[PM4:30 福島県東部の海岸・砂浜]
「そうだ……」
篠崎くんは、何かを思い出したように自分の携帯を出した。
「どこへかけるの……?」
「片山だよ。何か、どうしてもこうしなきゃいけないような気がするんだ」
よかった……。やっぱり彼は、片山くんを友達として認めてくれるみたい。
これで、みんな仲よしだわ。
「あ、片山……さっきはごめん。謝ってすむことじゃないけど、お前の気持ちも知らないで……」
やがて電話が通じたらしく、彼はぎこちなくしゃべり出した。
「実は、桂木さんに聞いちゃったんだよ。お前が今日、企画してくれてたことの話。あ……でも、彼女を責めないでくれよ。……ありがとう。パーティーを考えてくれたことも……」
……彼の瞳から、涙がこぼれる……。
私はそれを、今までの彼の孤独を洗い流してくれる、恵みの雨のように思った。
「……それで……今、桂木さんと一緒に海に来てるんだけど……いや、そんなことじゃなくて……帰ったら、予定通りそのパーティーをやってほしいんだよ。お前がぼくのためにしてくれようとしたことを、これ以上無駄にしたくないから……」
素敵な言葉ね、と私は思った。
そして、この人を好きになってよかった、とも。
「『Thrilling Love』だね。本当にありがとう。なるべく早く帰ってそっちに行くから……あ……」
彼は携帯を耳から離し、困ったように笑った。きっと、片山くんが「真理子ちゃんと一緒なんだから慌てるな」とでも言って一方的に切ったんだろう。
……ありがとう、片山くん。
私も、少しだけ笑った。
そして……。
予感のようなものがあった。
気がつくと、私は彼に手を握られていた。
私は、その手をしっかりと握り返した。
ふたりは見つめ合う。
彼の瞳の中に、私がいた。
そして、そのさらに奥に……。
『好きだ』
そう書いてあったように見えた。
全然見当違いかもしれないけど、そう思いたかった。
……本当は、片山くんや長瀬くんを待たせないように、もうそろそろ帰るべきなんだろう。
でも……もう少しこのままでいたい。
私は、ためらうことなくそう思った。
奇跡の星に、願いをかけたんだもの。
それくらい、許されるよね……?
もう少しだけ、このまま……。
星に願いを −あの日の忘れ物・桂木真理子編−
完