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慶桜(けいおう)クリニックの公式ホームページ

コラムColumn

コラムのご案内

 当院で重視している疾患や治療方法などについて順次記していくことにしました。特に初めて当院を受診されることを検討されている方は是非一読されるようお勧めいたします。 下記は目次です。
(近日中に書き換え予定です。2022.4月中には出来るといいのですが・・・)

 1.双極スペクトラム障害ないし双極性障害
 2.ベンゾジアゼピン系薬剤の問題点(副作用・常用量依存)
 3.不安障害について(パニック発作を中心に)
 4.「治る」と「良くなる」について
 5.気分障害や不安障害がなぜ治らないのか
 
 
 


コラム本文

1.双極スペクトラム障害ないし双極性障害 
 多くの方にとって双極スペクトラム障害は耳慣れない言葉だと思います。それももっともなことで、双極スペクトラム障害の概念自体が未だ学問的にも定着していないことにもよると考えられます。ただし、この概念自体は非常に有用ですので簡単にではありますが触れることにいたします。
 双極スペクトラム障害に関して重要なのは以下の点だと思われます。
@)気分の波によって日常の生活に支障を来している状態ないし症候群
A)双極とはいっても受診する際にはほとんどの場合うつ状態である
B)うつ病と誤診され治療を受けると、うつ状態が遷延したり、頻繁に再発したり、躁状態とうつ状態とが深刻化したり、最悪の場合には自殺や傷害事件に至ったりという深刻な問題を生じる恐れがある

@双極スペクトラム障害をどう考えるか?

 スペクトラムという言い方はそもそも何なのか?というと、「様々な移行型がある」位に考えてはと思います。症状や経過に関してみれば従来躁うつ病と言われていた双極T型感情障害以外にも気分の波が問題になる疾患と呼べる状態がありますよ!と思ってください。例えば、軽い躁状態とうつ状態とが見られる双極U型感情障害や躁状態はみられないが何回もうつ状態を繰り返す反復性うつ病、程度は深刻ではなくてもうつの状態が慢性的に見られ時折深刻なうつ状態が二番底のように起きる気分変調症などです。但し、気分変調症に関しては持続性のうつ病状態と考えるのが主流のようですが、当院では気分のレベルよりも気分の波を優先することにしているので、双極スペクトラム障害のひとつと考えております。
 原因の面から見た場合に甲状腺機能障害や副腎皮質ホルモンの異常など身体的要因や治療に用いられている薬物(特に強い抗うつ薬など)、アルコール常用の影響など内因性の精神疾患以外にも様々な原因で起こることが知られています。
 双極T型感情障害(いわゆる躁うつ病)のように多くの人から問題のある疾患と認識され易い場合には、当然医者も診断に迷うことはないわけです。診断を誤る恐れが少ないという意味で、学問的にはT型に関心が向いて、たとえば日本うつ病学会のガイドラインでもT型の治療法が主に取り上げられるということも納得がいくわけです。ではU型は重要ではないのか?というと、そんなことはありません。当院のように普通の人のための心身医学を追及している診療所では寧ろ U型やその他の双極スペクトラム障害の方が遥かに重要と考えております。誰にでも診断できるT型よりも見過ごされやすい、ともすれば単純なうつ病と誤診されやすい軽い気分の浮き沈みを的確に診断つけたときに「医者をやっていて良かった!」と実感できるわけです。見方を変えれば軽い気分の浮き沈みの双極スペクトラム障害の診断は、治療者によってぶれる余地が大きく、学問的にも学者先生Aは双極スペクトラム障害は決して多くはないと言うかと思えば学者先生Bは予想以上に多いと言うといった状況で一応診断基準らしきものはあっても、グレーゾーン が非常に大きいものとなっていると考えられます。では当院では学者先生A・Bのどちらの説を支持しているのかといえば・・・・それは既にご推察のとおりです。
 それから、以前のコラムでは書かなかったことなのですが、当院では厳密に学会の診断基準に合致した双極U型感情障害は実はほぼT型なのでは?と考えています。つまり、未だ本格的な躁状態が見られていないだけで今後出現する可能性がかなりあるという意味においてです。やや専門的な話になりますが、国際的な診断基準では診断においては将来への予想は排除され、現時点の症状だけで行うべきことになっておりますのでこのような問題が起きるのです。
 「今はU型、でも10年後は知らない!」という。
 実は、当院で一番関心があるのは双極U型感情障害よりも普通の人よりやや気分の浮き沈みが大きい程度で大抵は軽い躁状態と軽いうつ状態とを繰り返していく人たちなのです。このような人たちはもちろんT型ではありませんしU型にも当てはまりません。ではいったい何なのか?というと「ストレスで発症したうつ病」といって受診する人たちの多くはこのタイプでは?と考えております。どの型にも当てはまらないのでこの人たちも双極スペクトラム障害に含まれると大まかな方向付けをしていきたいと考えております。

A双極スペクトラム障害の患者さんが初診でみえる場合には殆どがうつ状態である?

 実はそうでもない場合が結構あります。患者さんの訴えや念頭にある症状がうつ状態を示唆するものが殆どということであって、時間をかけて診察しているうちに中に軽く気分の高揚した状態が見えたり、うつ状態発症前に躁状態の症状が混じっていた(または”混じっている”)ことに気づかされたりすることは決して少なくありません。
 同時に躁とうつとのエピソードが見られる場合に混合性エピソードというのですが、エピソードという言い方が日本語としてこなれていないと思われますので今後はコラムの中では「混合状態」と記載することにします。同じように大うつ病エピソードという言い方は「うつ状態」、躁病エピソードは「躁状態」とさせていただきます。いくら学問的で高尚であっても一般の感覚からするとピンと来ない専門用語は当院のホームページには合いそうにないと考えるからです。
 さて、この混合状態ですが、非常に患者さんにとっては辛い状態です。何故かといえば、頑張れば何とかなってしまう感じがあるからなのです。有名なストレス実験にサルを使った電撃回避ストレスを扱ったものがあります。タイミングよくボタンを押せば電撃刺激を回避できていた個体(A)とストレス回避に関して はその個体(A)に任せるしかなかった別の個体(B)とでは、条件が変わってボタンを押しても電撃が回避できなくなったときにどちらのほうが胃潰瘍になりやすかったか?というものがありました。答えは当初回避できる選択ができた個体(A)の方だったのです。意外に思われる方が多いかもしれません。しかし、努力すれば何とかなるかもしれない状態(双極性感情障害の混合状態)の方が抵抗できないので人任せにしてしまった状態(1日中うつ状態に陥っている状態)よりも努力が報われない時のストレスが大きいという結果になったということです。言い換えれば、うつ状態で通院するという決定をしてしまった患者さんよりも、時々元気な状態が混じるので頑張れば通院しなくても何とかなるのかな?と治療を受けることに抵抗している患者さんの方が辛い可能性が大きいということになります。
 これも双極スペクトラム障害を初診時から見落とさないことが重要という根拠になっていると思います。

B双極スペクトラム障害がうつ病と誤診されると患者さんの被害は計り知れない

 双極スペクトラム障害とうつ病とでは治療に用いられる薬物療法が全く異なってきます。双極スペクトラム障害では気分の波を小さくする目的で気分安定薬(抗不安薬の別名”安定剤”とは異なりますが紛らわしいですね!)や非定型抗精神病薬が用いられるのに対してうつ病では(本ホームページではこれまで悪者としてしばしば登場してきた)抗うつ薬が用いられることになっています。もし誤診されて治療が開始されたとしたら予想される事態は、まずうつ状態が遷延することでしょう(遷延性うつ病ないし難治性うつ病)。そして改善と再燃とを繰り返すようになります(反復性うつ病)。反復しているうちに周期が短縮してきたり(ラピッドサイクラーrapid cycler化)、躁状態がはっきりしてきたりもします(躁転)。それらに伴って社会的機能ないし社会適応が悪化していきます。すなわち、仕事ができなくなったり、家事がこなせなくなったり、近所の付き合いができなくなったり、学業が続けられなくなったりという問題が生じるわけです。前述したように他人に対して暴力を振るったり自殺に至ったりすることになれば最悪の事態というのは説明するまでもありません。
 誤診以外にも患者さんの社会的機能を損なう可能性のあるものは沢山あります。そのひとつが疾病利得です。疾病利得と言っても患者さんは決して得するわけではありません。これは誤解の無いようにお願いいたします。疾病利得とは患者さんが病気であるために責任ある役割を免れたり、仕事の質や量を軽減してもらえたり、休養させてもらえたりすることくらいにお考えください。これらは本当に病気が深刻な場合には必要な対応と考えられます。しかし、い くら疾病だとはいっても過度に感情的な共感や援助を得られるということになってくると話は別になってしまいます。いわゆる「分かってもらえた!」という感覚です。更に「現在本人が苦しいのは全部会社や近隣や学校が本人に対してストレスになっているせいだと分かってもらえた!」という被害者意識が強化されてしまうとそこから立ち去ることはかなり困難になると考えられるのです。ストレスをとかく強調する考え方は医療経営的に見れば患者さんから好評価を得ることができることは間違いありませんが、一方で本人の社会的機能を損なわせるという場合があり得るということです。このことは双極スペクトラム障害に限ったことではありません。念のため。

C双極スペクトラム障害が疑われる場合

・うつ病のように思えても・・・
 治療にによってなかなか改善しない場合
 直ったように思えてもすぐに再燃してしまう場合
 いったん社会復帰できても再発を繰り返す場合
 反対に治療に過度に反応しあまりにも早く
元気になってしまう場合
・うつ状態ではあるが・・・
 身体疾患や内服薬で精神症状が引き起こされている可能性が大きい場合
  甲状腺機能亢進症や副腎皮質機能障害、副腎皮質ステロイド使用者など
 アルコールを長期かつ比較的大量に摂取し続けている場合
 とかく多忙で睡眠時間が長期的に不足している場合
・うつ状態の発症にあたって・・・
 出産や特定の季節という状況と関係がある場合
 血縁のある家族に何らかの精神的問題がある場合
 発症年齢が相対的に若い場合

D双極スペクトラム障害は決して悪いこととは限りません!

 このことは特に強調しておきたいと思います。
 詳しいことは診察の際に申し上げたいと思います。
 双極スペクトラム障害の治療に関しては、「診断を間違えさえしなければ大きな問題は起きない。」とだけ申し上げておきたいと思います。



2.ベンゾジアゼピン系薬剤の問題点(副作用・常用量依存) 

 ベンゾジアゼピン系薬剤には抗不安作用・鎮静作用・筋弛緩作用・抗痙攣作用の4つの効果が知られており、今日では主に抗不安薬・睡眠導入剤そして抗てんかん薬として用いられております。
 これらのうちで、最も使用に問題が少ないと考えられるのはベンゾジアゼピン系抗てんかん薬です。(あくまでてんかんの治療に用いられた場合に限った話ですが。)何故かといえば、てんかん発作抑制が生命にかかわる重要な課題だからです。折角患者さんのてんかん発作抑制に適していて、ほかに選択肢が無かった場合には、それでもベンゾジアゼピン系薬剤だからという理由から 使用を止めにするというのは如何なものかと考えるからです。

@ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤
 使用が止むを得ない場合があるベンゾジアゼピン系抗てんかん薬に対してベンゾジアゼピン系睡眠導入剤では注意を要すると考えられます。今日ではロゼレム・ベルソムラ・デエビゴという3種類のベンゾジアゼピン系薬剤とは作用機序が異なる、依存性や筋弛緩作用、呼吸抑制作用などの有害作用を心配しなくても良い睡眠導入剤が使用できるようになりましたので当院では不眠症の治療に当たってやむを得ず睡眠導入剤を使用する場合には殆どの場合、これらの薬剤を処方しております。

 参考までに、高山赤十字病院の薬剤部から日赤医学会で発表された研究報告を引用しておきます。同研究は入院患者さんの転倒事故に着目し、転倒しやすい睡眠導入剤の順位付けをし たものです。以下のような順番になりました。

ハルシオン>デパス>サイレースまたはロヒプノール>ネルボン>ユーロジン>(セルシン)>レンドルミン>リスミー・マイスリー・アモバン

 ハルシオンで一番転倒が多かったという結果です。
 これは、マウス懸垂試験で知られたベンゾジアゼピン系薬剤の筋弛緩作用の強い順番にぴたりと一致しています。セルシンは睡眠導入剤として用いられることは少ないと思われますがベンゾジアゼピン系薬剤では基準となる薬剤ですので敢えて加えさせていただきました。なお、デパスは睡眠導入剤としても後述する抗不安薬としても用いられています。当院ではほかに依存形成の問題も考慮して、ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤ではハルシオン・デパス・サイレース(ロヒプ ノール)は絶対に処方しないことにしております。またアモバン(ゾピクロン)とリスミー(リルマザホン)に関してはほかに選択肢が無い場合にだけやむを得ず処方し、でき るだけ速やかにより安全な(ましな?)薬剤に変更しております。すなわち、前述したロゼレム・ベルソムラ・デエビゴなどです。なおアモバン(ゾピクロン)とマイスリー(ゾルピデム)は分子の構造がベンゾジアゼピン系薬剤と大きく異なることから非ベンゾジアゼピン系薬剤に分類されており比較的安全性が高いとされておりますが、マイスリーに関しては特に10mg錠ではせん妄状態が出現する危険性が高いことと効果が減弱してきた昼前くらいの時間帯に不安症状が出やすいことから当院では処方しないようにしております。マイスリー10mgを服用して入眠するまでの間に記憶が無くなって、大活躍される場合は決して少なくありません。しかし、マイスリーで速やかに寝付けることからこちらから質問しないと気にかけていない患者さんは少なくないようです。翌日友人から昨夜、意味不明のメールが本人から送られてきたと指摘されたり、気づいたら冷蔵庫の前に腰を下ろしていて周囲に食べ散らかされていて冷蔵庫の中身が殆ど空になっていたりという患者さんの話は決して珍し くは無いのです。しかし、これらの例はまだ笑えるレベルと言える方です。マンションの上層階に住んでいる方が「ベランダの柵を乗り越えたときに気づいた」となると聞いていてこちらまで怖くなってしまいます。
 ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤についていろいろと書いてきましたが、当院では睡眠障害の治療の目標は最終的に睡眠導入剤がいらなくなることであると考えており眠れない原因への治療を優先しているということを最後に記しておきます。


Aベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用
 ベンゾジアゼピン系抗不安薬とはいわゆる「軽い安定剤」として多くの医療機関で処方されている薬剤です。我が国ではこの抗不安薬の処方が他の先進諸国と比較して6倍から20倍も多いということが以前から指摘されておりますが一向に減る気配がありませ ん。これには、即効性があり速やかに不安や不定愁訴を軽減してくれることや退薬症状(わかりやすくいえば禁断症状)のため一定期間服用を続けてしまった人では服用をやめられなくなってしまうこと、心身医学の専門医でなくても安易に処方して良いと考えているしている医師が多いことなどが原因している様に思わ れます。当院ではベンゾジアゼピン系抗不安薬を麻薬みたいな薬と考えておりますが、(この考え方が少数意見であることは承知しております。)これらの薬剤は合法薬であり処方することは学会においても寧ろ推奨されております。しかし、実際には決して安全でも軽い薬でもありません。

抗不安薬の有害な副作用を以下にまとめてみます。これらはどちらかと言えば高齢者で問題になることが多いものです。

a.筋弛緩作用による転倒や転落
b.呼吸抑制作用による呼吸不全の増悪
c.記銘力障害
d.鎮静作用による意識混濁や興奮


なお、当院ではベンゾジアゼピン系抗不安薬以外にも下記の薬剤に関しては処方しない方針ですのでご了解ください。繰り返し申しておきますが、後発医薬品でも同様です。

@)デパス・ソラナックス・ワイパックス・レキソタン・メイラックス・リボトリールなどのベンゾジアゼピン系抗不安薬(ほかにももっとあります)
A)ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤のうちハルシオン・ロヒプノール/サイレースなど急速に意識を混濁させ問題行動を引き起こしたり、依存性や筋弛緩作用が深刻なもの、非ベンゾジアゼピン系ではあってもマイスリー
B)リタリン・ベタナミン・コンサータなどの中枢刺激薬
C)ベゲタミンAおよびBのようにバルビツール酸剤を含む薬剤およびブロバリンのような依存性のある尿素系薬剤
D)気分の波を大きくしてしまう恐れのある一部の抗うつ薬


Bベンゾジアゼピン系抗不安薬常用量依存について
 ベンゾジアゼピン系薬剤では医師の処方を守って服用していたとしても、一定期間服用した場合に依存症に陥っていることが多いことが知られています。これは常用量依存と呼ばれる症状で1980年代までは知られていなかったものです。依存症に陥るとまずこれまでと同じ効果を得るために必要な抗不安薬の1回あたりの量が増加し、有効時間が短縮するため服用回数が徐々に増えるということが起こります。これらは耐性形成と呼ばれております。
 更に、抗不安薬の服用を急に止めた場合や作用時間の短い抗不安薬の場合には服用間隔を開けただけで身体の不調や精神の不安定さに悩まされるようになります。これは退薬症状と呼ばれております。退薬症状というと高尚な感じがしますが、要するに禁断症状のことです。この退薬症状のためますます服用が止められなくなるわけです。
主な退薬症状を以下にまとめておきます。
a.不安の増大
 不安感ばかりでなく不眠、動悸・頻脈・呼吸困難感・食欲不振・吐き気・下痢・
 便秘、めまい、痺れなど様々な不調が含まれます
b.焦燥感やいらつき
c.筋肉の過度の緊張や頭痛の増悪
d.身体の異常知覚や幻覚
e.けいれん発作や意識消失


 当院では確かに自らがこのような薬剤を処方しないようにしております。しかし、
薬物依存の治療を専門に行っているわけではありません。依存性のある薬物に関しては服用されている患者さんが現在診療を担当している医師とよく相談することが一番と考えております。ご了承のほどお願いいたします。

参考:主なベンゾジアゼピン系抗不安薬の特徴

  超短時間型  短時間型 中時間型  長時間型 
高力価   デパス ソラナックス
ワイパックス 
 レキソタン リボトリール
メイラックス
レスタス
セパゾン
 中力価      セルシン  
 低力価  リーゼ  *セディール  セレナール  コントール

*セディールはベンゾジアゼピン系薬剤ではありませんが、参考までに書き込みました
・高力価のものほど「強い」、低力価のものは「弱い」
・超短時間型のものほど「切れ味がいい」
・同じ高力価型でも強弱はあり、たとえば抗不安作用や依存になりやすさで言えば最強のリボトリールは2位のデパスの2倍は強い
 抗不安作用ではセルシン2mgの強さを1とすれば、
 リボトリール0.5mgの強さは10
 デパス0.5mgの強さは5
 ソラナックス0.4mgとワイパックス0.5mgとの強さは4
 メイラックス1mgの強さは3〜4位でしょう




3.不安障害について(パニック発作を中心に)  

 不安障害に含まれる疾患には、パニック障害・社会不安障害・特定の不安障害や全般性不安障害などがあります。いずれも不安に基づく様々な症状や回避行動といって不安が起きそうな場面の避けようとすることによって却って社会生活に支障を来しやすいという共通点があります。
 不安に基づく症状としてはパニック発作と広場恐怖が重要ですのでそこから始めることにいたします。

A.パニック発作
診断基準:
 強い恐怖または不快を感じるはっきりと他と区別できる期間で、そのとき以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が突然発現し、10分以内にその頂点に達する。
@動機、心悸亢進、または心拍数の増加
A発汗
B身震いまたは震え
C息切れ感または息苦しさ
D窒息感
E胸痛または胸部の不快感
F嘔気または腹部の不快感
Gめまい、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
H現実感喪失(現実でない感じ)または離人症状(自分自身から離れている)
Iコントロールを失うことに対する、または気が狂うことに対する恐怖
J死ぬことに対する恐怖
K異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
L冷感または熱感
 ここで重要なのは以下の三点でしょう。
・パニック発作がみられたからといって直ちにパニック障害というわけではない
・パニック発作そのものよりも発作を経験したことで生ずる社会的機能の後退が問題
・後述する広場恐怖が合併するとより深刻化しやすい

B.広場恐怖
診断基準:
@逃げるに逃げられない状況または場所、またはパニック発作やパニック様症状が予期しないでまたは状況に誘発されて起きたときに、助けが得られない場所や状況にいることへの不安。
 広場恐怖が生じやすい典型的な状況には、家の外に一人でいること、混雑の中にいることまたは列に並んでいること、橋の上にいること、バス・列車または自動車で移動していることなどがある。
Aその状況が回避さているか、またはそうしていなくてもパニック発作またはパニック様発作が起きることを非常に苦痛または不安を伴いながら耐え忍んでいるか、または同伴者を伴う必要がある。
Bその不安または恐怖性の回避は以下のような他の精神症状ではうまく説明されない。
例えば、社会恐怖(社会不安障害)、特定の恐怖症、強迫性障害、外傷後ストレス障害、または分離不安障害

C.その他の不安障害
@社会不安障害
 人前での発現や行動を行うことや失敗することに対する強い不安。
 それによって日常生活に支障を来す。
A特定の恐怖症
 高所・尖端・虫や状況など特定の対象に対する恐怖と回避行動
B全般性不安障害
 様々な対象や状況に対する不安や過敏な傾向

 個々の不安障害についても追々コラムで取り上げていきたいと思います。
不安障害全体として重要なことを簡単にまとめておきます
・誤った治療を受けると不安を回避するための行動が助長され社会的機能が低下したり、抗不安薬の薬物依存症に陥ってしまったりする恐れがある
・不安障害では気分障害など他の精神疾患や甲状腺機能障害などの身体疾患の合併が比較的多い。
・社会的機能の改善のためには行動療法の併用が不可欠

ここでは当院としての不安障害全般に対する治療方針について、上記3点の解説の形でまとめてみたいと思います。

@)「誤った治療を受けると不安を回避するための行動が助長され社会的機能が低下したり、抗不安薬の薬物依存に陥ってしまったりする恐れがある」について

 まずはじめに心身疾患に対する視点の話からはじめてみます。心身疾患を診る場合にどのような視点があるか?ということです。DSMという精神疾患の国際分類ではW-TRまでは多軸診断システムといって5つの独立した観点から患者さんの問題を捉えていく方法が採用されておりました。5つの視点というのは以下のようになって おります。
 第一に症状や重症度
 第二に患者さんの性格傾向や生い立ち
 第三に身体的要因
 第四に心理社会的要因(いわゆるストレスなど)
 第五」にに社会的機能の状態
 これらを総合的に記載することが勧められているわけです。
 ここではこの5つの視点のうち最初の「症状や重症度」と最後の「社会的機能」を中心にお話していきたいと考えております。要するに、不安障害を治療していく上で症状が重要なのか?それとも社会的機能のほうが重要なのか?という話です。
 コラムを順にお読みになった方には簡単に理解できると思います。そうです、社会的機能の方が重要なんです。従来パニック障害のように強い恐怖感を伴うけれども殆どの場合身体的には問題の無い心身疾患でも、症状を押さえ込むことが治療と考えられてきたように思われます。そのために重宝がられてきたのがベンゾジアゼピン系抗不安薬であったり、最近ではSSRIという抗うつ薬であったりというわけです。
 では、抗不安薬やSSRIによって不安障害が治るのか?と聞かれれば、おそらくNO!ということになると思います。結局は「いつまたパニック発作が起きるか?」と不安で抗不安薬やSSRIが手離せない状態が続き、そうしているうちに薬物依存に陥ってどんどん内服薬が強くなってしまう場合が多いのではと考えられます。肝心の社会的機能の改善はどこかに行ってしまい、いつの間にか通院の目的が抗不安薬やSSRIを処方してもらうことになっている患者さんは少なくないと推察いたします。ではどうしたら良いのでしょうか?その話の前にひとまず次のテーマに移ることにいたします。

A)不安障害では気分障害など他の精神疾患や甲状腺機能障害などの身体疾患の合併が比較的多い

 不安障害に限ったことではありませんが、心身疾患を見る場合に一番重要なことは身体疾患を見落とさないということです。この場合の身体疾患には薬物の身体症状への影響も含まれます。もう一度パニック発作の診断基準を思い出していただければ、そこには死の恐怖やコントロール喪失感のような精神的な症状よりも心臓や肺、胃腸、神経系に関係する症状のほうがむしろ多く取り上げられている事に気づかれると思います。それらについてひとつひとつ身体疾患が関与してはいないかと除外していくことがまず第一歩であり、いきなり精神的なものと決め付けることは危険であるとお分かりいただけると思います。近年は特定検診などの検診が熱心に行われるようになり当院受診前に身体疾患があることを知っている患者さんが多くなったことは好ましいと考えられます。しかし、検診では決して甲状腺機能や女性ホルモンなどホルモン系に関しては検査されているとは限りませんので、それらの疾患に関する除外診断は依然として重要となっております。

B)社会的機能の改善のためには行動療法の併用が不可欠

 先ほど差し掛けにいたしました「どのように治療をしていくのが良いか?」についてまとめます。まず、身体疾患の除外をできる限り行うことです。ついで 「適切な」薬物療法。最後に訓練(=行動療法)です。認知行動療法という言い方もありますが、宗教みたいな儀式がかったやり方がどうかな?と思っておりますので敢えて行動療法と言っておきます。表現や方法は多少違っても目的とするものは殆ど同じとお考えください。
 なお、「適切な薬物療法」や「訓練の仕方」についての具体的な内容についてはここでは触れないことにいたします。



4.「治る」と「良くなる」について

 詭弁のように思われる方も多いかもしれませんが、医学において「治る」と「良くなる」との二つの概念の区別は非常に重要です。では日常は殆ど同じように使われている「治る」と「良くなる」とはどのように異なるのでしょうか?その理解のためにこれまでの医学の歩みについて極めて簡単に考えてみたい と思います。
 古代において最も重要でつまり急を要する疾患は外傷や感染症のような急性疾患でした。もちろん外傷や感染症は今日でも重要な疾患で、必ずしも治るとは限らないということは周知のとおりです。しかし、外科手術や抗菌剤の発達で徐々に直せる範囲は広がってきています。一方で、今日重要視され毎日何らかのメ ディアで報じられている生活習慣病は、寿命の長期化に伴って増加してきた部分が多く古代でもいたことは間違いないとは思われますが、極少数であったと考えられます。ガンやリウマチ性疾患に至ってははじめから不治の病とされてきました。生活習慣病やガン、リウマチ性疾患などの慢性疾患は今日でも治らない疾患ではあります。しかし、目覚しい医学の進歩で治らないまでも運がよければ普通の生活を長く送れる方も徐々に増えてきております。運がよければというのはちょっと意地が悪い言い方だったかもしれません。言い換えれば「早期に発見され早期に治療を開始し患者さん自身が疾患を進行させないよう生活を改善し続けていくことができれば」いわゆる慢性疾患があっても普通の生活を長く送れる場合が徐々に多くなってきたといったところでしょう。
 さて前置きが長くなりましたが、要するに「治る」とは原因からすっかり取り除かれて改善したことであり、「良くなる」とは原因は取り除かれていないものの生活に支障を来たすことがない状態まで改善したことと言うことが出来ると思います。急性疾患で回復した例が「治る」場合であり、慢性疾患のうち幸いにして普通の生活がおくれている例が「良くなる」場合ということになります。残念ながら今日でも診療科によらず治せる疾患は決して多くはないのです。通院する 目的は「良くなる」である場合が多いのです。
 心身医学の領域にこの「治る」と「良くなる」とを当てはめてみると以下のようになります。「治る」疾患は一過性の反応。例えば、心因反応などであり、そのほかの心身疾患は殆どが「良くなる」可能性のある疾患ということです


5.気分障害や不安障害がなぜ直らないのか   

 今回は気分障害と不安障害とについて治療上の問題について取り上げていきます。テーマが2つですので何回かに分けて書くことにします。

@「治る」と「良くなる」について (既述の内容ですが重要です)

 「治る」とは原因からすっかり取り除かれて改善したことであり、「良くなる」とは原因は取り除かれていないものの生活に支障を来たすことがない状態まで改善したことと言うことが出来ると思います。急性疾患で回復した例が「治る」場合であり、慢性疾患のうち幸いにして普通の生活がおくれている例が「良くなる」場合ということになります。残念ながら今日でも診療科によらず治せる疾患は決して多くはないのです。通院する目的は「良くなる」である場合が多いのです。
 心身医学の領域にこの「治る」と「良くなる」とを当てはめてみると以下のようになります。「治る」疾患は一過性の反応。例えば、心因反応などであり、そのほかの心身疾患は殆どが「良くなる」可能性のある疾患ということです。

A気分障害がなぜ良くならないか?  
 先述したように殆どの心身疾患はおそらく「治る」疾患ではなく「良くなる」疾患であると言うことになります。その意味で「気分障害や不安障害はなぜ治らないのか?」と言うテーマは意味が無いことになります。したがって、今後は「なぜ良くならないのか?」ということについて考えていきたいと思います。本来もっと良くなってもいいはずなのになぜ十分に回復しないのかというテーマに変わります。
 これまでこのコラムを読んでこられた方にはお気づきの点が多いかと思いますが、気分障害の治療に当たって重要な点がいくつかあります。そしてそれをはずしては良くなるものも十分に良くならなくなってしまうということです。以下のようなことです。

@ 身体疾患による精神への影響は重要で見落としてはならない
A うつ状態や躁状態、混合状態を呈する疾患は身体要因を除外できても気分障害以外の精神疾患でも起こり得る
B 気分障害の中で考えてみると、うつ状態が見られた場合にうつ病なのか双極スペクトラム障害なのかの鑑別が難しい
C 治療の段階ではベンゾジアゼピン系抗不安薬が併用されることで何となく落ち着くことから不十分な改善で「善し」とされてしまう恐れがある
D 患者さんの飲酒に日本人の医師はとかく寛容すぎる
E 実は最近気づいた最も重要な事


@ 身体疾患による精神への影響は重要で見落としてはならない
 これは医学に携わるものにとって最も重要なことだと思います。身体疾患の中には今日でも原因がはっきりしないものや分類が出来ないものも存在していますが、幸いにして日常の診療ではめったに遭遇することはありません。殆どがよくある身体疾患なのです。それらによる精神への影響を見落とさないことは診療の第一歩であり、常に気をつけていないといけないものです。「心の問題」や「ストレス」ということが最近ではしきりに強調されます。たしかにそれらによる精神への影響はあるとは思いますが、それらによって殆どすべての心身の症状が説明できてしまうため肝心の身体疾患が見過ごされる恐れが大きいと考えられます。身体疾患を最初に、心の問題は最後に検討するという順番が重要です。

A うつ状態や躁状態、混合状態を呈する疾患は身体要因を除外できても気分障害以外の精神疾患でも起こり得る
 仮に、診察を進めてありうる身体疾患が除外されたとします。その患者さんの精神状態がうつ状態にあるとしたら、うつ病であると即断してはやはり誤診につながる恐れがあります。ほかの精神疾患の可能性も検討していく必要があります。例えば、統合失調症の初期、認知症の初期、双極性感情障害、不安障害での二次性うつ状態、身体表現性障害や解離性障害、精神に影響のある薬物の影響などいくつもが考えられます。「うつ状態が見られたからうつ病→抗うつ薬処方」という短絡思考も気分障害が改善しない要因のひとつと考えられます。何故ならこれらの疾患の境界は極めて曖昧で病状が行ったり来たりする場合が非常に多いからです。

B 気分障害の中で考えてみると、うつ状態が見られた場合にうつ病なのか双極スペクトラム障害なのかの鑑別が難しい
 気分障害で心療内科を受診される患者さんの初診時の状態像は殆どがうつ状態です。しかし、有名なLancetという医学雑誌に寄稿された報告によれば 「双極性感情障害であっても初診時にうつ状態であった場合に正しく双極性感情障害と診断されるまでに平均で3年かかる」とのことでした。それくらい難しいと言うことでしょうか?これでは簡単に良くなるはずがありません。正しい診断に到達するまでに3年も罹っていては、社会人なら失業、学生なら不満足な学業成績ということになってしまいそうです。見方を変えれば、初診時に双極性感情障害を見落とさないことは重要ということでしょう。

C 治療の段階ではベンゾジアゼピン系抗不安薬が併用されることで何となく落ち着くことから不十分な改善で「善し」とされてしまう恐れがある
 抗不安薬は服用後比較的早期に目の前にある不安を軽減してくれる効果があり、処方した場合に殆どの患者さんから好ましい評価をもらうことが出来る薬剤です。しかし、初期の改善だけで留まってしまい続けて服用しても社会的機能が十分に改善せず、いつの間にか通院の目的が「もとの社会的機能に回復すること」から「抗不安薬を処方してもらうこと」にすり替わってしまう場合が決して少なくありません。これも気分障害が良くならない原因のひとつと考えられます。

D 患者さんの飲酒に日本人の医師はとかく寛容すぎる
 心身医学の教科書では断酒または飲酒制限はどの疾患の治療でも基本とされております。特に気分障害の患者さんにおいては「うつ状態」「抗うつ薬」「アル コール」は自殺のTrias(三つ組み)と呼ばれています。(更に当院では「不安」「抗不安薬」「アルコール」を事故のTriasと呼んでおります)アル コールは気分の波の振幅を大きくすることが知られており特に気分障害の治療においては断酒が必要なのです。しかし、世の中にはアルコールに寛容な先生たちが多いように見受けられます。見方を変えれば原理原則を重視するか、それとも患者さんの今の気持ちを重視するかという違いだと思います。これは前出の抗不安薬を処方しないか処方するかにもいえることで日本の医師の多くは原理原則重視の欧米の医師よりも患者さんの気持ちを重視すると言えるのでしょう。しかし、一方で肝心の病気が良くならない原因のひとつになっていると考えられます。

E 実は気分障害の治療で上記のような教科書的なことよりも遥かに重要なことに最近気づいたのですが、この場では明らかにするつもりはありません。通院中の方には初診の時にほぼ全員に説明していることなのですが、誰もがその気になれば見ることが出来る「この場」でそれを明らかにすることは様々な差しさわりがあると考えられますので、控えさせていただきます。


B不安障害がなぜ良くならないか?   

 これまで本ホームページをお読みになってこられた方には殆ど自明の事かもしれませんが敢えて書かせていただきます。パニック障害や社会不安障害、強迫性障害や特定の恐怖症などの不安に基づく様々な精神的・身体的不調を呈する心身疾患がいつまでも良くならない理由は以下のようだと考えられます。
@ 身体疾患による精神への影響は重要で見落としてはならない
A さまざまな身体症状を呈するを呈する不安障害の身体要因を除外できても、表面に出やすい不安障害の背後に存在する気分の変動を見落としてはいけない
B 不安障害の中で考えてみると、一人の患者さんに複数の不安障害の症状が見られることは珍しくない。
C 治療の段階ではベンゾジアゼピン系抗不安薬が併用されることで何となく落ち着くことから不十分な改善で「善し」とされてしまう恐れがある
D 患者さんの飲酒に日本人の医師はとかく寛容すぎる
E 最近気づいた最も重要な事


@ 身体疾患による精神への影響は重要で見落としてはならない
 これは気分障害の場合とまったく同じです。寧ろ、不安障害の場合の方が、身体症状により重きが置かれる傾向があるため、身体疾患が影響している可能性が大きいと考えられます。何回も申し上げてきたように、「身体因や薬物の影響を最初に疑う、最後にストレスの問題を考える」という順番が大切です。

A さまざまな身体症状を呈するを呈する不安障害の身体要因を除外できても、表面に出やすい不安障害の背後に存在する気分の変動を見落としてはいけない
 教科書的には、不安障害と気分障害などほかの精神疾患との合併が比較的多いとされています。当院でもこのことには賛成です。寧ろもっと踏み込んで、不安障害を見たら背後にある気分の波が隠れていないか疑ってみましょう!と言いたいくらいです。そして、目に付きやすい症状の不安障害と見落とされがちな症状の気分障害とどちらが治療上優先されるべきか?さあ、どちらでしょう。同じような状況に合っても不安の症状が出やすい時と出にくい時とがあるのは殆どの不安障害の患者さんから指摘されていることです。

B 不安障害の中で考えてみると、一人の患者さんに複数の不安障害の症状が見られることは珍しくない。
 これも教科書で、よく指摘されていることです。考えてみれば当たり前のことではないでしょうか?つまり、パニック障害でも社会不安障害でも強迫性障害でもお互いに他を排斥するものではないということです。例えば、パニック障害にかかったなら社会不安障害にはかからないということは考えられません。寧ろ、 心身医学領域の疾患分類自体が人工的なものなので病気に悩む人がいたときに無理やりに診断基準に当てはめ、「あなたは○○○病です。」とか「あなたは △△△病です。」と診断しているようなものと考えていただきたいのです。あたかも目隠しして大きな象を触ってみたら、偶々鼻を触った人は「象は丸い長い管 のようだ」と言い、耳を触った人は「象は大きくてうすい平たいものだ」といい、胴を触った人は「象は太くて全体の形がわからないほどだ」というようなものです。視点によって、見た時点によって様々な病像がみられるので果たして厳密に診断をつけることにどれほどの意義があるのか?最近ではゆるく不安障害のグループ(スペクトラム障害)くらいに考えたほうが良いのではと考えています。要するに不安障害を細分化して厳密な診断をつけて、それぞれに特別な治療を施すことが果たして患者さんの社会的機能改善につながるのか?ということです。それよりも不安症状が出やすい原因(もちろん「疾患としての」が優先で心理的が原因はその後です)を考えていったほうが良いのでは?と考えております。治療薬に関してもAという薬剤はパニック障害に適応をとったとか、Bという薬剤が社会不安障害に適応をとったとかといったことが問題にされます。果たしてAはパニック障害には効いて社会不安には効かないのでしょうか?Bは社会不安には効いてもパニック障害には効かないのでしょうか?そもそも効くとはどんなことを意味しているのでしょうか?

C 治療の段階ではベンゾジアゼピン系抗不安薬が併用されることで何となく落ち着くことから不十分な改善で「善し」とされてしまう恐れがある
 これも気分障害に関して指摘されたこととまったく同じではあります。しかし、不安障害の場合「不安の除去」という錦の御旗のもとに様々なガイドラインにも抗不安薬の使用が記載されている点でより問題は深刻になってしまうと考えられます。改めて、
ストレスや症状自体が問題なのか?それとも社会的機能への影響の方が問題なのか?と いうことをお考えいただきたいと思います。この項目に関しては、本当はこの「不安障害がなぜ良くならないのか」というテーマの中で一番重要なことかもしれませんが、患者さん自身がどのような医療を望むかということに深く関係いたしますのでこれ以上の具体的な治療法に関する言及はここでは避けたいと思います。但し、とりあえず症状が軽くなる治療と症状ないし疾患を克服するための治療とは全く別のものだと指摘しておきます。

D 患者さんの飲酒に日本人の医師はとかく寛容すぎる
 これも先の「なぜ気分障害が良くならないのか」で述べさせていただいたことと同じです。「うつ状態」「抗うつ薬」「アルコール」は自殺のtrias、 「不安」「抗不安薬」「アルコール」は事故のtriasと申し上げました。但し、これはあくまで伝統的な精神医学での考え方であります。進歩的?な医師の中には「多少のアルコールは良いんだよ」とのたまう方も居ると伺っておりますので、あくまで患者さんがどの考え方を選択されるか?という問題なのかも知れません。当院では勿論治療中はアルコール禁止という伝統的な考え方を採用しております。

E 不安障害の治療に関しても最も重要なことがほかにあると最近気づいたのですが、問題のない範囲で簡単に記載しておきます。それは発作自体は無くなる物ではない、したがって治療の目標を症状が出なくなることではなく、症状があっても出来るだけ普通に生活できることにしなければいつまでたっても社会的機能は良くならないということです。


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