18号 2001年6月 薬で歯の神経を残す

 

 2001年6月3日は、塩尻市レザンホールにて第32回 歯の健康を守る県民のつどいが行われました。

4日〜10日は歯の衛生週間で、今回のスローガンは「歯がつくる こころの元気 からだの元気」でした。

 

歯の神経の重要性

 従来のむし歯治療では、細菌に感染したの部分は徹底的に取り除くことが原則とされ、感染が神経にまで及んでいた場合は、その神経も取り除かれてきました。

 しかし、こうしていったん神経を取り除かれた歯は、再度むし歯になってもしみる・痛むの感覚や防御反応がなくなり、歯の組織の修復機能・成熟機能も止まるばかりでなく、木が枯れ木になると脆くなるのと同様に、歯も構造的に脆くなります。さらに、若年者に見られる、歯根(歯の根の部分)が完成していない歯では、その歯根の完成も困難になります。 また、神経を取るという処置は、直接目で見えない口のなかで、しかも、複雑な形態・構造をもつ歯根の内部に対して、手探りで行うために高度な技術と経験を必要とするため、残念ながら治療の予後は、必ずしもすべて良好とは言いがたいものがあります。

 高齢になっても快適な食生活ができ、豊かな老後を過ごすことのできる「8020」を達成するためにも、歯を若くして枯れ木とすることなく、長期にわたって維持することがぜひ必要になってきます。

 

歯の神経に感染する細菌とその抗菌剤

人間を始めとして、生物はみな酸素を取り入れて生きていると思われがちです。ところが、酸素が存在しない環境でも生きることができる細菌がいることがわかってきました。それらの細菌を「嫌気性(けんきせい)細菌」といいます。その嫌気性細菌のうち、酸素が存在すると生きていけない細菌を「偏性(へんせい)嫌気性細菌」といいます。

新潟大学歯学部の岩久正明教授・星野悦郎教授らによる研究から、歯の神経に感染する細菌は、この偏性嫌気性細菌が90%以上を占めているということが明らかになりました。

そこで、それらの偏性嫌気性細菌に対して、トリコモナス膣炎の治療薬であるメトロニダゾールが特異的に有効であり、また、このメトロニダゾールに無効な嫌気性細菌に対して有効な抗生物質:セファクロルとシプロフロキサシンを加えた3種混合抗菌剤を用いることにより、歯の神経に感染している細菌の殺菌が可能であることが明らかになってきました。

 

治療方法

まず、以前につめたつめものと、ぼそぼそのむし歯を取り除いた後、メトロニダゾール・セファクロル・シプロフロキサシンの3種混合抗菌剤を、セメントと呼ばれる材料に混ぜて歯の炎症部分にのせ、さらに、仮にセメントをつめてむし歯の穴を覆っておくだけという簡単な方法です。

その後、数ヶ月おきに薬剤を交換しますが、進行したむし歯ほどその交換回数は多くなります。その際は、できるだけ麻酔をしません。その理由は、神経が生きているかどうか確認するためでもありますが、処置の度に麻酔をすることにより、神経自身の治癒力を妨げる可能性があるからです。

しかし、明らかに神経まで達したむし歯は、成功率が低くなりますし、神経が化膿してしまっているほど進行したむし歯には適用できません。ですから、少しでもしみたり、痛みを感じた場合はもちろん、痛みがなくとも、1年に1回は定期検診をかねて、歯科医院を来院することをお勧めいたします。

また、この3種類の薬剤は、それぞれ個々には内服用として厚生労働省の認可を得て一般に広く使われていますが、この方法のように混ぜて、しかも歯の中にとどめておく場合の認可はいまだ得られていませんので、必ず、歯科医師に十分な説明をしてもらい同意(インフォームド・コンセント)後に行ってください。

 

 

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