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[PM4:10 福島県東部の海岸・砂浜]

篠崎くんが私を誘ったのは、東屋先生に「お前は他人に無関心すぎるから直せ。今日は誰かを遊びに誘って、その先で写真を撮ってこい」という「試練」を受けたからだった。彼の意思ではなかったわけだけど、それでも、その相手に私を……そしてなぜか、その行き先にここを選んでくれたことが、私にはとても嬉しかった。
東屋先生に借りたというカメラを砂浜に置き、海をバックにして、私と彼はオートシャッターで写真を撮った。
それも、とびっきり仲よさそうに。

「……誰かの隣にいるのがこんなに楽しいってわかっていれば、ぼくの人生もちょっとは変わってたかもしれないのにな……」
その後、砂浜に並んで座った私たちは、ゆっくり流れる時間の中で話をしていた。
「実は、厩舎で留守番してたとき、『連れていきたい店があるから』って片山が誘いに来たんだ。それをぼくは、君との約束があったとはいえ、ろくに話も聞かずに追い返した……。悪いことをしたなと思ってるよ。あいつも、あいつなりにぼくのことを考えてくれてたんだろうに」
やっぱり、断ってきたんだわ。それも、どうやら片山くんは、パーティーだとさえ言えなかったみたい。
……ううん、違う。「連れていきたい店があるから」という言いまわしからして、きっとわざと言わなかったのだ。その意味も、私にはわかる。
どうしよう。これ、言うべきなのかな……。
「どうかしたのか?」
「……これ、本当は言っちゃいけないって約束だったんだけど」
ごめんね、片山くん。
私は心で謝って、その話を口にした。
「片山くんね、今日あなたのために、誕生日のパーティーを企画してたのよ」
「えっ……!!」
まったくの予想外だったんだろう、彼は大声を上げて驚いた。
「何も知らせずに誘って、お店についたら私と長瀬くんがいて、びっくりしたけどすごく嬉しい……って形にしたかったんじゃないかしら。長瀬くんを札幌から呼び戻したのも片山くんなのよ」
「……」
彼は無言になった。きっと、胸の中ではいろんなものが渦巻いているんだろう。
「あなたに誘われたときにちょっとためらったのも、その先約があったからなの。片山くん、どうしても自分があなたを誘いに行きたいから、例えあなたに会ってもパーティーのことは言わないでって……」

「……あいつ、いいやつだったんだな。あいつにはぼくの心はわからないって思ってたけど、何もわかってなかったのは、ぼくの方だ……」
やがて彼は、この海のように深くそうつぶやいた。

きっと、これで彼らふたりも仲よくなれるに違いない。
私は、そう強く信じた。

 

 

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