[PM0:30 若駒寮・長瀬健一の部屋]
高遠厩舎に置いていたチャリンコで、俺は寮に帰ってきた。
俺は俺、他の誰にもなれない……それを痛いほどに感じる場所、自分の部屋。
ここに座って冷静に考えてみると、自分らしさを棄てて生きていた日々が、いかに苦しかったかがわかる。
……片山を、信じるな……。
……やつは、自分のためなら仲間のものさえ奪う……。
……それを罪と感じることすら、ない……。
そう自分に聞かせた3年間は、あまりにも長かった。
今では、あの分岐点さえも記憶の彼方だ。
もし篠崎や桂木があの日を忘れることができたなら、俺もまた、悪い夢を見ていたとでも思い込んで忘却を選ぶだろう。
だが……そんなことは、できはしないのだ。
篠崎は桂木の宝物を失わせた自分を、桂木は篠崎が死にかけたのは自分のせいだと、今でも責め続けている。
俺も、あのときの自分の選択を、いつまでも忘れられない。
そして、もうひとり……。
片山。
……やつは、本当にここへやってくるだろうか。
真実を抱えて、この部屋を訪れるだろうか……。
来る。
どれだけ遅くなっても、必ず。
俺は、そう強く信じた。