第55号 2004年7月 箸
箸の語源は、食物と口との橋渡しからという説があります。
世界の食文化
人間は、火を使うことにより生まれた熱い料理を食べるために、手で食べる手食から、箸やナイフ・フォーク・スプーンなどの道具を用いるようになりました。現代では大きく分けて、手を用いる手食文化、箸や匙を用いる箸食文化、ナイフ・フォーク・スプーンを用いるカトラリー食文化の3つの食文化があります。その理由は、気候、風土、作物に、民族、宗教、文化などの要因が大きな影響を与えて、それぞれの地域で独自の食文化を作り出してきたことによるようです。
手食文化
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東南アジア、中近東、アフリカを中心として、全世界の人口の44%を占めます。
ヒンズー教やイスラム教などの宗教は、浄・不浄の観念が徹底しており、食物は聖なる右手の3本指(親指・人差し指・中指)でつまんで口に運び、不浄とされる左手は使いません。食事に道具を用いることは不浄とされ、手食が最も清浄と考えられているのです。箸食文化やカトラリー食文化と接触しながらも道具を使わないのは、こうした古くから根付いている宗教観が背景にあるようです。また、箸食文化と同じ米食中心ですが、パサパサしたインディカ種に箸はなじまなかったといえます。
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箸食文化
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中国、朝鮮、日本、台湾、ベトナムを中心として、全世界の人口の28%を占めます。
世界最古の箸は、紀元前16世紀の殷の時代に、神に食物を供える祭器としてのもので、日常の食生活は手食だったようです。その後漢民族が、粘りのあるジャポニカ種の稲作文化の発展とともに、匙と箸を用いる食文化を発展させました。
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カトラリー食文化
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ヨーロッパ、南北アメリカ、ロシアを中心として、全世界の人口の28%を占めます。
ギリシャ・ローマ時代からナイフだけは存在していたようですが、大皿の肉類を切り分ける道具であって、各人が手にもって食事する道具ではなく、切り分けた肉は手づかみで食べていたようです。ナイフ・フォーク・スプーンのセットされた食べ方は、17世紀のフランス宮廷から始まったようです。
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日本独自の箸食文化
紀元前16世紀の殷の時代に、神に食物を供える祭器として使われ始めた箸ですが、日本に伝来したのは、3世紀の弥生時代末期であるといわれています。やはり神に食物を供える祭器で、ピンセット型をした折箸(1本箸)で、素材は竹製でした。ちなみに、箸という字がタケカンムリであるのは、これに由来しているという説もあります。現在も、天皇の重要な神事である、新嘗祭や大嘗祭の儀式では、この竹製折箸を用いているようです。
それまで手食文化であった日本でも、7世紀初頭の遣隋使の派遣により、宮中では2本箸と匙を使用し始め、奈良時代には一般的な使用となっていったようです。しかし、箸と匙を併用する中国式箸食文化も、平安時代後期には、器に直接口をつけて食べる「椀の文化」が発展し、鎌倉時代以降は、匙を使わず箸だけを使用する日本独自の箸食文化が形成されたようです。
中国
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箸と匙がセット。箸でご飯、菜類を食べ、汁類、炒飯は匙を使用。
食卓の大皿に取り箸はなく、主人が自分の箸で客の小皿に取り分けるのが、親愛の情を表すマナーとされています。そのため箸の寸法が長く、頭から先までほぼ同じ太さの寸胴型。
木箸、竹箸、象牙箸などあり、彫刻など細工が豪華。
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朝鮮
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箸と匙を合わせてスジョと呼ばれるほど完全なるセット。ご飯や汁類などほとんどに匙を使用し、菜類に箸を使用。
食器は手に持たず、取り箸はなく直箸です。
銅、銀、ステンレスなど金属製。
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日本
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箸中心で、汁類は椀を手に持ち直接口につけて食べる。
直箸は嫌われ、取り箸を使用して盛り分けます。
木箸や竹箸はもちろん、漆箸、割り箸など多彩。
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正しい箸の持ち方
子育て・教育の一大原則として、こどもの個性を尊重し、創造性を重視し、自由にのびのびと行動させてやりたいという考えがあります。しかし箸の持ち方に関しては、この原則を振りかざすのは見当はずれなことだと思います。箸の持ち方は、何千年前からの先祖達が工夫し、改良し、洗練させてきた技術です。日本の食文化の構成要件として受容し、次の世代に正しく伝えていかなくてはならない技術だと思います。
サイズの目安:親指と人差し指を直角に広げて、このときの指の先と先を結んだ長さを「一咫(ひとあた)といいます。この一咫の1,5倍の長さが、その人にちょうどよい長さといわれています。一般的には、成人男性 23cm〜24cm 成人女性 21cm〜22cm。
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正しい持ち方:下の箸を、親指と人差し指の股部と、薬指の先端においてしっかり固定し、親指で押さえます。上の箸を、親指・人差し指・中指の3本で動かして、食べ物をはさみます。
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正しい使い方:上下2本の箸を動かすのではなく、下の箸はしっかり固定し上の箸のみ動かします。昔から「箸先五分、長くて一寸」といいますが、箸先1,5cm〜3cmを使い、あまり箸を汚さずに食べることが基本です。
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ちなみに、先月号でも書きましたが、私は右利きですが高校2年時から左手で箸を使用しています。知人に「両手で箸が使えると、食べるの速くていいね」と言われたことがありますが、口は1つのためそうもいきません。
お箸のタブー(嫌い箸)
明らかなタブーから、ついついやってしまいがちなものもあります。あらためてお箸のマナーを見直してみましょう。
受け箸
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箸を持ったままおかわりをすること
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移り箸
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あれこれとお菜ばかり続けて食べることは、卑しいこととされています
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かき箸
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食器のふちに口を当てて料理をかきこむこと
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空箸
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箸を一度料理につけておきながら食べないで箸を置くこと
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くわえ箸
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箸を下に置かず口にくわえたまま手で器を持つこと
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こじ箸
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食器に盛った料理を上から食べないで箸でかき回し、自分の好物を探り出すこと
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込み箸
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口にほおばったものを箸で奥へ押し込むこと
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探り箸
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汁物などを食器の中でかき混ぜて中身を探ること
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刺し箸
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料理に箸を突き刺して食べること
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指し箸
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食事中に箸で人または物などを指すこと
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叩き箸
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給仕を呼ぶ時に食器や食卓を箸で叩いて合図すること
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立て箸
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ご飯の上に箸を突き刺すことは仏箸とも言われ、死者の枕元に供える枕ご飯の時のみに許されることです
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涙箸
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箸の先から汁をぽたぽたと落とすこと
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ねぶり箸
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箸についたものを口でなめてとること
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二人箸
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1つの食器の上で二人一緒に同じ料理をはさむこと
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振り箸
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箸先についた汁などを振り落とすこと
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迷い箸
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どの料理にしようかと迷い料理の上であちこちと箸を動かすこと
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持ち箸
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箸を持った手で同時に他の食器を持つこと
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寄せ箸
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食器を箸で手前に引き寄せること
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渡し箸
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食事の途中で箸を食器の上に渡しておくこと
(この行為は「もう料理はいりません」という意味になります)
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