る