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[PM4:10 福島県東部の海岸・海の家の影]

「ここは……!」

長瀬に連れられてやってきたのは……3年前のあの日以来になる、あの海だった。
この姿を見るまで、忘れていた。ここへの道筋も、風景も。
思い出したくないと考えているうちに、思い出せなくなっていたらしい……。

……誰もいない海。海水浴場は、実際の季節よりも早く夏を終わらせる。それも今、思い出した。
この駐車場にも、誰も……。

「あっ……」

ただひとつ、停められているバイクがあるのに気付いた。
それは……紛れもなく真理子ちゃんのだった。
……彼女は、ここに来ているのか?
それを知っていて、長瀬は俺をここへ連れてきたのか……?
きっとそうなのだろう。だから、写真立てやブローチを持っていけと言ったのだ。

長瀬が、運転席から俺をドアの方へ押す。外に出ろ、という意味らしい。
俺はそれに従い、持ってきた物を手に、車を出た。
そして、ふたりであの砂浜へと下りる……。

「……!」

弾かれたように、俺はそこにあった、シーズンを終えた海の家の影に隠れた。
長瀬がとっさに俺に続き、そして角から顔だけを出して、波打ち際の方を見やる。
やつは今、数秒前の俺と同じ光景を見ている……。

……真理子ちゃんと篠崎が、砂浜に並んで座っていたのだ。
ふたりはぴったりくっつき、いいムードだ。話している内容はさすがに聞こえてはこないが、愛を語らっている可能性は大いにある。この場所、そして何よりも、ふたりが人目を忍んでここまで来ていたことが、その証拠だ。

俺は、手の中のブローチを眺めた。
そして、考えた。

……これを彼女に返して、すべてを話して謝ろうと思っていた俺。
だが……せっかくふたりがあそこまで歩み寄れたのに、そのムードを俺の醜い告白で壊してしまっていいものだろうか……?

答えは決まっていた。

だから、俺は……。

 

 

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