[PM4:20 福島県東部の海岸・海の家の影]
「おい……!」
なんと片山は、海の家の影から身を乗り出すと、波打ち際に向けてブローチを投げてしまったのだ。
俺は、茫然としてその行方を見守るしかできなかった。
ブローチは、かつて野球部で外野手だった片山の手によって大きく飛び、篠崎と桂木の向こうの海中に落ちた。
「お前……何やってんだよ! ここまで来て!」
俺は裏切られた気持ちで、再び海の家の影に戻った片山に詰め寄った。
……するとやつはその場に座り込み、小さくつぶやいたのだった。
「……いいじゃないか。あのふたりが幸せなら、それだけで……」
……。
俺の中で、穏やかな波が揺れた。
その通りだ。
篠崎と桂木にとっては、真実を知らされることがベストとは限らない。
むしろ、その逆と言って間違いないだろう。
それならば、やつらが歩み寄れない原因であるブローチだけを返して、裏の真実は何ひとつ告げずにおこう……。
片山の出した答えは、俺が考えていた以上に素晴らしいものだった。
そして……俺は、こいつを信じ続けていて本当によかったと思ったのだった。