109号 2009年1月 ビスホスホネート薬剤による顎骨壊死

 

 

ビスホスホネート系薬剤の副作用として、顎骨壊死が発生する可能性のあることが、2008年1月4日に読売新聞で報道されました。

 

 

ビスホスホネート

ビスホスホネートは、石灰化抑制作用をもつ生体内物質であるピロリン酸と類似した化学構造をもつ薬剤です。古くは、水道管の水垢取りに使用されていましたが、1960年代、ピロリン酸と類似したこの構造により、体内に取り込まれると骨のミネラルと強固に結合し、骨の吸収を抑制することが報告されました。

その後、臨床応用についての研究が進み、悪性腫瘍による骨病変、骨転移に対して有効性の高い薬剤として注目され、最近になって骨粗鬆症こつそしょうしょう)に対して広く使用されるようになり、その対象となる方は300万人にもおよび、今後も骨病変に対する一般的な治療薬として使用頻度は増加すると予想されています。

 

 

薬物学的特徴

 ビスホスホネートの最も大きな特徴は、投与方法、投与ルートにかかわらず、50%は選択的に骨に集積し、残りの50%は腎臓を経由してすみやかに尿中に排泄されることです。したがって、骨以外の組織が直接ビスホスホネートの影響を受けることを考える必要はないのです。

 また、分解されにくいため、ビスホスホネートは化学構造的には10年以上も骨に残存することが報告されています。しかし、腸管からの吸収率は投与量の0,5%〜0,7%ときわめて低いため、経口投与では骨内での濃度は高まらず効果は得にくいのです。

 

 

顎骨壊死

 2003年Marx、2004年Ruggieroらは、ビスホスホネートが、あごの骨である顎骨での、骨の壊死の発症と密接にかかわっていることを初めて報告しました。ビスホスホネートは1960年代の後半から40年以上にわたって使用されてきましたが、なぜ2003年から突然、顎骨壊死が発症するようになったのかは不明です。

 典型的な顎骨壊死の症状は、持続的な骨の露出のほか、「あごが重い」感じ、鈍痛、あごのしびれ、「歯痛」のような痛み、軟組織の腫れや感染、歯の揺れなどがみられます。抜歯や歯周病治療などをきっかけに発症することが多いです。

発症部位は、下あごの骨:下顎骨の方が多く、上あごの骨:上顎骨の約2倍の頻度で発生します。顎骨以外の骨にはほとんどみられませんが、その理由はまだ不明です。

わが国における発生頻度は明らかではありませんが、海外での報告は、経口薬で0,01%〜0,04%程度と頻度は高くありませんが、注射薬では0,8%〜12%と、報告されている頻度に幅があります。ただし抜歯を伴う場合では、約10倍に増加するといわれています。

 

 

顎骨壊死の治療・予防

 顎骨壊死の有効な治療法は、残念ながらいまだ確立されていません。感染予防として、抗菌剤の服用やうがい薬の使用を考える程度です。また、ビスホスホネートは体内にとどまる期間が長いので、悪性腫瘍に対する適応が満たされた時点で、ビスホスホネートの投与を中止するか、他の薬剤に変更可能か、主治医と相談します。

 ビスホスホネート治療前でしたらば、感染源を減らすため、抜歯や歯周病治療、歯の根の治療などの歯科治療は、前もって行っておきましょう。

 ビスホスホネート治療中でしたらば、およびお口の中の清掃を積極的に行います。抜歯や歯周病の外科治療、インプラントなどの外科処置は極力避けるようにしましょう。

 

 

国内で販売されているビスホスホネート

 現在わが国では、悪性腫瘍に対する注射薬として5製品、骨粗鬆症に対する経口薬として5製品が販売されています。

注射薬

アレディア、オンクラスト、テイロック、ビスフォナール、ゾメタ

経口薬

ダイドロネル、フォサマック、ボナロン、アクトネル、ベネット

 

 

 

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