118号 200910月 インフルエンザ

 

 

 2009年3月頃から、突如として新型インフルエンザ(H1N1型インフルエンザ)の感染報告が世界で相次ぎました。その後WHOはパンデミックの警戒水準を、611日にフェーズ6に引き上げ注意を喚起しました。

 

 

歴史

 インフルエンザウイルスは、過去数度にわたりパンデミックを引き起こしています。まず、1918年〜1919年の「スペインインフルエンザ」で、地球上の人口の約半数が感染したといわれています。ついで、1957年にH2N2型ウイルスによる「アジアインフルエンザ」、1968年にH3N2型ウイルスによる「香港インフルエンザ」、1977年にH1N1型ウイルスによる「ソ連インフルエンザ」が大流行しました。さらに2001年には、「香港インフルエンザ」と「ソ連インフルエンザ」が混ざったH1N2型が出現しています。これらは毎年冬期に集中して流行を繰り返しているため、季節性インフルエンザと呼ばれています。

 インフルエンザウイルスはヒトだけでなく、カモなどの水鳥、ブタ、ウマなどに感染増殖して自然界に生存しています。1997年以降、トリH5N1型の新型インフルエンザに対する脅威が言われてきましたが、2009年3月、突然ブタH1N1型の新型インフルエンザが世界を駆け抜けました。

 

 

特徴

 インフルエンザウイルスはRNAウイルスで、ABCの型に分類されます。

A型インフルエンザウイルスは、表面の赤血球凝集素(ヘマグルチニン:HA)突起とノイラミニダーゼ(NA)突起の抗原性によって多くの亜型に分類され、HA突起はH1H1616種類、NA突起はN1N99種類があります。

ヒトでは現在、A型の香港H3N2型とA型のソ連H1N1型の2つの亜型ウイルスと、亜型のないB型が毎年流行を繰り返しています。

 

 

新型インフルエンザ

1997年5月、香港で死亡した3歳の男児から分離された新型インフルエンザは、今までになかったH5N1の組み合わせのH5N1型で、中国や東南アジアの各地でニワトリからヒトへの感染を引き起こしました。スペインインフルエンザの致死率は、感染者の2〜3%だったようですが、H5N1型トリインフルエンザは強毒型で、60%もの致死率となっています。

なお、新型インフルエンザと呼ばれていた、ブタH1N1型インフルエンザは弱毒型とされ、現在は季節性インフルエンザとして扱われています。

 

 

治療薬・ワクチン

インフルエンザウイルスの赤血球凝集素(ヘマグルチニン:HA)は、ウイルスが細胞に感染する際、細胞の表面にあるシアル酸という部分にくっつきます。くっついたウイルスは細胞に侵入し、仲間を増やす場として細胞を利用します。しかし、増えたウイルスが細胞の外に出るときは、逆に赤血球凝集素(ヘマグルチニン)が細胞表面にくっつくと離れられないので、つながっているシアル酸の部分を切り離す「はさみ」の役割がノイラミニダーゼ(NA)です。ノイラミニダーゼ阻害薬は、このノイラミニダーゼの「はさみ」の刃の部分にはまって切れなくし、インフルエンザウイルスの、他の細胞への感染拡大を防ぐ治療薬として使われます。内服薬がタミフル、吸入薬がリレンザ、イナビルです。

 ワクチンの予防接種によって、抗インフルエンザ抗体ができれば、上気道への吸着や侵入が抑えられ、感染してもウイルス複製が制限され、重症化を防ぎ、発症率や死亡率を効果的に低くすることができます。

 

 

予防に口腔ケア

インフルエンザ対策として「手洗い」「うがいの徹底」や「マスクの着用」などはよく言われることですが、意外にも「口腔ケア」が予防効果を高めることは、あまり周知されていません。

口のなかには、300種を超える細菌が数千億も住み着いています。さまざまな酵素を出す細菌がおり、タンパク質分解酵素は、口や上気道の粘膜を保護しているタンパク質を破壊します。口のなかの清掃状態が悪いと細菌により粘膜が破壊され、インフルエンザウイルスの上気道への吸着や侵入を助けることになります。細菌感染症が、インフルエンザ発症率を高め重症化をもたらすのです。

65歳以上のデイケアに通う高齢者190人のうち、介護施設で歯科衛生士が高齢者98人に対し口腔ケアと指導を実施しました。すると、この「専門的口腔ケア群」は、これまで通り本人及び介護者による口腔ケアをした92人の「対照群」に比べて、インフルエンザ発症率が10分の1に激減しました。口腔ケアを徹底すれば、細菌の出すタンパク質分解酵素を抑えられ、上気道粘膜へのインフルエンザウイルス感染を抑えることができるのです。

 インフルエンザ流行の予測が困難になっており、薬剤耐性ウイルスの問題も深刻化しています。ワクチンや薬剤によらない新たな感染予防および重症化対策が求められています。口腔ケアによるインフルエンザ予防は、特に死亡率の高い高齢者で有効であるといえるでしょう。

 

 

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