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[PM1:00 若駒寮・長瀬健一の部屋]

……30分後。
ノックが、俺の意識を乱した。
「誰だ?」
「……俺だ」

来た……!
俺は、ドアに飛びついた。

片山は、いくつかの物を胸に抱えてやってきた。何なのかは、よくわからない。
「よく来たな。入れ」
俺はドアを全開にしてやった。
……やつは、無言で入ってきた。そこに、いつもの不必要な明るさはない。

「……まずは、これを見てほしいんだ」
やつは余計な前置きをせず、座り込んだ床に、持っていた物を並べた。
……そのうちのひとつは、見覚えがあった。忘れようにも忘れられない、桂木のブローチ。競馬学校の入学記念に水商売の姉貴からもらったという、20万相当のあれだ。そして、これを持ってきたということは、俺の希望「片山が罪を悔いている」は当たっていたわけだ。それだけで俺は、例え心の奥でも、こいつを信じ続けていてよかったと思った。
だが、わからないのは残りの物だった。それらはふたつの写真立てで、それぞれに篠崎と桂木の写真が入っていたのだ。
篠崎との相性はあの通りだし、俺が見たところ、こいつは桂木も苦手そうにしている。なのになぜやつらの写真を、それもご大層に写真立てなどに入れて持っているんだ……?

「こいつは……確か、桂木が持っていたブローチだな」

……俺は、片山がこいつを盗んだ瞬間を見たのは伏せておくことに決め、やつの話を聞き始めた。

 

 

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