[AM10:20 北ブロック]
何をするでもなく、それから30分ほどもたたずんでいただろうか。不意にぼくは、聞きたくもない声を聞いてしまった。
「お、篠崎! こんなとこで何してんだ?」
言わずと知れた、片山。ぼくが一番苦手な、一にも二にも騒がしい男が、自転車で通りかかったのだ。
「……別に」
ぼくは横に停めておいた自分の自転車に跨り、すぐにそこから走り出した。
「お……おい!」
放っておけばいい。どうせ、くだらない話で時間を浪費させるだけだろう。こっちは忙しいのだ。
トレセン中心部の私道まで出てきて、ぼくは考えた。
とりあえず、寮まで行こう。きっと桂木さんも長瀬もそこにいる。それからどうするかは未定でも、何もしないでいるよりは遥かにいい。
こうしてぼくは、独身寮『若駒寮』へと行ってみることに決めた。