こどもの治療
おねがい
お子さんに「ちょっとみるだけ」「薬をつけるだけ」などと、うそを言わないでください。お母さんの言うことも、私どもの言うことも信用しなくなりますから。 不安や先入観を与えるような日常会話、例えば「言うことを聞かないと注射してもらいますよ」「歯を抜いてもらいますよ」などに注意して下さい。 おりこうに治療できた時はもちろん、泣きながらでも治療できれば、うんとほめてあげて下さい。大きな励みになります。 治療は最後まで続けて下さい。途中で中止・放置しますと病気は急速に進行し、取り返しがつかなくなることが少なくありません。 乳歯は、なぜ大切なのでしょうか?初めて生えた乳歯は、成長のあかしとして、うれしいものですね。乳歯は、生後6ヶ月ごろから生え始め、3歳くらいまでに、上下あわせて20本生えそろいます。乳歯を使う期間はごく短いのですが、その間に乳歯が果たす役割は重要です。「ものをかむ」という歯本来の役割はもちろん、「永久歯が正しく生えるための案内役」という、とても大切な役割をになっているのです。乳歯はすぐ抜けるからと、おろそかにはできません。乳歯を健康に保つことが、一生使う永久歯を丈夫にすることにつながるのです。 では、乳歯がむし歯になると、どんな弊害があるのでしょう。まず、ものがよくかめないため、発育に必要な栄養が十分に吸収されません。かたいものを嫌うなど、偏食の原因にもなり、こどもの成長を妨げます。また、よくかめないと、あごが発達せず、顔の形や永久歯の歯並びが悪くなります。ひどいむし歯や歯並びの悪さが原因で、性格が内向的になることもあるといわれています。 このように、歯の健康は心身のすこやかな成長に欠かせません。どうぞ大切に育ててあげてください。
味覚を育てることは、よい歯を作る第一歩です離乳期には、乳歯を健康に育てるために大切なことが2つあります。ひとつは、「味覚を育てること」です。離乳期の味の体験が、一生の味覚を左右するといわれています。この時期、食事にかたよりがあると、偏食になり、歯もからだも健康には育ちません。できるだけ多くの食品の味や舌ざわりに慣れさせましょう。 味つけは自然の味を生かした、うす味にします。この時期の味つけの甘さには、十分気をつけてください。いま甘味に慣れさせると、むし歯予防が大変です。3歳くらいまで、甘味は極力ひかえましょう。
「哺乳びんむし歯」に気をつけて!甘い飲み物を哺乳びんに入れて、長時間くわえさせておくと、前歯がとけたようなひどいむし歯になります。これは、「哺乳びんむし歯」といい、上の前歯によく見られます。哺乳びんで甘い物を与えると、その間、口のなかは砂糖づけの状態です。これでは歯を溶かすために哺乳びんを使っているようなもの。 哺乳びんはミルク専用にし、ジュース、果汁、スポーツ飲料、乳酸菌飲料はスプーンを使って飲ませましょう。また、きちんとしたしつけのためにも、授乳には、だらだら時間をかけないようにしてください。 よくかむことは、心身の成長を助けます。離乳期に、もうひとつ大切なのは「かむ練習をさせること」です。かむことは、食べ物を消化しやすくしたり、情緒を安定させたり、心身の発育のとても重要な役割を果たしています。また、よくかめば、歯肉(歯ぐき)やあごがしっかりして、さらによくかめるようになります。 この「かむ能力」は、離乳期に練習することによって、身につけるもの。この時期を逃すと、うまくかめないまま育つことがあるので、根気よく教えましょう。歯ごたえのあるものは、お母さんがゆっくりかむマネをしながら、与えてください。 かむ練習をさせるとき、気をつけたいのが、離乳食の内容です。口のはたらきは、成長するにつれて口唇食べ→舌食べ→歯ぐき食べ、と発達します。これにあわせて、離乳食もかたさや大きさを変えることが必要です。あまりにはやい時期にかたいものばかり与えたり、逆にいつまでもやわらかいものばかり与えたりしていると、かむ能力が身につきません。口のはたらきの発達に応じた食事を心がけましょう。 離乳の進み方には、かなりの個人差があります。一人ひとりの成長にあわせて進めることも大切です。
乳歯のむし歯は進行がはやく、注意が必要です。口のなかには、さまざまな細菌がすんでいます。これらの細菌は、食べ物に含まれる糖からデキストランというのり状の物質をつくります。こののりが、さらに細菌を歯の表面にくっつけ、細菌のかたまり=歯垢(しこう)を形成し、歯をおおっていきます。 この歯垢の中にいるむし歯菌(ミュータンス菌)が、糖から酸をつくります。酸は歯の大敵で、エナメル質をとかしむし歯をつくります。ですから、むし歯を防ぐには、だらだら間食しないこと、食べたらすぐ歯をみがき、歯垢を落とすこと、これがなにより大切です。
乳歯には、永久歯に比べてエナメル質がうすく、やわらかいという特徴があります。このため、むし歯になると進行がはやく、5〜6ヶ月で神経まで進むことがあります。歯の痛みはおとなでも嫌なものですが、あんな思いをこどもにはさせたくありませんね。痛みを訴えてからでは、治療も大変です。お母さんがまめに口のなかを観察してあげましょう。外から見えにくいむし歯もありますから、年に2〜3回の歯科検診もあわせて心がけてください。早期に発見すれば、治療もラクチン。子供を歯医者さんぎらいにしなくてすみます。 乳歯のケアはお母さんの役目です。こどもが自分で歯をみがけるようになるまでは、お母さんのケアがとても大切です。なんでも口に入れたがる6ヶ月ごろに、歯ブラシを与えて慣れさせておくと、1〜2歳からの習慣づけがスムーズにいきます。 前歯が生えたら、ひざに寝かせてみがいてあげてください。嫌がるときは、まねごとでもよいです。この時期は、歯みがきを習慣づけることが大事なのですから、まずは1日1回ていねいにみがくことを目標にします。むし歯は寝ている間になりやすいので、寝る前の歯みがきは、毎日の習慣にしたいものですね。
歯が生えそろったら、自分でみがく練習をさせます。こどもの好きな音楽をかけたり、お母さんがいっしょにみがいたりし、やる気をリードしてあげましょう。あまり手出しをしないで、「自分でみがく」という気持ちを大切にしてあげてください。でも、まだ上手にみがくことはできません。必ずお母さんが仕上げみがきをしてあげてください。 おやつは砂糖をひかえて、きまった時間におやつは、成長期のこどもの栄養を補う「食事」です。また、楽しみでもあり、こどもの心を育てる上では欠かせません。でも、与え方が悪いと、むし歯の原因になります。 おやつは、時間と量を決めることが大切です。おやつ=お菓子、とは限りません。たとえば、季節の野菜や果物を利用する、飲み物は牛乳にする、それだけでも歯のためによく、栄養面からも理想です。また、おやつは十分に空腹にしてから与えるようにしてください。そうすれば、喜んでおやつを食べ、食生活によいリズムをつくれます。 こどもが一度甘い味をおぼえてしまうと慣れっこになり、さらに甘い物を欲しがるようになる恐れもあります。与えすぎには、くれぐれも注意が必要です。
|
子育てマガジン「はっぴーママ信州版 創刊号(2004年3・4月号)」で、小児歯科編Q&Aにお答えいたしました。