[AM11:00 高遠敏久厩舎・外]
「高遠厩舎からの呼び出しを無視しようとする」……それは結果的に、最大級の選択ミスとなってしまった。
自分が自分に対してする後悔よりも強い気持ちに突き動かされながらチャリンコを飛ばし、俺はひたすら高遠厩舎を目指した。
途中、トレセン中心部の私道で桂木らしき女が携帯で誰かとしゃべっているのが見えたが、それ以外は何も目に入らなかった……。
時間にして寮を出た数分後、俺は高遠厩舎に着いた。
……そこにはすでに馬運車が来ていて、ぐったりした3歳牝馬・ダンデライオンが、5人ほどの手によって乗せられているところだった。
その中には高遠先生もいた。また、篠崎に試練を課した東屋先生もいた。東屋先生は調教師免許を取る前はここで獣医をしていたらしい。呼び出しに応じようとしなかった俺の代わりに、高遠先生が呼んだのだろう。
チャリンコを降りた俺は、余計な言葉をかけることなく、その輪に加わって手を貸した。
そうすることしかできなかった。
やがて馬運車は閉まり、診療所へと走り去っていった。
「先生……すみません……」
「今はそんなことを言っている場合ではない。我々も診療所へ行くぞ」
「はい……」
そして、俺たち厩舎スタッフと東屋先生は、荷物運び用の軽トラックの荷台に乗り込んだ。