[AM10:50 若駒寮・長瀬健一の部屋]
……。
……。
……高遠厩舎からの用事とは、何だったのだろうか……。
疑問の中で、主人公の背中にナイフが突き立った。またバッドエンドだ。
……。
……だめだ、気になっちまう。片山のことといい篠崎のことといい、今日の俺はどうも気が散るな。
まったく、今度だけだぞ……。
自分に言い訳しながら、俺は携帯を再び手に取り、リダイヤル機能を使って厩舎にかけた。
『はい、高遠敏久厩舎!』
ほとんど呼び出し音が鳴らないうちに、高遠先生の声が飛んできた。……何やら、まともではない慌てように聞こえる。
「長瀬ですけど」
『長瀬! なんでさっき出なかったんだ!!』
……俺の背中は、たった今の主人公さながらに鋭いもので貫かれた。高遠先生のこんな怒鳴り声は聞いたことがない。
「な……何かあったんですか?」
『何かあったんですか、じゃない! すぐ厩舎まで来い!』
「え? あの、意味がよく……」
『ダンデライオンが壁に頭をぶつけて意識不明なんだ! 応急処置の人手が足りないから呼ぼうとしたのに……死ぬかもしれないぞ!』
……頭の中が、一瞬にして冷たくなった。今の俺こそが、本来の俺なのかもしれない……なぜか、そう思った。
「すみません! すぐ行きます!」
俺はそれだけ言って携帯を切り、セーブすることもなくゲームの電源を落とすと、部屋を飛び出した……。